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第二章 借金の署名
銀行の応接室は無機質で、音を吸い込む壁に囲まれていた。名刺が交換され、書類が整然と並べられる。連帯保証の欄に、二本のペンが同時に置かれた。赤津仁の署名は迷いなく流れ、黒瀬真のそれは筆圧が強かった。紙の下で机がわずかに軋む。
金額は大きく、条件は重い。だが二人は顔を見ない。目を合わせれば、どちらかが引かなければならなくなると、無意識に理解していた。書類を返された瞬間、真は一度だけ喉を鳴らし、視線を上げかけて、白い天井に逃がした。ここで何かを確かめるべきだという感覚が、体の奥で小さく鳴っていた。
外に出ると、名駅の風が強かった。再開発ビルのガラスに雲が流れ、街は忙しなく音を立てている。仁は短く「行ける」と言い、真は頷いた。言葉はそれ以上いらなかった。二人は同じ歩幅で歩き出す。逃げ道が消えたことを、互いに口にすることはなかった。この静かな決意が、後の大きな波となることを、まだ誰も知らない。




