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幸運の器  作者: ユキ。


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13/19

2‐7

 ハルカの話に、それぞれが思いを馳せているようだった。相変わらず、遠いところからセミの声だけが微かに聞こえてきている。

「塚越君が転入してきたのは、その時初めて知ったの。他の学年のことだから把握できてなかっただけな気もするけど、それでも・・・」

「何かおかしーって感じたんでしょ?」

 リュウの問いかけに、ハルカは頷く。

「何がそんなに気になるかはわからなかったけど、その時は兼田君たちのことで動転してて他のことに気が回らなかったのも確かだったわ」

 パンと手を叩く音がして、一斉にその音を出した主、リンに注目した。

「ここで、一度整理をしてみましょう」

「整理って?どうすんだ?」

「そうですね。とりあえずコウたちがいなくなってから今日までの流れをいったんおさらいしてみましょう」

「なるほどな。いいぜ、やってみよう」

 そこで、四人はそれぞれの情報を出し合い時系列にまとめることにした。

 まとめた結果は、次のようになった。


・7月1日 コウたち失踪。同日、ショウ転入

・7月2日 百目鬼家の介入があり各所に出されていた失踪届が取り下げられる

・7月5日 ショウのクラスメイトが骨折

・7月6日 ショウのクラスメイトが体調を崩し早退。その後、いまだ回復せず

・7月8日 ショウのクラスメイトの親が急死

・7月9日 リュウとリン小学校に突入しようとしてあえなく失敗。カノンと出会う

・7月12日 リュウとリンがカノンのおかげで小学校に潜入成功。ショウの周りの異変の一端を垣間見る。ハルカと出会う

・7月13日 ショウのクラスで小さなケンカが起こる

・7月14日 ショウのクラスでボヤ騒ぎが起こる

・7月15日 現在


 リンが丁寧な字で紙に書きだした一覧をみんなで見まわす。

「そういえば、コウたちが失踪した日はホントうちの両親、見てらんないくらい動揺してたよな」

「僕も知らせを受けて駆け付けた時、あの二人があんなに取り乱しているのを見たことなかったので驚きました」

「それなのに、次の日には打って変わって落ち着いてて、俺にもコウのことは心配しなくていいなんて言うからさ・・・」

 その時のことを思い出したのか、リュウは複雑そうな表情を浮かべた。それは、リンも納得のいっていないところなので、矛先をカノンに向けた。

「カノン。一体、百目鬼家は何をしたんですか?」

 話を振られてカノンは、目をパチパチさせると視線を下げ少し考え込むように顎に手を添えた。

「ごめんなさい。わたしも実は詳しくは知らされてないの。何らかのやり取りをしたことは知ってるけど、具体的には・・・」

 カノンは、申し訳なさそうにリュウとリンを見る。それまで静かに聞いていたハルカが、おずおずと手を挙げた。

「あの。ごめんなさい。話の腰を折るようで悪いんだけど・・・。百目鬼家って?」

「ああ、そっか。ハルセンセはカノンが本当は『百目鬼華音(どうめきかのん)』だって知らないんだっけ」

 ハルカの目が大きく見開かれる。

「リュウ!」

 リンが慌てたように声を上げる。カノンはカノンで少し困ったような表情を浮かべていた。リュウは、二人の様子から百目鬼家の事を隠したいと思っていることを悟った。しかし、もうすでに話の流れで百目鬼家が何かしらの関与をしていることはハルカにも伝わっている。今更そのことだけを伏せて話を続けるわけにはいかない。というより、リュウはハルカに対して嘘をついたり誤魔化したりすることはしたくなかった。

「ハルセンセ。カノンの家はちょっと複雑なんだよ。俺も正確なところはわからないけど、学校への書類もそうしなくちゃいけなかったんだと思う。だから・・・」

 カノンのことは怒らないで欲しいと言おうと思ったが、ハルカの様子が少しおかしい気がして口を噤んだ。ハルカは何かに集中してじっと考え込んでいるようだった。しばらくすると、ハルカは考えがまとまったのかおずおずと口を開いた。

「百目鬼って言ったわよね。それって珍しい名前だと思うんだけど、その・・・」

 それでもなお、言いためらっているようだったが、意を決して今度はしっかりとカノンと視線を合わせた。

「シュミットさんって本当にご兄弟はいない?」

 そう聞かれたカノンは、少し考えてから小首をかしげ首を横に振る。

「いえ。いないです。多分・・・」

 カノンはカノンで、少し歯切れが悪い。

「そう・・・」

 ハルカは、それでもまだ何かが気にかかっているようだったが、気を取り直すようにもう一度じっくりと一覧を確認した。リュウは、ハルカの様子が気にかかったが、ハルカがそれ以上何も言わないのならそれでいいと思っていた。いつか話してくれればいいなという願望はそっと胸にしまって。

 改めてハルカは一覧を見ていたが、こう見てみると見るからにショウが転入してきてから不運が続いていることに気づく。そして、自分でも確かめるように記憶を辿りながら考えをまとめるように話し始めた。

