第二十八章 誤解
仁が決断したのは、真の沈黙を“同意”と読み替えたからだった。話が来ない。異議もない。ならば、前に進めるべきだ。名古屋の現場は待ってくれない。人は足りず、監査の余波は続く。止まる理由は見当たらなかった。
調整は迅速だった。南区の施設を軸に、配置を再編する。夜勤の重なりを外し、動線を切り、報告経路を一本化する。初期に使われていた癖のある並びを、現行コードに完全移行。余白は埋め、空白は削る。整えば、噂は居場所を失う。仁はそう信じていた。
通知は淡々と出された。理由は“効率化”。文面は正しく、誰も反論しない。だが、その夜、一本の連絡が入る。失踪者の私物が、施設とは無関係な倉庫から見つかったという。鍵の番号が合う。以前の配置表にだけ残っていた番号だ。
仁は資料を引き寄せ、指で辿る。消したはずの並びが、別の形で現れる。自分の調整が、線を断つどころか、線を固定してしまったのだと気づく。真の沈黙は、同意ではなかった。警告だったのかもしれない。
それでも、引き返す選択は取らなかった。取れなかった。ここで止めれば、整合が崩れる。崩れれば、過去が露出する。仁はさらに一手を打つ。関連資料の保管場所を移し、閲覧権限を絞る。合法で、正当で、善意の範囲内。そう言い聞かせる。
深夜、オフィスで一人、仁はモニターの前に座る。画面には整った表。数字は静かだ。だが、耳の奥で、何かが擦れる音がする。幼稚園の砂場で、城が崩れた時の音に似ていた。
同じ頃、真は携帯を伏せた。連絡が来ないことに、理由をつけない。気づきかけて、目を逸らす。仁の誤解は、もう修正できない段階に入っていた。




