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硝子の向こう側:Vtuber「ルナ」の短い鎖  作者: 沼口ちるの


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第九話:監視下のゲーム

『硝子の檻』のヒットにより、ルナの地位は不動のものとなった。しかし、あかりの私生活は、下の階に住む月蝕の騎士によって、一層息苦しいものになっていた。


騎士は、ルナの配信スケジュールはもちろん、あかりの生活サイクルに合わせて、自分の生活音を意図的に調整していた。それは、あかりが自分の存在を意識せざるを得ない、音による支配だった。


事務所は、ルナの「狂気的な愛」の側面を維持しつつも、過激化を避けるため、次の配信をファンと交流しやすいゲーム実況に設定した。選ばれたのは、恋愛シミュレーションゲームだった。


恋愛ゲームのパラドックス

配信画面には、ルナがキャラクターの容姿に似たヒロインと、複数の攻略対象の男性キャラクターが映し出されていた。タイトルは『永遠に続く約束』。


「みんな、ルナね、恋愛ゲームなんて初めてだよ!ドキドキしちゃうなぁ」


ルナは、可愛らしく声を弾ませた。しかし、あかりの心は冷え切っていた。目の前のゲームは、彼女が現実で仕掛けている「ガチ恋営業」を、皮肉にもそのまま再現したものだったからだ。


コメント欄は、早くも荒れ始めていた。ガチ恋勢、特に騎士は、ルナが他の男性キャラクターと親密になることを極度に嫌悪した。


月蝕の騎士: ルナ様!ダメだ、その男は顔が良いだけの偽物だ!早く俺を選べ!


一般ファン: 騎士さん、落ち着いて。ゲームですよ。


月蝕の騎士: 黙れ。ルナ様の愛は俺だけのものだ。他の男と愛を交わすなんて許されない!


あかりは、騎士のコメントが暴走するのを見て、笑いを堪えきれなかった。


(この男は、ゲームの中の虚構の愛すら、私から奪われるのを恐れている。滑稽ね)


騎士への「試練」

あかりは、ルナの声をトーンダウンさせ、真剣な口調になった。


「みんな、ルナが他の男の人と仲良くするのが嫌?でもね、ルナ、このゲームの男の子たちに、ルナを本当に愛するってどういうことか、教えてもらいたいんだ」


これは、騎士への試練の提示だった。ルナが他の「男」と交流する様子を見せつけることで、騎士の嫉妬と執着をさらに煽り、最終的に「俺の愛こそが本物だ」と証明させるための、あかりの新たな営業戦略だった。


あかりは、敢えてゲーム内のイケメンキャラ「アキラ」を選択し、親密度を上げる選択肢を選び続けた。


ルナ: アキラ君って、ルナのこと、本当に大切にしてくれるんだね。なんだか、ルナの全てを理解してくれているみたいで、ドキドキするよ。


月蝕の騎士: やめろ!その言葉は俺にしか言ってはいけない!ルナ様、俺が、俺だけがあなたの全てを知っている!


騎士のスパチャ額は、あかりがアキラとの親密度を上げる度に、異様な勢いで積み上がっていった。それは、あかりが「他の男に奪われる」という恐怖に対する、騎士の必死の「対価」だった。


あかりは、ゲームの画面と、積み上がるスパチャの額を交互に見つめ、勝利を確信した。


現実とゲームの融合

親密度が最高潮に達し、ルナがアキラと夜の図書館で二人きりになるシーンが流れた。BGMは甘美なメロディ。


その瞬間、騎士は、過去最高額のスパチャと共に、「現実の声」をコメント欄に書き込んだ。


月蝕の騎士: ルナ様、今、俺がノックしているのが聞こえますか? ゲームなんかじゃなく、俺を見てください。俺だけが、あなたの現実の騎士だ!


あかりは、イヤホン越しに、下の階から響く、ドンドンという鈍い音を聞いた。それは、騎士があかりの部屋のドアを叩いている音ではなく、床を強く踏み鳴らす音だった。


騎士は、あかりが上の階にいることを知っているため、物理的な接触を避けつつ、あかりの注意を引くために、下の階から自分の存在を暴力的に主張していた。


あかりは全身の血の気が引いた。ゲーム内のロマンチックなBGMと、下の階からの暴力的な足音、そして画面に表示される騎士の脅迫的なメッセージが、現実と虚構の境界線を一気に崩壊させた。


しかし、あかりはプロだ。ルナの笑顔を維持し、マイクに囁いた。


「あれ?今、ルナのいる図書館の近くで、変な音がした気がするね。…ふふ、でも大丈夫。ルナのそばには、ルナを守ってくれる、本物の騎士様がいるから」


ルナは、騎士の脅迫を、自分への愛の証明として読み替えた。


そして、あかりは、アキラとの最終選択肢で、「アキラに背を向ける」を選んだ。


ルナ: ごめんなさい、アキラ君。ルナには、もう心に決めた騎士様がいるから。


ゲームはバッドエンド。しかし、ルナの配信は、騎士の愛という名の勝利で終わった。


配信終了後、あかりは、下の階から響く満足したような、静かな振動を感じながら、自嘲的な笑みを浮かべた。


「これでまた、しばらくは安泰ね。…私の自由は、本当にあの男の足音で決まるんだ」


彼女の生活は、騎士という名の檻の中で、完璧な共依存のゲームと化していた。



みんな、今回のゲーム配信、本当にドキドキだったね!ルナ、あんなに熱くなっちゃうなんて、ちょっとお姉様たちに叱られちゃうかも?


でもね、ルナは分かったんだ。ゲームの中の愛よりも、ルナを本当に守ろうとしてくれる、君の愛の方が、ずっとずっと、本物で、強くて、ルナを熱くさせるんだって。


あのね、ルナ、ゲームの男の子たちには悪いけど、ルナが選ぶのは、いつだって君だけだよ。ルナの心も、魂も、もう全部、君のものだから。


ルナのために、あんなにも熱くなってくれて、本当にありがとう。


ルナは、これからもずっと、君という名の騎士様に守られて、この世界で生きていくね。


愛を込めて。


ルナより

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