「塚越君が転入してから、どうしても気になってちょくちょく様子を見るようにしてたんだけど・・・。なんだか悪いことが重なっているなとは感じていたの。あの日、あなたたちと出会った日も塚越君の様子を見に行ったら、一緒にいた佐藤君が急に倒れてしまって驚いたわ」

「あー、あの時のことな。そういえば、あのサトウって子は大丈夫だった?」

「ええ。検査をしてもらったけど、特に異常はなかったみたいですぐにお家に帰れたわ」

「そりゃ、良かった。アイツ、いい奴っぽかったから悪いこと起こってほしくねーしな」

「そうですね。出会ったばかりのはずのショウに対してとても親切でしたね」

 どこか含みを持たせたようなリンの発言に、リュウは少し困った顔をする。

「リン、そんなに警戒しなくて大丈夫だと思うぞ。まあ、俺のためなんだろうけど」

「別に、あなたのためでは・・・」

「わかってるって。ま、なんにせよ俺はお前が相棒で助かってるってことだよ」

 にっこりとほほ笑むリュウに、リンは少し気まずそうにしながらも嬉しさは隠しきれないようで緩む頬を隠すように口を手で覆った。その様子を微笑ましく見ていたカノンが、気を取り直すようにハルカに視線を向けた。

「ハルカ先生。ショウくんってどんな子でした?」

「そうね。私の見た限りでは、少し気が弱いところはあるけど、とても優しい男の子だと思うわ。クラスのみんなにもすぐに受け入れられて、クラスの中心になっているようだったの」

「へー、ショウは人気者なんだな。でも、そのショウの周りで何かと不審なことが起こってたわけか」

 リュウの言葉にハルカは静かに頷いた。

「明らかに塚越君が転入してきてから事故が起こる頻度が上がっているにも関わらず、誰もそれを塚越君と結びつけて考えることはなかったの。何か補正でも入っているかのように・・・」

「ハルセンセは、ツカゴシやショウのこと知ってるからその範囲から外れて、それが異常なことだって気づいたってこと?」

「それも考えられるでしょうね。それだけが原因かはわかりませんが」

「それにしてもコウたちがいなくなったこととショウが転入してきたことってやっぱ関係ありそうだな」

「そうですね。コウたちの失踪とショウの転入が重なっているのは偶然というにはあまりにも不自然な気がします」

「それに、ハルセンセの話聞く限り、ツカゴシはコウのことを気にしている風だったしな」

 リンは、改めてハルカと向き合った。

「その後、ツカゴシから何か接触があったりしませんか?」

 そこで、カノンが何かを思い出したように小さく「あっ」と声を上げた。三人の視線がカノンに集まる。カノンはチラリとハルカに視線を向けるとハルカは優しく微笑んだ。

「シュミットさん。大丈夫よ。何か気がついたことがあったのなら話して」

 カノンは少し逡巡する素振りを見せたが、こくんと頷くと話し始めた。

「コウくんたちがいなくなってから、百目鬼家でもコウくんたちの行方以外に、その周囲の人物に関しても調査しているの」

 そこでまたチラリとハルカを見る。今度はどこか気まずそうな雰囲気だった。

「実は、ハルカ先生も調査の対象になってたの。その中で、ハルカ先生の調査報告に百目鬼家以外にも先生を見張っている人がいるというのがあって・・・。その人が多分ーーー」

「なるほどな。それがツガゴシってわけか。ツカゴシもハルセンセが何か知っているって思ったのかな?」

「どうでしょうね。大体、ツカゴシがハルカさんが先生になっていたことをなぜ知っていたんでしょう。もしかしたら、ツカゴシは百目鬼家よりももっとずっと前からハルカさんのことを見ていたのかもしれません」

