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赤と黒の帳簿  作者: キロヒカ.オツマ―


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第四章 最初の黒字

名駅裏の雑居ビルに朝日が差し込むようになったのは、最初の受注からいくつもの月が過ぎ、季節が一度巡った頃、受注件数が三桁に届いた時だった。蛍光灯を点けなくても、窓際の机まで光が届く。埃が浮かび、床に落ちるまでの時間が見える。仁はモニターの数字を更新し、真は壁のスケジュール表を貼り替える。紙の端が指に触れ、微かに擦れる音がした。それが、仕事の始まりの合図だった。


福祉専門の派遣という業態は、名古屋ではまだ隙間だった。施設は慢性的に人が足りず、職員は疲弊している。正社員を抱える余裕はないが、今日明日の穴は埋めたい。その切実さに、真は応えた。誰が夜勤に強いか、誰が認知症フロアに向いているか。履歴書の行間と、面談での沈黙から読み取る。現場は正直だった。配置が噛み合えば、事故は減り、クレームは消える。


仁は単価を慎重に刻んだ。上げすぎれば切られ、下げすぎれば潰れる。補助金の仕組み、業界団体の顔色、銀行の返済日。すべてを一枚の表に落とし込み、赤字にならない速度だけを選ぶ。黒字は派手に生まれない。誰にも祝われず、ただ静かに積み上がる。


初めて数字が黒に転じた日、二人は何も言わなかった。缶コーヒーを一本ずつ、机の端に置いただけだ。甘さが喉に残り、真は一瞬だけ視線を上げかけたが、すぐに仁の手元へ戻した。数字は嘘をつかない。その信頼が、言葉の代わりだった。机の上の紙片、壁に貼られたスケジュール、窓際の埃すべてが、未来への小さな記録として積み重なった。

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