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リュウが、ツカゴシショウという存在を認識している事実を匂わせたことを何とか言い繕って三人は逃げるように小学校を後にした。
そして、再びリュウとリン、そしてカノンは百目鬼家の茶室で膝を突き合わせていた。
「リュウ。どうしてあなたはそう考えなしなんですか」
開口一番、リンのお説教が飛ぶ。
「悪かったって。でもこうあのセンセを前にするとなんと言うか気が抜けるというか・・・」
「全くあなたは・・・」
「ストップ!ストーップ!それより、リン。あの時なんか様子がおかしかったけど、どうしたんだ?」
リンのお説教を止めるべく、話を他に振る。しかし、それは今一番誰もが気になっていることでもあった。
「えっ?あー、アレですか。上手く言葉で表現できるか分からないですが、ショウの頭に手を乗せた時に何かが自分の中に流れ込んでくるような感覚があったんです。そして無性に倒れていた彼、サトウくんでしたか、彼に分けなくちゃいけないと思ったんです」
「分ける?何を?」
「おそらく、『運』だと思う」
それまで静かに聞いていたカノンが口を開いた。
「ウン?ってあの運?」
「今までだって運について話してたんだからあの『運』以外ないと思うんだけど」
カノンの呆れ顔を見てリュウはリンに、お前は俺の気持ちわかるよなというような顔を向けた。
「そんな顔でこちらを見ないでください。まあ、でも流れから行くとあの『運』以外ないでしょうね」
したり顔のリンに「裏切り者」とリュウが拗ねたようにつぶやく。
「そんなことより。今のリンくんの言ったことの方が重要。これってもしかしたら開花ってやつかも」
「かいか?ってまた新たな言葉が。カノン、他に新情報あったりするか?」
「そういわれても・・・。別に出し惜しみしてるわけじゃないからね。ただ、二人といるとドンドン新しい情報が更新されていってる感じなの。だから、今わかる範囲で話すけど、いい?」
「まあ、それじゃ、しゃーねーな」
リュウは、いつもの人を安心させるような笑顔を見せると、カノンもほっと安堵の息を漏らした。
「とりあえず、今わかってることだけでも話してもらいましょう。それで、カノン。開花とは何ですか?」
リンが、カノンに話を振ったところで「あっ!」と何かを思い出したようにリュウが声を上げた。
「リュウ。どうして話の腰を折るんですか。それで、どうしたんですか?」
なんだかんだ言って、リンはリュウには甘いので先を促す。
「どうしたって、アレだよアレ!シュミット!」
その言葉にリンも「ああ」と頷いた。
「それもありましたね。それで、カノン色々とご説明願えますか?」
カノンは、リュウとリンの信頼しあっている関係を羨ましく思っていた。出会ったばかりだけど、自分もその仲間に入れたらいいなと思うから、誠実にありたいと思う。
「シュミットに関しては別に隠してた訳じゃなくて、百目鬼だと何かと不便があるから母方の姓を名乗ってるだけなの」
「カノンのお母様はドイツの方だったりしますか?」
「そう。そうなの」
「お前よくわかるな」
「確かリュウのお母様もそうだったと記憶していたので」
「うーん?確か、俺の母さんはハーフだったはず。それを言うならコウの方が・・・。いや、でもドイツではないか・・・」
「ああ、そうでしたね。確かにソフィアさんはフィンランドの方でしたっけ?」
「そうそう、父さんとは仕事の関係で出会ったって聞いたことある」
「ケイトさんは貿易関係の仕事をしてるんですよね」
「ああ、結構あっちこっち行っては妙な土産を買ってきてくれてるな」
「?」
二人の会話についていけず、カノンの頭の上にはてなマークが見えるようだった。その様子を見たリュウは、柔らかい表情でカノンの頭をなでる。
「俺を産んでくれた母さんは、俺を産んだ後すぐに亡くなってるんだよ。そのあと父さんが一人で俺を育ててくれてたんだけど、仕事の関係で今の母さんと出会って再婚したんだ。その人がコウの母さん」
「そう、だったんだ・・・」
