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究極・生命体『ZOMBIE・G(ゾンビ―グ)』  作者: ヒルキー Show
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第一話『無職で不老不死』

Question? 『不老不死』になると、何をしなければいけませんか?

Answer!  永遠に『暇潰し』をしなければいけません!

ちょいと転寝(うたたね)しただけだと思ったが、本気で眠ってしまったらしい。

あまりにも腹が減り過ぎたので目が覚めてしまった。何時間か、何日間か、何年間か寝ていたらしい。今どこだ? 今いつだ? そもそも今俺は、生きてんのか?


 不老不死なので死なない事は分かっていた。そこで腹が減り過ぎるとどうなるのか試してみた。他にやることがなかったからだ。不老不死で腹が減り過ぎると苦痛の余り気を失うらしい。実際に試してみたから本当だ。ただその苦痛から逃れる方法は「食べる」ことしかないらしい。命がけの暇潰しが終わった。一つ自分の限界を突破した感じだ。限界を突破するなら生きているうちにしておかなければ己の成長を実感できない。当たり前か。あ~しかし腹が減った。仕方がない。それでは何か食べに行こう。金は腐るほどある。とモタモタしている間に日が暮れてしまった。仕方ない明日にしよう。


 それでは、ここは何処だっけ? 部屋で眠っていたか、山の中で死にかけていたか、無人島で(くつろ)いでいたか忘れてしまった。ここは何処だ? しばらく虚ろな頭で考えてみた。「起きた時に人目につくと面倒臭いので、無人島の洞穴の中で寝よう」と決めたことを思い出した。そうだ、そうだ、思い出した。山の中で死にかけていたのは前回だ。寝る場所は、起きた時に寒いと嫌なので南の方の島にしたはずだ。確か、琉球とか呼ばれていた土地のはず。いや待てよ、エゲレスだっけ? イスパニアだっけ? どこだっけ? 思い出せない。まぁ、いいか。昨日か一昨日よりましだ。少しずつ頭の中がスッキリしてくると、色々と思い出してきた。よし、この勢いで外に出よう。と、モタモタしているうちに雨が降って来た。日が悪い。今日は休みにしよう。寝ている間に雨で体が溶ける体質になっているかもしれない。油断は禁物だ。


 それでは、今いつだ? たしか、富くじで300両(1両≒10万円※この男の起きていた時期の相場)ほど当たったはずだ。人目につくのが嫌なので、その金を持って逃げてきたはずだ。金を持っていることと、不老不死がバレると碌なことがない。さて、金を数えるか。あれ? 金がない。盗まれたか? 盗人は、俺の存在に気付かなかったのか? 俺が寝ている間に、一体何があったのだ? 何がどうなったのか? 仕方がない、人前に出たくはないが、現在の状況を調査しに行こう。と、考えていたら、また日が暮れて来た。物事が先に進まないが、自分が十分に納得するまで軽はずみな行動は避けるべきだ。明日にしよう。


 あれ? そういえば俺の手は何処だ? 足はこの辺にある。何かを掴もうとするとつかめる。ということは、ここに手があるのだ。俺の体は、透明なのか? 着物は着ている。栄養が足りないので、皮膚を構成する組織を維持出来ないということか? そんな漫画みたいな話はない。俺の存在そのものが漫画だ。そんな特殊な能力を身に付けてしまったのか? 難儀なカラダだが、使いようによっては便利だと考えよう。流石は俺! 環境への適応が早い。しかし、飯を食うと治るのか、これは? 「脱ぎ散らかした着物の傍に金があった。だから金だけ盗まれた」と言うことか。今は、これを正解としよう。腹が減り過ぎて、考えるのが面倒だ。正確な結論を据え置こう。


そんなことを考えていたら、日にちがずいぶん経っていたらしい。暗くなって、雨が降って、明るくなって、暗くなって、明るいときのまた雨が降った。どうやら、この間起きた時から3日か4日か5日経っているらしい。何日経ったかは数えていない。だから、1年経ったよと言われても信じただろう。誰か教えてくれ。少し考え事をしているだけなのに、目まぐるしく月日が経っているように感じる。世の中せわしなくなったもんである。さて、重い腰を上げて外に出よう。太陽に当たると死んでしまうか確かめなければいけない。不老不死と太陽は、天敵である場合が多い。空腹で死なないのに、太陽に当たって死んだのでは、下手をすると数百年間の暇潰しが無駄になる。今まで太陽は問題なかったはずだが、寝ている間に体質が変化したかもしれない。ええい、ままよ! これは、緊張の一瞬だった。しかし、別に死ななかった。太陽の光が痛いわけでもない。だから、根本的な生命の維持に必要な偉大なる宇宙の恵みに感謝した。死を覚悟した後の生存は、なに事にも増して爽快だ。賭けに勝った気分だ。誰も損していないかもしれないが、俺は得をしたのだ。出来れば、誰かにこの感動を分け与えたいくらいだが、無理ですな。自分の心の奥にそっと仕舞っておこう。誰かと共有できる日を心待ちにして・・・。


