mono.カスミソウと紅花
それは唐突などではなかった、じわりじわりと蝕まれていることは、分かっていた。そして、とうとうおばぁちゃんは死んだのだと、告げられた。
僕はそこにただ立っていた、ただただ、立ち尽くしていたのだ。涙が出ない、なぜだろう、実感が湧かないのだ、昨日まで明日のことを話していたのに、
その口が開かないと知って、なお涙が出ないのだ。
僕はこんなに薄情なやつだったのかと、思い知りながら、心の中ではひたすらにねだり願った、何か一つでもいいから僕だけの「姿」をくれたって良
いじゃないかと。
「じゃあ君のその願いを私が叶えてやろう、」
後ろから声が聞こえた、知らない声だ、
「君は、誰?」
「私かい?私は悪魔だ、君の願いを叶えにきた悪魔」
その少女はそう言った。
時間も遅く、学生の僕は病院に居続けることはできない、後は業者がきて安置場所へ持っていくのを待つだけだった、
次の日、お金がないからお葬式などしない、ただ
火葬する瞬間をただ独りで見つめていた。母は仕事でこれず、他の親族も母以外もういない。父はすでに離婚している。
部屋の端の仏壇に飾った遺影と手前に置いた遺骨、
その両方を眺めていた、
—その時
「いつまでその遺影を眺めているんだい?」
「まだいたのか」
「それは私への失礼と思わないのかい?なぁ、そろそろ心の準備ってやつはできたかい?」
「あぁ、、できた」
「では確認としてもう一度制約を伝えるよ、今回、君は特別だ、だから私が君の願いを叶える代わりとしての代償はいらない、だが、この私との契約自体に対価が必要となる、して、君が死んだ時、私はその君の肉体をいただく。そして、私が叶えるのは君の願いだ、どんな願いかは知らないし私にはどうなるかは分からない。いいね?」
「あぁ、やってくれ。」
「あれ、僕はいつまで寝ていたんだ、今、何時だろう、あれ、声が、、え、、鏡は!?」
そこには綺麗な女の子が立っていた、ロングヘアで銀髪の女の子だ、左目に0と描いてある、これが悪魔との契約の印なのかと、思っていると、背は変化なしか、少し残念だ、胸は、、Eカップぐらいだろうか、
「はぁ、私はほんとに残念だよ、契約した人間の願いがTS化なんて、」
「いや、僕も別にTS化を願ったわけじゃない!別のなにかになりたいと願っただけだ!」
「それがTS化と、、」
「だーかーらー!違うって!」
「まぁ、とりあえずその姿では君が凛ということは誰にも分からないだろう、それどころか、阿望凛という存在を誰も忘れているだろう。」
「は?それはどういう意味だ」
「そのままの意味だよ、今この瞬間、君の存在は無かったことになった、消えたんだよ、阿望凛は、この世界から。だが先に言っておくよ、これは私がやったことじゃない、君の願いがそうさせたんだ、阿望凛ではない何かの新しい居場所が欲しいと、」
「じゃあ、母さんは?オタク友達の奴らとは、今までと同じように話せないってことか?!」
「そうなるね、でも、君がまた、0から関係を築けば似たような関係には戻れるかもね。」
冗談じゃない、いや、流石に冗談であって欲しい
「母さんが帰ってきた、、母さん!」
「あなた、だれですか、、なんで家にいるんですか」
「…」
さっきの話で分かってはいた。そもそも僕が何者かもわかるわけなんてない。
僕は逃げるようにして家からでて行った。あてなどない、ただ、走る、なぜか、いつもより足が軽い気がした。




