2‐8
ひとまず、ショウの担任である遠藤にはハルカからそれとなく聞いてもらうことにした。
一旦、小学校から離れリュウたち三人は百目鬼家のいつもの茶室に戻っていた。
三人がめいめい腰を下ろすと、徐にリンがカノンに詰め寄る。
「カノン。知っていることは全て話してください」
「こら、リン。そんな眉間に皺寄せてるとカノンに嫌われるぞ」
「別に構いませんよ」
「んなこと言って、リンが子供好きなの俺は知ってっぞ」
「それとこれとは関係ありません」
「そうなのか?」
「大体カノンは子供らしさがありません」
言いすぎたと思ったのかリンはチラリとカノンを見た。しかし、カノンはどこ吹く風で静かにお茶を啜っている。
「ほら見てください!可愛げがないじゃないですか!」
「そうかー?メッチャ可愛いけど。例えばーーー」
そう言ってリュウはカノンの頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「ちょっとリュウくん!やめて!もう子供じゃないんだから!」
顔を真っ赤にして抗議するカノンだが、その様子はどこか嬉しそうにも見えた。
「こう言うところ」
得意そうなリュウを見て、リンは思わず吹き出してしまった。
「あはは。何言ってるんですか。単に嫌がられているだけじゃないですか」
今度は優しくカノンの頭にポンと手を乗せて顔を覗き込みながら「そんなことないよな?」と聞くと、カノンの顔がまたみるみる赤くなって、ついには耳まで真っ赤になってしまった。
「あれ?怒った?わりーホントに嫌だったか。ごめんな?」
そう言いながら、またカノンの顔を覗き込む。カノンは顔を俯けてしまって表情が見えない。ただ、さらに耳の赤さが増したようにも見える。
「リュウ。そう言うとこですよ」
「は?何が?」
「あなたに関わる女性が不憫だってことです」
「はあ?わけわかんねー・・・。えっ?じゃあハルセンセにも迷惑ってことか?」
少し情けない声を出しながらリンを縋るようにみる。
「さあ?それは本人に聞いてください。少なくともあなたがハルカさんを好きなことはあまり言いふらさないほうがいい気がするしますけどね」
「何でだよ!多分俺は、この先もハルセンセ以外好きにならないと思うぞ」
「ハルカさんが他の人を好きでも?」
「ああ。変わらない」
「どこから出てくるんですか、その自信は」
「わかんねーけど、ハルセンセを一目見た時から『この人だ!』っつー気持ちだけは確かだったから、俺は俺の気持ちに従うだけだ」
コホンと小さな咳払いが聞こえた。
「あっ。わりー話がズレたな。で、今後の対策はどうすっか」
「まずはカノンの話を聞くことからです」
カノンは、コクンと頷くと口を開いた。
「百目鬼家は、王杯の守護者という話はしたと思うけど、そのために集められるだけの情報を集めることから始まるの」
カノンの話によると、カノンが生まれてから二年後に王杯の存在が確認された。と言うのも、カノンの身体にある特殊なアザが現れたからだ。そのアザは、盾のような形をしている。百目鬼家には、王杯と守護者はほぼ同時に産まれると言う文献が残っていた。守護者の目印になるのがそのアザだった。
「そう言えば、コウの身体にも変な形のアザがあったな。盾っぽくはなかったけど」
「そう、王杯と守護者そしておそらく空杯にも少し変わった形のアザがあるはずなの」
しかし、アザが目印になるとは言え端から見える場所にあるとは限らない。王杯の場合は、守護者であるカノンがいるので大体の位置は把握できるため、その範囲内で特に目立っていたコウにあたりをつけて調査を開始したらしい。アザの確認は取れなかったが、コウとカノンが同い年ということもコウが王杯だと確信に近づけるものであった。そこで、カノンをコウと同じ小学校へと送り込んだのだ。そして、カノンとコウが実際に出会うことで予測が確信へと変わった。
