第六章 亀裂
成功の速度が、二人の足並みをずらした。仁は次の投資を見据え、真は現場の限界を数え始める。数字と身体、そのどちらが先か。会議室の空気が、以前より重く感じられた。
小さな違和感は、報告の順序から始まった。真は後回しにし、仁は先に知りたがる。理由は言わない。言えば、形が変わるからだ。机の上の書類が一枚、音もなくずれた。
錦三丁目の個室。壁は薄く、隣の笑い声が滲む。不正請求という言葉が、酒の匂いに混じる。仁は数字で否定し、真は現場の感触を理由に疑った。グラスの水滴が指を濡らす。言葉は短く、沈黙は長い。
決定的な夜、名駅の終電が走り去った後で、二人は向き合った。声は低く、結論だけが先に出そうになる。だが一瞬、仁は言葉を飲み込み、真は頷きかけて止まった。どちらも、まだ戻れる線を探す仕草だけが残った。真は一瞬、視線を上げかけ、逸らす。喉が鳴る。幼稚園の砂場、銀行の天井、栄の雨。すべてが一本の線で繋がるが、その線を見ない選択をした。亀裂は音を立てない。気づいた時には、戻れない深さになっている。時間の経過と、重なり合う視線の奥に、二人の関係は微妙に揺れていた。




