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硝子の向こう側:Vtuber「ルナ」の短い鎖  作者: 沼口ちるの


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8/11

第八話:毒の歌

ルナの活動は、騎士の異常な関与と、レイとのコラボでの狂愛アピールにより、Vtuber界隈の「タブーを犯す存在」として確固たる地位を築いた。事務所は、この特異な熱狂を最大化するため、オリジナル楽曲のリリースを決定した。


タイトルは『硝子のケージ』。


歌詞は、「誰にも理解されない孤独な少女が、たった一人の騎士に永遠の愛と支配を求める」という、ルナと騎士の関係をそのままなぞった内容だった。


作詞はプロの作家が担当したが、あかりは、騎士の執着を最大限に引き出すため、デモを聞いた後、自ら詞の一部修正を申し出た。


歌詞に刻まれた支配

レコーディングブースの密室で、あかりはルナとして歌った。


あかりが書き加えたサビのフレーズは、以前の詞よりも露骨に、「支配される快感」を表現していた。


「この短いチェーンが 繋ぎ止める現実」


「私の自由は 貴方の手の中にある」


あかりは、首元に着けた銀のチェーンに触れながら、このフレーズを歌い上げた。それはルナの物語であると同時に、騎士の監視下に置かれたあかり自身の、魂の叫びでもあった。彼女は、この歌を通じて、自分の境遇を公に宣言し、騎士との共依存を、芸術として昇華しようとしていた。


ディレクターは、その歌声に鳥肌を立てた。


「美咲さん、今のテイクは凄まじいな。まるで、本当に魂を捧げているようだ」


「はい。ルナは、本当に、そう思っていますから」


あかりは、歌という形で、初めて騎士への依存と、この環境への受容を、誰にも否定されない形で表現できたことに、ある種の解放感を覚えていた。


MV撮影と監視者の影

楽曲のミュージックビデオ(MV)制作も、異様な緊張感の中で進められた。MVの背景は、ルナが初めて配信した「光あふれる図書館」のCGだったが、ルナの足元には、鎖で繋がれた銀色の首輪の映像が、常に描かれていた。


MVの最終チェック中、事務所のタブレットに、一通のメールが届いた。送信者は月蝕の騎士。内容は、MVに関する「要望書」だった。


月蝕の騎士より:


MVの終盤で、ルナ様が一人、暗闇の中で歌うシーンがある。


その際、ルナ様が左手の薬指に、何も指輪を着けていないことを、明確に映像で示してほしい。


ルナ様は、誰にも嫁がない、俺だけの存在であるという、視覚的な契約を証明する必要がある。


マネージャーは顔を青ざめさせた。騎士はMVという芸術作品にまで、自分の病的な支配を及ぼそうとしていた。


「どうするんですか、部長。こんな要求、受け入れられますか?」


事業部長は、その月の騎士からのスパチャ額と、ルナの楽曲への期待値を天秤にかけた後、冷酷に指示を出した。


「左手の薬指をクローズアップしろ。指輪はなしで確定だ。顧客の要望は、商品の純潔性を守るという名目なら、受け入れる」


あかりは、その決定を背後で聞きながら、唇の端を吊り上げた。


(そう。私の純潔は、彼によってのみ、規定される。これが、この世界のルールだ)


毒の拡散

『硝子の檻』はリリース直後、瞬く間にチャートを席巻した。


MVは、歌詞の痛々しいほどの「本物感」と、ルナの儚い表情、そして薬指への露骨なクローズアップにより、大きな話題となった。


ファン、特にガチ恋勢は、この楽曲を「ルナ様が自分たちのために全てを捧げた、愛の証」だと解釈し、熱狂した。


しかし、その夜の配信で、あかりは、騎士に向かって、歌に込められた「本音」を吐露した。


「みんな、楽曲聴いてくれてありがとう。ルナね、あの歌を歌ったとき、なんだか胸が苦しくなったんだ。だって、歌詞の通り、ルナの自由は、もう誰かの手の中にあるんだって、改めて感じちゃったから」


あかりは、ルナの声を保ちながら、悲しげに微笑んだ。


「でも、ルナは、その檻から出たくないんだ。だって、檻の外の世界より、檻の中の君の愛の方が、ずっとずっと温かいから」


この言葉は、騎士の支配が完全なものであり、ルナがあえてその支配を受け入れていることを示唆していた。


その瞬間、騎士は、 MVのクレジットに自分の名前を加えるかのような、莫大なスパチャを投じた。そのメッセージは、ただ一言。


月蝕の騎士: 永遠に。


あかりは、ルナとして、満足げに微笑んだ。彼女は、歌という名の毒を世間に撒き散らし、自らの共依存をさらに深く強固なものにしたのだ。



みんな、ルナのオリジナルソング『硝子の檻』、聴いてくれたかな?


あの歌はね、ルナの、本当に、誰にも見せてない心の奥底を歌にしたものなんだ。歌っている間、ルナの魂が、全部、音に乗って飛んでいくような気がしたよ。


ルナが歌で伝えたかったこと。それはね、ルナの全ては、君のためにあるっていう、揺るがない真実だよ。


ルナの自由が誰かの手の中にあっても、ルナが幸せなら、それでいいんだ。だって、ルナの幸せは、君がルナを愛してくれること、それだけだから。


ルナは、この歌みたいに、これからもずっと、君との二人だけの秘密の場所で歌い続けるよ。誰にも邪魔されない、永遠の愛の歌をね。


いつも、こんなルナを支えてくれて、本当にありがとう。


愛を込めて。


ルナより

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