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第八章 偽りの帳簿
失踪の件は、表向きには“自己都合退職”として処理された。帳簿は整い、数字は合う。合いすぎていることが、逆に不自然だった。真は初期の台帳を引っ張り出し、最近のデータと重ねる。空白はない。だが、行の並びが、微かに変わっている。初期に使われていた別のコードで二度出てくる。
その夜、仁は説明する。業界団体からの助言、処理の簡略化、効率化。どれも間違っていない。真も否定できない。ただ、南区の施設名が、別のコードで二度出てくるのを見つけた瞬間、指が止まった。数字は合う。意味だけが合わない。その夜、真は母の台所で古い通帳を見た。日付と金額が、帳簿の一行と重なる。偶然だと言い聞かせ、視線を逸らす。だが、偶然にしては、同じ形が多すぎた。帳簿は嘘をつかない。ただ、嘘を許す形で整えられることがある。細部に残る埃、紙の折れ目、鉛筆の痕跡のすべてが、なにかを物語っていた。




