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幸運の器  作者: ユキ。


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15/19

3-1

 もうすぐ夏休みということもあり、小学校は午前授業の期間に入っていた。まだ下校時間には早い時間だったが、小学校のほど近いところでリュウとリンは待機していた。もう夏真っ盛りと言っていいほどの日差しの下で、二人はどう考えても暑苦しい格好をしている。動きやすそうではあるが、黒一色でコーディネートとしているので見てるだけで汗が出そうだ。

「リュウ、これは一体ーーー」

 リンは、自分たちの格好を見回しながらため息を吐く。

「どうした、リン?やっぱ、尾行すんなら目立たない格好だよな」

「それはそうですが・・・。どう考えても、逆に目立ってますよね」

「そうか?ホラ」とリュウは得意げにサングラスを取り出してかけた。

「変装もバッチリだ」

 リンは眉間に手を持ってきて悩ましげな顔をした。

「リュウ。普通にしてください」

 リュウも少し悪ふざけが過ぎたと思ったのか、サングラスを外すと近くの喫茶店を指差した。

「とりま、そこで張り込むか」

 リンは、やれやれといった風に頭を振ると同意するように店の方へと足を向けた。


 その喫茶店は、客の姿が全くなかった。まだ、開店前なのかもしれなかったが、表の看板は「OPEN」となっていたので、ただ単にあまり流行っていないだけなのかもしれない。ただ、二人にはとても都合が良かった。席も選び放題なので、外がよく見える窓際の席に座った。

 年配の男性のマスターが一人でやっているようで、落ち着いた雰囲気に二人は好感を持った。

「めっちゃ穴場じゃね?ココ」

「そうですね。もう少し流行っていても良さそうですが・・・」

「めちゃくちゃコーヒー一杯が高いとか?」

 メニューをパラパラと見ていたリンは首を横に振る。

「いえ、良心的な価格ですね」

「じゃあ、めっちゃマズイとか?」

「それは実際に頼んでみないことには分かりませんねーーーすみません」

 リンが声をかけると、マスターと思しききっちりとスーツを着こなし、気品ある口ひげを生やした年配の男性が「ご注文はお決まりですか?」と声をかけてきた。

「はい。僕はコーヒーをお願いします。リュウはどうしますか?」

「この店のオススメって何?」

 男性は、メニューを開いてサンドイッチを指さした。

「お見受けしたところ、少々空腹を感じているようですが、満腹になるまで食べる訳には行かない模様ですね。それでしたら、コチラをオススメさせていただきます」

 リュウとリンは目を見開いてお互いに見合うと、その眼差しを男性へと向けた。

「すげー!どうしてわかったの?」

 男性は穏やかに微笑むと「長いこと接客業をしておりますので、お客様が何を欲しているのか概ね予測することができるようになっただけですよ」と答えた。

「いえ、例えそうでもそれだけでは・・・」

 納得できない様子のリンを差し置いて、リュウは満面の笑みで「じゃあそれで!」と注文した。

 