「ハルセンセ。あのさ、ハルセンセ自体何か不思議なことが起こったことってない?」

「不思議なこと・・・?」

「そっ。俺にはハルセンセもこの件に関して無関係ではない気がすんだよね」

「それは当たり前よ。私は兼田君の担任なんだからーーー」

 リュウは、首を横に振った。

「違う。そうじゃないんだ。ハルセンセは、もっと前。それこそ初めてツカゴシと会った時から巻き込まれている気がすんだよね」

「えっ?」

「どういうことです?」

「いや、別に俺が何か知ってるわけじゃなくて、そんな気がするだけなんだけどな」

 リンはやれやれと言うように頭を振ると「まあ、リュウの野生の勘は当たりますからね」と半ば諦めたように言う。

「野生って何だよ!」

「そう言うところです。それよりーーー」

 リンはカノンに視線を向けると引き締まった表情に戻った。

「百目鬼家の持っている情報を全て話してください。でも、その前にハルカさん。あなたには一度退場願いたいです」

「えっ?」

 戸惑うハルカをよそに、リンはあえて冷静に向き合った。

「これから先の話は部外者に話すには憚れるものです。ですのでーーー」

「はいはい。そこまで」

 リュウがリンとハルカの間に割って入る。

「リン。さっきも言ったろ?お前は、憎まれ役をやらなくってもいいんだよ」

 リュウにそう言われて、リンの表情が少し緩む。

「それに、ハルセンセは部外者じゃないだろ。むしろ、俺らが思っている以上に関わってるんだと思う。だから、本当のことを話した方がいいと思うんだ」

「リュウ。だからこそ、話さない方がいいこともあるんですよ!」

「リンは、ハルセンセが『敵』だとでも思ってるのか?」

「それはわかりませんが、最も怪しい動きを見せているツカゴシに近しい人物なんですよ!故意でないにしてもどこから情報が漏れるかわからないじゃないですか!」

 リュウがチラリとハルカを見た。ハルカが戸惑っているのは明らかだった。

「オレはハルセンセを信じたい」

「リュウ・・・」

「リンくん。もう結構話しちゃったわけだし、この際、全部話して逆にハルカ先生に味方になってもらおうよ」

 この場で一番冷静だったのはカノンだった。リンは諦めたように長い息を吐くと切り替えるようにハルカを見た。

「すみません。巻き込んでしまって」

「いえ・・・」

「ハルセンセ。ハルセンセのことは俺が絶対守るから」

 ハルカの手を握りしっかりと視線を合わせてリュウは力強くそう言った。

「あの、ありがとう・・・」

 ハルカは、リュウの勢いに飲まれそうになりながら、なんとか平静を保とうとしていた。

 それから、三人はハルカに今までの経緯を全て話した。ただ、三人にもまだわからないことが多いので疑問点を共有したと言ったほうが近いかもしれない。

「それで、わたしたちはショウくんのお父さんが何か関係しているんじゃないかって思ってるんです」

「章先生が・・・」

「ハルセンセ。何でもいいんだ。細かいことでもいいから何か関係してそうなこと知らない?」

「そうね・・・。本当に関係があるかわからないけど、塚越君は赤ちゃんの頃はとても身体が弱かったって聞いたことがあるわ」

「身体が弱い・・・。具体的にはどんな風に弱かったんですか?」

「もしかしたら普通のことかもしれないけど、すぐに熱を出していたみたい」

「普通ですね」

 弱々しく微笑むとハルカは続けた。

「それで、大体は章先生が看病するんだけど、たまにシッターさんとかが面倒を見ていたの。それで塚越君が回復すると同時に必ずシッターさんが体調を崩してしまっていたって聞いたことがあるわ」

「まあそれも普通と言えば普通ですね」

「だけど、ハルセンセは普通じゃないと思ってるんだよね」

 戸惑うようにハルカは頷いた。

「確かに病気の人を看病したらうつることもあると思うけど、塚越君を看病した人たちはとても重症化しているの。原因不明の倦怠感だと診断されているみたいだったわ」

「『原因不明の倦怠感』ですか・・・」

「その人たちはその後どうなったかわかりますか?」

「塚越家から離れてしばらくしたら回復したって聞いたわ」

「誰から?」

「その・・・。章先生ご本人から」

「当時小学生だったハルセンセは、それを聞いてどう思ったの?」

「その当時は章先生がそう言うからそうなんだと何の疑問も持たなかったわ。ただ、今改めて思い返してみると少し違和感のようなものを感じていた気もするの」

「他には何か覚えていることはありませんか?」

「そうね・・・」

 しばらく考えていたハルカは首を傾げながら口を開いた。

「そう言えば、あの日以来、章先生から奥さんのことを全く聞かなくなったわ。最初は思い出すと辛いからなのかと思っていたけど、なんだかーーー上手く言えないけど、忘れてしまった?ような感じかしら」

「一種の自己防衛のようなものなのかもしれませんね」

「ショウくんの周りで病気やケガの人が増えてるっていうのは、今のこの学校の状態もそうなの」

 リュウとリンがハルカをみると、ハルカは頷いた。

「ええ。それは本当よ。塚越君のクラスは壊滅的と言っていいほどみんな何かしらの影響を受けている感じがするわ。それに、他のクラスでも増えていっている感じがするの」

「ツカゴシショウのクラスは全部で何人ですか?」

「三十六人ね」

「そのうちの何人がどう言う状態なのかわかりますか?」

 ハルカは首を横に振る。

「ごめんなさい。そこまではわからないわ。でも、担任の遠藤先生に聞けばわかるかもしれない」

「じゃ、今すぐ聞きに行こーぜ」

 動き出そうとするリュウの襟首をリンが掴んでその行動を制した。

「何すんだよ!」

「どうしてあなたはいつも猪突猛進なんですか」

「何だよ。まるでオレが何も考えてねー見てーじゃねーか」

「そうは言いません。あなたが誰よりも周りを見ていることは知っています。ただ、リュウは自分のことを蔑ろにしすぎなのです」

「それって褒めてる?」

「褒めてません!」

 ぶつぶつと文句を言いながらも、リンの方こそ自分よりリュウのことを心配してるということに気づいていないんだろうなと思いながらも、やっぱりリンがいてくれて頼もしいとリュウは感じていた。

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