第七章 失踪
南区の小さな施設から、一本の連絡が入ったのは、梅雨が明けきらない朝だった。前日まで入っていた派遣職員が、夜勤明けに姿を消したという。欠勤は珍しくない。だが、携帯は繋がらず、自宅にも戻っていない。真は名簿の名前を指でなぞり、わずかに眉を動かした。現場に向かうと、空気が違った。ロッカーは整理され、私物はほとんど残っていない。逃げる者の痕跡ではなく、片付けられた痕跡だった。施設長は言葉を選び、事故はないと繰り返す。だが、監視カメラの一部が“たまたま”点検中だったと聞いた瞬間、真の喉が小さく鳴った。仁に報告すると、反応は早かった。「まず事実確認だ」。正しい判断だと分かっている。それでも真は、名駅へ戻る車中で、窓に映る自分の顔から視線を逸らした。消えたのは人か、痕跡か。その区別が、すでに曖昧になり始めていた。後半には、柊木が小声で情報を漏らす。「南区で消えた派遣、港の倉庫街で見たって話が回ってる。顔は伏せてたらしいけど」――失踪はまだ完全には終わっていなかった。




