第二十九章 形
結果は、人ではなく「形」で現れた。港区の倉庫街、潮の匂いが金属に染みつく朝。警察からの連絡は事務的で、発見物という言葉が繰り返された。身元確認は進行中。だが、現場に残ったのは身体ではなく、配置と番号だった。
古いロッカー。鍵は揃っておらず、一本だけ新しい。中にあったのは作業着一式と、濡れたメモ帳。ページは破られ、残った余白に、数字が縦に並ぶ。現行コードではない。初期に使われていた並び順。南区、夜勤、代替。真はその並びを見て、息を詰めた。人の癖が、そのまま形になっている。
仁は報告書を受け取り、机に置いた。数字は説明できる。動線も説明できる。だが、説明の外に、同じ形が繰り返し現れる。自分が消したはずの余白が、別の場所で再生産されている。善意の調整は、個人の逃げ場を削り、形だけを残した。
現場写真の端に、もう一つの痕跡があった。床に引かれた白線が、途中で途切れている。測り直した跡。誰かが、合わせようとして、やめた線。真はそこに、幼稚園の砂場で城を壊した時の感触を思い出す。合わせれば、決まってしまう。だから、目を逸らした。
倉庫の外で、風が鳴る。関係者の誰も、失踪者の名前を口にしない。代わりに、配置と番号が行き交う。人は形に置き換えられ、形は管理される。仁は理解する。誤解の結果は、責任の所在を曖昧にするほど、整っている。
夜、真は封筒を胸元にしまい、開かないまま眠れずにいた。仁はオフィスで、整った表を閉じ、画面を暗くした。二人は同じものを見ていない。だが、同じ形に触れてしまったことだけは、否定できなかった。




