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86_異常事態に、できることを必死に

 

「え?あれ?うそ、なんで……」


 目に見えて勢いを増した瘴気だまりに、リゼットも戸惑っているようだった。


「リゼット様!瘴気だまりの力が強いせいでいつも以上に浄化が困難なのかもしれません!もう一度、今度はさっきより聖魔法の威力をあげて浄化を!」

「わ、分かったわ。そうね、そうよね、街の人達に被害が出ては大変だから、無意識に力を抑えてしまっていたわ」


 ソレイユ様の言葉にハッと我に返ったように頷いて、リゼットはさっきよりも大きな聖魔法を使うべく、魔力を手元に集中させていく。


 その魔力を見て、思わず声をあげそうになってしまい、咄嗟に口を手で覆う。

 魔力の色が、さっきよりもさらに濁り、モヤが増えていたのだ。


(これは一体どういうこと?こんなの……普通じゃない!)


 魔力が変わることはあっても、こんなにも急激に変化するなんて、きっとありえないことだと私にも分かる。

 リゼットに何か異常が起きていることは明らかで、だけどそれに気づいているのは私だけのようだった。


(セルヒ様も、気付いてない……!)


 セルヒ様も魔力の色を見ることができるけれど、常に見えている私とは違って、そのためには目に魔力を纏う必要がある。

 きっと瘴気だまりやそこから生まれる魔物の対応に備えて、目の強化はしていないんだわ。


 何が何だか分からないけれど、本能的に、あの魔法を瘴気だまりにぶつけては良くないことが起きると分かった。頭の中に警鐘が鳴り響く。


「リゼットー!魔法を使ってはだめーッ!!!」


 咄嗟に叫ぶけれど、勢いを増し続けている瘴気だまりがその瞬間、ごうっと大きな音を立てて、私の声をかき消してしまった。

 さらに、その音とともに瘴気の塊がぶわりと溢れ出る。


 焦る私をよそに、リゼットはまた瘴気だまりに魔法を放つ。

 そして、やはり瘴気だまりは消えるどころか、みるみるうちにますます強く、大きくなっていった。


「お、おい、どんどん大きくなっていっているぞ……!」

「これってまずいんじゃ……」

「ひっ、な、なんだか苦しい、痛い……!」

「やだ!に、にげ、逃げなくちゃ……!」


 目に見えて勢いを増していく瘴気だまりに、徐々に街の人達にも混乱が広がり始める。

 中には、すでに瘴気の影響が出始めている人もいるようだった。

 それでも、人が多く集まりすぎて、すぐに逃げ出すことができないでいる。


 リゼットはそんな周囲の状況にも気づかず、浄化が上手くいかないことに焦っているように見えた。


「なんでっ!?こんなのおかしい!浄化!浄化!浄化ーっ!」


 リゼットは何度も何度も聖魔法をぶつける。

 だけど、恐ろしいことに、リゼットが魔法を使えば使うほど、瘴気だまりはどんどん大きくなり続けていた。


「やめろ、リゼット・リーステラ!お前の魔法に反応して瘴気だまりが大きくなっている!」

「そんなわけがないでしょう!?離して、私の邪魔をしないで!ルーツィアに私の活躍を妨害するように言われているの!?ひょっとして、瘴気だまりを大きくしているのもあなたたちなんでしょう!?」

「何を言っているんだ!?そんなことが出来るわけがないし、できたとしてもするわけがないだろう!」

「だって、ルーツィアが、ルーツィアがいるからこんなことになっているに違いないもの……!こんな瘴気だまり、今までは一瞬で消すことができたのに、こんなのおかしいもの!」


 この異常な状況に、魔法を使い続けるリゼットをセルヒ様が慌てて止めに入る。リゼットはしきりに私のせいにしようとしているみたいだったけど、そんな声も街の人たちには届かない。

 ソレイユ様は呆然と、リゼットと瘴気だまりを見比べていた。


 その時、ついに瘴気だまりから出たモヤから、小さな魔物が湧いて出た。


「くっ……!ソレイユ様、このままでは……!」


 その魔物をすぐさま切り捨て、ギズリ様が焦った声を出す。


 そんな光景を前に、私はぐ、と手を握る。

 嫌な予感が、当たってしまった。


 ──とにかく、今は自分にできることをしなくちゃ!


「フワフワ!瘴気にあてられて動けなくなっている人達を、少しでも離れた場所に避難させて!」

『だ、だがルーツィアの側を離れるわけには……!』

「私は大丈夫!回復薬も持っているし、討伐についていくことが増えて瘴気にも体が慣れたのか、なんともないから!」


 そう、不思議なことに、これだけの瘴気を前にしても、私は全くその影響を感じていなかった。

 だけど、こんなにも濃い瘴気を近くで受けることがなかった街の人達はかなり体に負担を感じているようで、膝をついて、歩くことさえできなくなっている人もいる。


 まずは、その人達を移動させなくちゃ!

 いくらセルヒ様やグレイス様がいてくれても、これほど近くにいるままじゃ瘴気だまりから魔物が出てきた時に危険に晒されてしまう!


『……分かった。だが、ルーツィアが危ない時は、我はルーツィアを優先するぞ。たとえ、目の前で他の人間が襲われていてもだ』

「分かった。危険な目にあわないように、私も気を付ける」


 フワフワは瘴気だまりに近い場所にいる人達を助けるため、飛び出していった。ついでに風魔法を使い、瘴気だまりから発生している瘴気のモヤを吹き飛ばしている。


 私は比較的外側にいる人達の中で、特に動けなくなっている様子の人の元へ駆け寄る。


「大丈夫ですか!?私が手を貸すので、こちらへ!他の皆さんも、動ける人は私についてきてください!安全な場所まで誘導します!」


 私には魔力や魔法の色が見える。

 セルヒ様とグレイス様が周囲に結界を張ってくれているのもはっきり見えているから、この魔法の外に皆を連れだせば、少しの間は安全なはず。この結界は魔物や瘴気を外に出さないための物だと分かるから。


 だけど、そもそも王都には結界が張られていて、その内側は安全なはずだったのに、こんな状況に陥っているわけで。

 そのことを思えば、セルヒ様たちの結界も、ずっともつとは言い切れなかった。


 セルヒ様たちにも瘴気だまりを消し飛ばすことは可能だから、なんとかしてくれると信じてできることをするしかない。……だけど、強くなるばかりの瘴気だまりを消すには、どれくらい時間がかかるんだろう。


 瘴気だまりが強くなる速度が速すぎて、セルヒ様の手にも負えないかもしれない。


 そんな不安を抱きながらも、私は必死に街の人達に声をかけ続けた。


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大好きな勘違い・すれ違い盛りだくさんのお話です!ぜひよろしくお願いします^^

【勘違い令嬢は魔術師になりたい~聖女になった義姉に全て奪われましたが、好都合です!~】
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