第1話 初心者独特の状況確認
──どうしてこんなことに、
周囲を見回してそう思った。
ここは彼の知っている場所ではなく、彼の世界のどこかでもなく、本当に知らない世界なのだから。
どこから来たのかも分らず、どうやって来たのかも分らず、どうしてここにいるのかも分らない。
「異世界転移なのか・・・」
服装は元から着ていたものである『上下ジャージ』に変わりないが、所持品が異なっている。
鞄に入れていた諸々の装備の代わりに、無地の巾着を所持しており中身を見ても知っているものが存在しない。スマホや財布等の貴重品がなくなって代わりに『手帳』、『装飾のされた板』、『1枚のカード』が入っている。
この世界のものに置き換わったとかではないだろうことはわかる。
帰宅途中にいつの間にか異世界転移してしまったのだから準備するまもなかったのもあるが手持ちの装備を見るに、何を準備するまでもなく装備は服装以外固定になるのだろうが。
「これどうやって生きていけば良いんだ。」
『金』も『食料』も『家』もない僕に待っているのはろくでもない生活しかないのだが、リスクしかない窃盗のような犯罪を繰り返して生きていくしかないのだろうか、とりあえず仕事を探さなくてはならない。
先行きの見えなさにうっかりため息が出るが仕方ないだろう、先行きの見えない点については元の世界もこの世界も違いはないが、環境の面については元の世界は備わっていたためこちらの世界の方が厳しいか、しかし帰れるとしても元の世界に帰りたくはない。
徳が『高い』から異世界転移したのか、徳が『低い』から異世界転移したのかは疑問だが、物語の中にしか存在しない異世界に転移してきたことに関しては気分が上がるのも仕方ないといえよう。
黒髪で平均より僅かに背が高いか、部活等行っていないため細めな体格に色白な肌で現代の高校生としては不健康な部類である。
加えてぱっと見特徴のない顔のパーツに『凡庸』という単語がお似合いの少年のはずだが、周囲からの視線を集め目立っている。
それもそのはず、周囲にいるもの達は金髪や茶髪など黒髪が『珍しい』と言わんばかりにバラバラで、服装に関しても全身を覆うローブや騎士のような鎧姿のものもいれば冒険者かと思われるように武装しているものもいた。
珍しい格好の自分はどうやら注目の対象になってしまっている。
何かのドッキリじゃないかと懸念していたがそんなはずないことも理解して、本当に異世界転移してきた実感が湧き出す。
異世界転移したのなら何かしらのイベントを探しに行くべきだと町に繰り出していく。
フクマ・ミツルの異世界生活がここに幕を開けたのだった。
☆☆☆ ☆☆
自分に他人にない才能が有ればうぬぼれるように、僕は特別な存在としてこの世界に呼ばれたのではないかと期待していた。
何度目かになるため息をついてまたしゃがみ込んでしまう。舗装された道を歩いているが運動不足の少年には長時間の散策は厳しいものであった。
散策の成果と言えばこの世界の文字は読めるし書くこともできて会話も通じる事、人間以外にも異世界よろしくな亜人と呼ばれるようなケモ耳の人間もいれば、見ためから犬顔の『獣人』のような人もいた。
文明は中世風で機械類も見当たらずに移動は馬車と現代チックな物は見当たらず、石造木造の建物が基本である。
問題は帯剣する人がいる程度には治安が悪いのか、町の外部に武装していなければならない原因がいるのか、とにかく日本ほど安全とはいえないことも把握した。
というほどあちこちで争いが起きているわけでもないのは事実として助かる要素である。
「流れは悪くないといえるか?ひとまず身分の証明ができないのと、生活基盤がないこと以外には不安要素は強くない」
コミュニケーションがとれるのは大事である。とはいえ生活基盤がないのは大問題に違いないが。
また近くを馬車が走りすぎていくが引いているのは馬ではない生き物だった。馬ほどのサイズに変わりはないのだが二足で走っており、顔がトカゲのようであった。
車どころかバイクや自転車のない世界だから馬車が移動の道具なのだろう、誰もが馬車に乗っているというような訳ではなくむしろたまに見かける程度の物だから殆どは徒歩での移動になるのだろうが。
カルチャーショックにいつまでも浸っているわけにはいかないのでまた活動を再開するが異世界人である知識チートが使えるような要素が思いつかず、そもそも知識がそこまでねえと落胆する。世界観が問題なのか、僕でも作れる物は既にこの世界に存在している。
お店を巡ってどんな物があるのか見てきたけど、全く知識のない『魔導具』なんてのもあった。『魔法』が存在する世界なのは間違ないことだし、このままでは何ができるのかすら定かではない。
結局異世界召喚された目的も原因も分らずじまいで、探る方法がないのだけは分った。
あと調べるべきはこの所持品である巾着の中身だろう。
