第二十四章 一致
一致は、約束でも和解でもなかった。利害が重なっただけだと、二人とも理解していた。名駅西の再開発計画に絡む臨時監査。行政からの通知は簡潔で、感情の入る余地がない。提出期限、提出形式、対象期間。紙の端に押された日付だけが、妙に重く見えた。
真は監査という言葉に、身体の奥がわずかに反応するのを感じた。疑念が表に出る可能性。失踪、帳簿、噂。捨てたはずの確証が、公的な手続きの中で別の形を取る危険がある。一方で仁にとっては、違った意味を持っていた。ここで数字を整え切れば、すべてが過去になる。過去を終わらせることは、前に進むための条件だった。
二人は会議室で向かい合った。以前のような対立はない。代わりに、短い確認だけが交わされる。「余計なことは出さない」「聞かれたことだけ答える」。言葉は少なく、合意は早い。それが危うい一致だと、どちらも分かっていた。
真は現場資料を整理しながら、失踪した職員の名前を一度だけ見て、ファイルを閉じた。仁は帳簿のコードを確認し、初期の処理が混じっていないかを確かめる。作業の手つきが、奇妙なほど噛み合っていた。幼稚園の砂場で、同じ城を壊した時のように。
監査当日、質問は形式的だった。数字は整い、説明は通る。噂は言語にならず、沈黙は問題にならない。終わった瞬間、二人は視線を合わせないまま、同時に立ち上がった。一致は役目を終えた。
廊下に出た時、真は一瞬だけ仁の背中を見た。何かを言うべきか考え、やめる。確証を捨てた選択は、ここでも続いていた。仁もまた、背後の気配を感じながら振り向かなかった。利害が交わる線は短く、細い。踏み外せば、どちらも落ちる。それを知っているからこそ、二人は同じ方向に歩いた。ただ一度だけ。