 仮に50年か100年経っていると仮定しよう。一応、着物は脱いで外に出てみよう。今は、裸で歩き回ると捕らえられる時代かもしれない。そして、食べ物を食った瞬間に元に戻られても困る。俺は変態ではない。恥じらいを持とう。草鞋はあるが、履いていくのを止めよう。草鞋だけが動いていると目立つ。寝ている間に、俺を取り巻く環境が激変していたらどうしよう? その場合、そのままその状況を楽しむことにしよう。他に楽しめるものがない。何も変わっていなかったらどうするか? ちょいと長い夢を見ていただけだと考えよう。これで、どちらの場合でも対応が可能だ。


 俺は今、何歳だ? 少しずつ思い出さないと忘れてしまう。俺には、名前があったのか? ムチュウだっけ、アンチュウだっけ? 二つ合わせて「ゴリモサク」と名乗ろう。誰に話す訳でもない。こんなのは記号だ。芸名だ。筆名だ。もっと古い呼ばれ方だった気もする。まぁいい、そのうちに思い出すだろう。現状に合わせた、素敵な名前を都合よく名乗ればいい。誰も俺の名前にも存在にも興味を示さないだろう。これだけ、今の情報をまとめれば大丈夫だろうか? 新しい情報を受け入れられるか? 情報過多で死ぬことはあるのだろうか? そうなれば、人類初の情報の多さで死んだ人間になれる。本当に外に出て大丈夫なんだろうか?


あ~しかし、腹が減った。気分が悪いし、腹立たしくもある。キリキリと胃が痛くなり、鬱陶しいことこの上ない。なぜ腹など減るのか? 「腹が減った」と言う形で感じているだけで、生きているということは、根本的に何らかのストレスがあるのかも知れない。それを解明してみるのもいいかもしれない。人生目標(ライフワーク)にしよう。他に目的もないし。この間起きた時から、いい加減ひと月ぐらいは経っているんではないだろうか? いい加減、外に出よう。


外の世界は、別に毒ガスで充満している訳では無いらしい。普通に呼吸が出来る。石の塊の平らな道(舗装された道)を、不思議そうに歩きながら、あれこれと見て回ると、ここはやはり異世界であった。鉄の塊(車)が多い。鉄の塊(飛行機)が飛んでいる。異人(外人や日本人でコスプレした人)も多い。Aのパターンだったか・・・。この環境に適応する必要性に迫られた。家族連れで食事する広場フードコートで、客の食い残しを持ち帰り、洞穴で食べ、皮膚の再生を観察した。子どもが飲み残した液体を拝借してきて少し飲んでみた。口の中がビリビリして、違和感があった。体が鈍っていたので、言葉も訛っているだけだと思ったが、舌も鈍っていた。あれが、甘いという味覚だと気づくのに時間がかかった。こんなものが栄養の塊でないはずがない! 今の人たちは、液体でも栄養を摂れるのか? 見つからないように必死で持ち帰った食べハンバーガーを、食べてみると体中の細胞が喜んでいた。血沸き肉躍る『生命存続の祭』が、体中の細胞を鼓舞して賑々しく行われていた。これが美味いという感覚だということにはすぐに思い出した。もっとくれ、もっとくれと脳が所望している。熱烈な所望だ。空腹が解消されると半日ほどで徐々に皮膚が見えるようになった。再び空腹を感じ始めると、半日で皮膚が透明に戻っていった。手や足から再生してくれたら、滑稽本マンガのようで面白いのだが、胃の周囲から腸にかけて皮膚が可視化し、手先や足の先、髪の毛の順番で再生するのが鬱陶しい。空腹が極まると、胃の周囲から腸にかけて徐々に透明になった。我ながら気持ち悪い。悪戯して遊びにくいではないか。

恐らく、この世界で最年長である私は、フードコートからの残飯あさりを、数カ月続けていた。正確に数えていなかったが数日かも知れない。洞穴と食事場を行ったり来たりする生活を続けているうちに、世界観が少しずつ分かって来た。言葉も少しずつ理解できるようになった。いつの時代でも、人の世で生きて行くためには、人と上手に接しなければいけないことを思い出した。社会復帰せざるを得ないことを薄々感じてきた。よし、社会復帰しよう。え? どうやって? 得意技である「結論の先延ばし」を使った。


やはりそうだ。これはそうだ。それもそうだ。寝る前から、結論は決まっていた。最も確率の高い、今やるべきことは「家に帰る」ことだ。家を探そう。50年くらいかかっても構わない。兎に角帰ろう。家族と呼べる存在がいたかも知れない。温もりを探しに行こう。


第二話『あら帰って来たの? 死んだと思っていたわ。数百年ぶりの再会』に続く


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