第三章 名駅の雑居ビル
名駅裏の雑居ビルは、昼でも薄暗かった。三階。エレベーターは止まらず、階段の踊り場に古い蛍光灯が一本だけ生き残っている。事務所は狭く、机は中古、椅子は揃っていない。それでも、ここから始めるには十分だった。
最初の電話が鳴るまで、二人は無言で配線を整えた。コードの色、差し込みの向き。真は自然と現場の動線を想像し、仁は表計算ソフトに数字の枠を作る。役割分担は話し合うまでもなく決まった。
初受注は小さな介護施設だった。条件は厳しく、単価は低い。だが断らなかった。現場に出た真は、汗の匂いと時間の重さを身体で覚え、戻った仁は帳簿に赤を入れた。どちらも正しいと、その時は信じていた。
夜、ビルの外で二人は缶コーヒーを飲んだ。錦のネオンが遠く滲む。真は言いかけてやめ、仁は気づかないふりをした。喉が鳴り、視線が逸れる。幼い日の砂場と同じ仕草だった。名駅の終電が通り過ぎ、街は一段暗くなる。赤いバケツと黒いシャベルは、まだ同じ箱に入っていた。静かな夜に、未来の重さがゆっくり沈み込む。