持ち物その1、『手帳』は書くものがないので何もかけない、現状使い道のない手帳だ。
持ち物その2、『装飾された板』は材質から何か分らない、金属のようでもあるし、プラスチック感もなくはない、後軽くて条件が2つ記載されている。
持ち物その3、『一枚のカード』はタロットカードであると思われる。何のカードかわからないが数字の12が書かれている。デザインは人が逆さまに描かれている。
タロットカードの13番なら死神って知っているが他の数字に関してはほとんど知らない。
問題はこの板だろう、条件が2つあって1つは少女を救う、もう1つが方針を示せ。
これは『日本語』で書いてあるという唯一救いになる目的を示す物である事が超重要、なくせない。
だがこの条件は何だろうか、少女を救うとは誰を助けろと言うのだろうか、方針を示すは決意表名でもすればいいのかと考える。
この二つがこの世界でしなくてはならないことなのだろうか、少女を救うっていつピンチになるのかも分らない状態でどうすれば・・・
異世界召喚した少女がいてその子を救えとかなら理解出来る。なんで僕は未だに一人なんでしょうかね。
物理的な救えだと身体能力に変化がないことを鑑みて詰みという結果を受け入れざるを得ないのだろうか、異世界行ってすぐにゲームオーバーは勘弁願いたい。
ひとまず荷物を巾着にしまいまた動き出す。
条件とやらは検討つくまで保留にして当面の生活をどうにかしないといけない。
もはや異世界でのわくわくときめきを不安が大きく上回り泣きそうである。
「君大丈夫?」
そんな時に声をかけられて、それが女性のものであった為に振り返る。
見ればローブが顔まで隠しているため、警戒してしまうがフードを取ると板の条件に合致しそうな少女が現れた。
突然現れた美少女にたじろぐがこの子が例の救わなければならないなら慎重に行動して仲良くならないと条件とやらの達成ができなくなってしまう。
いつも通り恋愛シミュレーションゲームのように、選択肢がでてセーブアンドロードで全選択肢を試すことができるのならばどれだけよいことか、今は無数の選択肢の中から答えがあるのかすら不明な中で1度きりのチャンスしかないという逆境に心が折れそうだ・・・・すごい緊張してる状態で考えたとおりに立ち回れるとも思えない。
「えーと、急に話しかけてゴメンね、困ってそうだったから」
現実はメニューを開いて一時停止する事も出来ないのか、リアルタイムで物語が進んでしまうためこのままだと話しかけられて無視する奴になってしまう。
「初めまして僕はフクマ・ミツルと申します、訳あって先行き不透明で正直助けて欲しいと思っているのでお話よろしいでしょうか」
コミュ障は会話の準備を整えないとまともな会話ができないことをどうか理解して欲しい、付け加えるなら多少慣れるまでこれが続くと言うことも分って欲しい。
ここでするべきはなんだろうか、質問をすればいいのか、小粋なギャグを挟めばいいのか、身の上話でもするか、異世界転移という話が通じるのかすら不明だし変な奴と思われて逃げられると振り出しよりマイナスまであるぞ。
「実はかなり重症な迷子なんだ、ここってどこかな」
素直にぼかして質問をするほかないだろう、ギャグの持ちネタなんてないし文化も違う身の上話を聞いて帰り方が聞けるとも思わない。
「なるほど、ずいぶんと大きな迷子だけれどそういうことなら力になろう。私は占い師だからいろいろと見てあげる。」
急展開なオカルトの勧めに困惑が混じり情報処理が追いつかない中で開き直って聞いてみることにする。
考えるだけ無駄なら考えなければいいじゃないか、盲信するわけでもないが参考程度に聞いていれば当てはまることもあるかも知れないのだから、それにこれでいい反応を見せれば好感度も上がるかも知れない。
「占いはカードで行うけれど、何から占いたいのかな」
いきなり核心を突く物を聞いても当たるかわからないためジャブからいこうかな。
「ずばり、生涯のパートナーについて聞きたい」
異世界にきて美少女と結ばれるのは王道、僕にはどんなお嫁さんが待っているのか聞かないわけにはいかないだろう。
「────まずは運命の人を聞きたいと言うことか、道だけじゃなくて人生の迷子でもあるのか」
別に間違ってる訳じゃないけどそういうの言わないもんじゃないかな、この人助ける対象か怪しくないか。
「私ははっきりと結果だけを伝える占い師だから結論から言うけど────わかんないや、ゴメンね」
やっぱりこの占い師詐欺師だわ、条件の少女でも何でもない人違いだわ。
「ありがとうございました。」
占い代金でぼったくられる未来が見えた、僕の直感占いがそう言ってる。
一言お礼を言って立ち上がる。
この異世界は初見プレイヤーにやさしくないよね。
可能なら毎日、頑張って2日に1話書きたいなと思います。