シュンとしてしまったカノンの頭を再び優しくなでる。
「にしても、カノンってハーフだったんだな」
リュウの言葉に二人はポカンとした顔をした。二人の顔を見て逆にリュウの方が首をかしげる。
「なんだ二人とも。不思議そうな顔して」
「リュウ。だって、どう考えてもカノンはそう見えるでしょう」
「そうか?確かに外見だけすると日本人っぽくはないけど、なんつーか所作?そんなのが日本人っつーか。全然違和感なかったからさ」
「リュウ忘れたんですか?初対面のカノンを」
そう言われてリュウは記憶をたどる素振りを見せて、しばらくすると「あぁ!」と満面の笑みを見せて頷いた。
「アレは確かにめちゃくちゃ違和感ありまくりだったわ」
「もう!あれは忘れて!百目鬼家の当主としての立ち居振る舞いなんだから」
カノンが真っ赤な顔をして首をぶんぶん横に振っている。
「そっか。カノンも色々大変なんだな」
「そんな同情するような目で見ないで!別に百目鬼家の当主が嫌なわけじゃないんだから」
「そうなのか?何かちょっと辛そうにも見えんだけど」
「そんなことは、ない、けど・・・」
「とりあえず、シュミットの謎は解けたということで、『開花』について話してもらいましょうか」
「おい!リン!もうちょっと・・・」
「何に優先順位を置くか忘れないでください」
リンの静かだが有無を言わせぬ迫力にリュウも口を噤む。
「カノン。続きをどうぞ」
「うん。わかった」
カノンは一呼吸置くと、確かめるように言葉を紡いだ。
「『開花』って言うのは王杯の近くにいる人たちには不思議な力が宿ると言うものなの」
「「不思議な力?」」リュウとリンの声が重なる。
「うん。どんな力かは人によって違うからコレがそうだ。みたいなことはハッキリとは言えないんだけど、リンくんに起こった現象は多分そのせいなんじゃないのかなって思うの」
リンは、自分の手を見つめて何か考え込んでいる。
「なぁなぁ、カノン。それじゃあさ、俺にも何か不思議な力ってあるのか?」
「それは分からないけど、一番近くにいたリュウくんならその可能性は高いと思うの」
「そっか・・・」
リュウも何か考え込むように黙り込んでしまった。そんな二人の様子をカノンは静かに見守っていた。
ようやく考えがまとまったのかリンが顔を上げて声を上げた。
「一先ずはツカゴシショウのことを監視しつつ周辺を調べることにしましょう」
「監視っつてもなー」
「それならワタシが適任だと思うの」
「そりゃカノンなら同じ小学校なんだから色々やりやすいだろーけど、危ないんじゃないのか?」
「別に何かをしろという訳では無いですよ。ただ不審な行動などがあったら僕たちに教えてくれればいいだけです」
「知らせるだけっつーならいいけど、不測の事態が起こらないとも限らないじゃねーか。そん時カノンがただ見てるだけで済むとは思えねーんだけど」
「リュウは、本当に自分のことに関しては無頓着なのに人のことになると気を回しすぎますよね」
「そんな事ねーけど」
「まあ、そこがリュウのいい所でもあるんですけどね」
「なになに?もしかして俺、褒められてる?」
「褒めてません。それより・・・」
「大丈夫。絶対に危ないことはしないから」
カノンに真っ直ぐな視線を向けられて、リュウもしぶしぶ承知した。
「ホントーに危険なことはすんなよ。すぐに駆けつけるつもりだけど、さすがにオレらも一瞬で行けるわけじゃねーから。決定的な何かが起ころうとしても例え何かを見逃しそうになっても自分の安全を一番に考えろ。いいな?」
「・・・うん」
「本当にリュウは心配性ですね」
「仕方ねーだろ。カノンは大人っぽく見えてもまだ小学生なんだぞ」
「まあ、そうですね。カノン、すみませんね。危険なことを頼んでしまって。あなたのことは僕たちが守りますから」
カノンは、二人が本当の兄のように頼もしく感じられ、自然と笑みがこぼれる。
「うん。頼りにしてるからね。お兄ちゃんたち」
それから三人は、様々な状況に対応すべくシミュレーションを繰り広げた。しかし、それはあくまでも机上の空論。何が起こるのかは、誰にも分らなかった・・・。