それからは、コウに関わるあらゆることを徹底的に調べたらしい。もちろん、リュウやリンのこともざっとではあるが調べられていた。今年に入ってからは、新任で入ってきて二人のクラスの担任になったハルカのこともだ。その過程で、ツカゴシにも気づいたらしい。とは言え、ツカゴシが実際にハルカに接触したのはコウたちがいなくなったあの日が初めてだった。流石に、過去にハルカとツカゴシが接点を持っていたことまでは調べられていなかったらしい。
もう一つ、なかなか調べがつかなかったのが、今年の四月に転入してきた空杯と思われる落合空音のことだった。
「ソラちゃんに関しては、何か目に見えない壁でもあるかのようにその存在がぼんやりしてるの。でも、コウくんといる時は別。まるで二人は一緒にいるのが当たり前のようにそこに存在していたの。上手く言えないけど・・・」
「何にせよ。百目鬼家は油断ならないと言うことだけはよくわかりました」
リンの態度にカノンはシュンと肩を落としてしまった。
「こら、リン。カノンに八つ当たりしても仕方ないだろ?」
「八つ当たりではないです。僕が信用するのはリュウだけだということです。あなたが信じるのなら信じます」
「前から思ってたけど、リンくんってリュウくんのこと、とっても好きだよね」
「好き嫌いの話ではないです」
「そうなのか?オレは、リンのこと大好きだけどな」
屈託ない笑顔を見せながらリュウは、なんでもないことのようにそう言った。
「・・・」
リンは複雑そうな表情で「だからそう言うところなんですよ」と誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。一つ咳払いをしてからリンは仕切り直すように声を上げた。
「とにかく!ツカゴシのことです!」
クスクスと笑いながらカノンが話の続きを受け取った。
「ショウくんのお父さんは、『塚越章』さんって言うんだけど、実は、調査に手間取っているみたいなの」
「どういうことだ?」
「ハルカ先生をこっそり観察していたことはわかってるんだけど、その後アキラさんを尾行しようと思っても気づくと見失ってしまうみたいなの。そんな事が何度もあったみたい」
「尾行に気づかれていて巻かれてしまうと言う事ですか?」
「うーん?ちょっと違うみたい。とにかく、最後までアキラさんを尾行ができないから、今どこに住んでるとかどんな仕事をしているとかわからないの」
「それこそハルセンセに聞けばいいんじゃね?」
「いくらハルカさんでも他のクラスの子供の家庭のことなどわからないでしょう」
「そっか。そうだよな。調べることでハルセンセに危害が及ぶかもしんねーしな。にしても、コウたちホントにどこ行ったんだろうな。どう考えても子供だけで何日も隠れられるとは思えねーんだけど」
リュウの言葉に、リンは難しい顔をした。
「いくつか考えられることはあります。まずは、人知れず事故にあっている場合。それから、すでにツカゴシの手に落ちている場合。そして、最後に・・・まったく知らない第三者の協力者がいる場合」
リュウとカノンは顔を見合わせた。
「一つ目と二つ目は、ないと思いてーな。でも、そっか協力者か・・・。それなら、ありえる気がすんな」
「そうだね。まずは、一つ目と二つ目の可能性をなくしたいね」
「事故や事件については、百目鬼家が調べているんじゃないですか?」
「うん。今のところ全くその気配はないみたい。引き続きそっちの方は百目鬼家で調べるよ」
「では、ツカゴシに関しては・・・」
リンとカノンが着実に今後の方針を話しているところで、その方針で問題ないかリュウに意見を聞こうと思い、リンはリュウに視線を向けた。リュウは何か閃いたとでも言うように目をキラキラさせて二人を見ていた。その様子を見てリンは頭を抱えた。
「またリュウの悪い癖が出ますよ」
「悪い癖?」
「みてください。あの無垢な少年のような顔。僕はあの顔の時のリュウに逆らえないんですよ」
諦めたような物言いだが、その表情はどこか嬉しそうでもあった。