 しばらくすると注文した商品が目の前のテーブルに並べられた。

「うわっ!マジで美味そう。いっただきまーす!」と言うなり、リュウは卵サンドを口いっぱいに頬張った。

「んん、んんんんんんん!」

「行儀悪いですよ。まあ、何言ってるか分かりませんが・・・」そこでリンはコーヒーを一口飲むと目元を和らげて「何を言いたいかは分かります」とだけ言った。

 リュウは、あっという間に卵サンドを平らげるとマスターに向かって「俺もコーヒー一杯!」と告げた。

「かしこまりました」

 マスターは優雅な所作でお辞儀をすると淹れたてのコーヒーをカップに注ぎ、すぐにリュウの前へと置いた。

「もしかして、俺がコーヒー飲みたくなるのもわかっちゃった?」

 マスターはにこやかな笑みだけ残して去っていった。

「かっけー」

「まあ確かにとてもスマートな方ですね」

「おっ?リンが素直に人を褒めるなんて珍しいな」

「何ですかそれ。僕は何時でも公正に物事を見るようにしているだけですよ」

「まっ、でも確かにあのマスター只者ではない感が半端ねーよな」

 チラリとマスターに目をやったリンは同意するように頷いた。


 それからしばらくは特になんの変化もなく、二人はただ窓の外を眺めていた。

 その窓からは、小学校の正門がよく見えた。ほどなくして、小学生たちがちらほらと下校を始めた。もうすぐ始まる夏休みを楽しみにしているのか、みんなキラキラとした笑顔を見せている。その様子を、リュウもリンも微笑ましく眺めていた。ほとんどの生徒が下校したころ、目当ての人物が現れた。

「おっ?」

「来ましたね」

 二人は急いで会計を済ますと、喫茶店を後にした。店を出る直前に「卵サンドもコーヒーも美味かったです。また来ますね」とリュウがマスターに声をかけるとマスターは、再びとても優雅な所作でお辞儀をすると「またのお越しをお待ちしております」と告げて穏やかな笑顔で二人を見送った。

 二人が出ていった後、奥からもう一人若い男性が顔を出した。

 マスターは、その青年に「これでよろしかったでしょうか」と尋ねると、青年は「ああ、助かった。私はあまり表立って動けないからね。これからも頼むよ」と告げると、その青年も店を後にした。その様子をマスターは複雑そうな表情で見送った。


 店を出た二人が追っていたのは、小学校から出てきたショウだった。

 ショウは、数名の友人と談笑しながら帰っている。分かれ道が来る度その輪が小さくなっていき、ついにはショウ一人となった。ショウが一人になったところで、どこからともなくショウの後をつかず離れずついていく人物が現れた。その人物は、特に尾行に長けているようではなく、ただ邪魔にならないようについていってるだけのようだった。

「あの人物は何でしょうね」

「なんとなくだけど、ショウを見守ってんじゃねーかな」

「見守る?何のために」

「さあ?それはわかんねーけど。とにかく、ショウに危害を加える気はなさそーだけどな」

 ショウが、当たりを気にしている様子は全くない。ただ、だんだんとうつ向きがちになっている気はする。しばらくするとショウの足が止まり。そのままずるずるとしゃがみ込むとゆっくりと倒れてしまった。思わず飛び出そうとしたリュウをリンが止める。ショウの後をつけていた人物がいち早くショウに駆けよったからだ。そして、慎重に抱きかかえるとゆっくりと歩きだした。リュウとリンは、そのままその人物の後をついていくことにした。どのくらい歩いただろうか?どんどんと住宅街からは離れていき、ついにはオフィス街とも呼べるようなビル街へとやってきていた。小学校からはかなり距離がある。これを毎日登校してきていたのなら大したものだった。いや、実際にはこの距離を自分の足で登校していないのかもしれない。今のショウの状態を見ればそれが正しいように思える。


 ショウを抱えた人物は、マンションと言うにはあまりに無骨なビルの中へと入っていった。

「なんだココ?どっかの会社か?」

「それにしてはどこにも社名らしきものもないですし、ましてやビルの名前すらありませんね」

「なーんか、やな感じすんだよなー」

「リュウのそれは当たる確率が高いですからね。少し気を引き締めてーーー」

 リンが言い終わらないうちにビルの中から明らかに堅気とは思えないような人物が数名出てきた。

「おい、お前ら!ここに何の用だ!」

「いやーちょっと道に迷っちゃいまして」

 リュウは、特に怖がる素振りも見せず声をかけてきた人物に話しかけた。

「実はですねココに行きたいんすけど」とポケットからスマホを取りだして適当な場所を相手にみせた。

 男はしばらく訝しんでいる様子だったが、リュウのおおらかな気に充てられたのか表情を緩めるとどれどれとスマホを覗き込んだ。

「ああそれならこの道を真っ直ぐに行って、二本目の信号を右に曲がった辺りにあるよ」

「ありがとうございます!マジ助かりました!」

 厳つい男たちに笑顔で手を振りながら二人は一旦その場を離れた。

「あの人たち、一見怖そうに見えっけどいい人たちだったな」

「いい人かどうか分かりませんが、親切な人達ではありましたね」

「まあ、とりあえずショウがあそこに何しに行ったのかを調べねーとな。あのビル、地図にも載ってねーみてーだから」

 地図が開いたスマホをリンに見せながらリュウは真剣な目でそう言った。


 二人は例のごとく、百目鬼家の茶室にいた。勝手知ったるなんとやらで自分たちでお茶を入れてのんびりとしていた。そこにカノンが入ってきた。カノンは、寛いでいる二人を見ると呆れたような表情を浮かべた。

「高校生って暇なの?」

「んなわけあるか!めっちゃ忙しいっつーの」

「でも、今日学校行ってないんでしょ?」

「人聞き悪いことを言わないで下さい。僕たちの学校は一足先に夏休みに入っているだけですよ」

「ふーん」

 あまり興味がなさそうにカノンは応えながらカノンも自らお茶を入れて、二人の前に座った。

「で、何かわかったの?」

「何で俺らが何か調べてるって思ってんだ?」

「調べてないの?」

「いや、まあ調べてっけど」

「カノン。あまりリュウをからかわないで下さい」

「おまっ!からかってたのか!?」

「別にからかった訳じゃないけど、二人だけでズルいなって・・・」

 少し寂しげな表情を見せるカノンの頭をリュウは優しく撫でながら「別に仲間はずれにしてる訳じゃねーからな」と言った。

「もう、何でリュウくんはすぐに頭を撫でるの!」

「嫌だったか?」

「別にそーは言ってない!」

 不思議そうなリュウに対して、リンはヤレヤレと言った感じで話に割って入った。

「とりあえず、経過報告だけでも済ませますよ」

 二人は、今日の出来事をカノンに話して聞かせた。そしてすぐさま、この街の地図を取り出して難しい顔で眺めだした。

「どうした?何か問題か?」

 カノンの様子に気がついたリュウが声をかける。

「ココ」

 カノンが地図のある一点を指さした。そこは、特に何の変哲もない空き地のように見えた。

「ああ」

 リンが何かに気がついたように声を上げた。カノンはその様子を見て頷いた。

「そうなの。地図がズレてるの」

「どういうことだ?」

「見てください」

 今度はリンが先程カノンが指さした場所と自分のスマホの地図とを並べておいた。リンはスマホに映し出された地図の中心を指す。

「本来ならここに空き地があるはずなのです。しかし、この地図だとビルが立ち並んでいるだけ。先程ショウが入っていったビルは本来ならこのビルとビルの間に位置しているはずなんです」

 リュウはしばらく2つの地図を見比べながら首を傾げた。

「なあ、こっちの紙の地図ってもしかして百目鬼家のものか?」

 カノンはこくんと頷いた。

「つーことは、市販の地図でもスマホと同じ感じになってる可能性が高いっつー事か」

「おそらくそうなのでしょうね」

 リュウは、百目鬼家の地図を指さしながら「カノンはこの場所何か知ってんのか?」と聞いた。

「リュウ、その聞き方おかしくないですか?」

「いや、いいんだよ。たぶん、ココは百目鬼家にとっても何か意味がある場所なんだよな」

 カノンは、少し青ざめた表情のまま頷いた。

「この場所は封印したはずの場所なの」

「「封印?」」

 二人の声がハモった。

「そう、もうずっと前それこそ数百年前に起こった事件の中心地なの」

「事件ってあまりいい響きではないですね」

 カノンの顔色はさらに悪くなる。

「カノン。話したくないなら話さなくてもいいぞ」

 カノンは、それでもしっかりと首を横に振ると真剣な表情で二人を見た。

「二人には聞いてほしい。今になってこの場所が出てきたことに意味がある気がするから」

 リュウもリンも、カノンの覚悟を感じ取って静かにカノンの話に耳を傾けた。

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