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54_怒りを隠す気もない魔法使い②(セルヒ視点)

 


「バカかお前は?」

「えっ」


 レオナルドは驚きすぎて目を丸くして絶句しているが、怒りが俺に言葉を吐き出させる。


「お前は俺に死ねと言っているのか?」

「ええっ……?」


 困惑しているようだが、どうして分からないのかが理解できないな。

 そもそも、どいつもこいつも分かっていないのだ。大神官はまだしも、レオナルドは知っているはずだろう?俺のルーツィアへの気持ちを。

 恐らく、俺とルーツィアの元兄であるミハイルとの間にあったことも把握しているはずだ。


 それなのに、よくもこのような戯言を口に出来たものだとむしろ感心する程だ。


「俺の人生で、死んでもやりたくないことが三つある。一つ目がルーツィアに誤解されるような行動をすること。二つ目はルーツィアを傷つける可能性があることをすること。そして三つめがルーツィア以外の女に無理をしていい顔するなどという愚行を行うことだ。少なくとも確実に死んでもやりたくないことのうちの二つをさせようなどと、お前は俺に死ねと言っているのか?」


 分かりやすく言いなおしてやると、レオナルドはますます顔を引き攣らせた。

 ──ああ、本当に魔塔の魔法使いになってよかった。こういう時ほどそれを実感することはない。

 何度もいうが、魔塔は独立した存在で、国に所属しているわけではない。王家を立てているのはこちらの善意であり、その必要は本来ないのだ。


 ここまで愚かな依頼をされて、敬う気もない。そういう時に取繕わずにすむというのはとても楽だからな。国に所属した貴族であれば、どれほど憎くともこんな態度は取れないし、王命として下されればあの聖女の護衛さえ引き受けなければならなかっただろう。

 想像するだけでぞっとする。そんなの絶望以外のなにものでもない。


「……少し、極端すぎないか?」

「どうしてもというなら、俺は国を出ていく」


 レオナルドはサッと血の気を引かせ、顔色を悪くした。

 俺は俺の価値を分かっている。所属しているわけではないとはいえ、魔塔があるのはこのユーギルハンツ王国であることは間違いない。

 そんな魔塔の魔法使いの中でも特別な力を持つ存在。そんな俺がこの国を捨て、他国に力を貸すなどとなれば、その国の決断次第ではユーギルハンツは簡単に滅びるだろう。


 脅しと思うだろうか?恋に憧れを抱いた時点で、こういう時に全ての優先順位を愛する人とできるように力をつけたと言っても過言ではないのだ。こんな時に脅さなくてどうする。


 魔塔の魔法使いは、誰よりも自由で、自分勝手な存在なのだ。


「……分かった。依頼については忘れてくれ」

「理解していただけたなら良かった。俺も家族がいるこの国を捨てたくはないからな」


 レオナルドは諦めたように苦笑したあと、そのままフッと肩を落とし、力なく笑った。


「それにしても、君が死んでもやりたくないという三つに、ルーツィア嬢の身が危険晒されること、がないとは、意外だな」


 俺はレオナルドを睨みつけた。


「そもそもルーツィアが危険な目などに遭う前に俺が防ぐ。それでも万が一そんなことが起こった時には──その瞬間、すでにこの世界は滅びているだろう」


 想像するだけでも心臓に冷たい血が流れるような心地になる。

 俺の視線を受けて、レオナルドは両手を上げて降参の姿勢を見せた。


「そのようなゾッとする程冷酷な声を出すな。負け惜しみの冗談だ。……君の答えが冗談などではないことも理解した。申し訳なかった」


 あからさまな口調にわざと言っていることも理解していたが、それが冗談になると思っているところが愚かなのだ。

 ミハイルといいレオナルドといい、悪い人間ではないことは分かるが、本当に俺とは相いれない人間だな。

 まあレオナルドは特に公人であり、私情よりさきに守るべきものがある。根底にあるものが違うのだから、分かり合えなくとも当然なのかもしれない。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 魔塔に戻り、オーランドに鬱憤を吐き出していると、それをルーツィアに聞かれてしまった。

 いや、元々説明するつもりだったのでそれは問題ないのだが、より不安にさせない状況で、微塵も心配を抱かせないように話したかったのに……それもこれも、レオナルドが不吉なことを口にしたせいで、悪い気が生まれたせいでは????


 魔力には人そのものが持つエネルギーが宿る。感情が生むエネルギーがそのまま魔力に多少なりとも影響を与え、気として溢れ出すことは普通に起こることだ。


(だから不吉な冗談など口にするべきではないんだ……言葉は力を持つのだから)


 可愛いルーツィアに癒されて、不吉な話をやめて彼女の今日の出来事の話を聞かせてもらう。


「セルヒ……本当にルーツィアの前では可愛いねえお前」

「うるさい」


 そんな風にオーランドのうっとうしいからかいを躱しながらルーツィアを補充していると、ふと違和感を抱く。これは……魔力の揺らぎか?


「待ってくれ……オーランド、この魔力はなんだ?」


 俺の疑問に、オーランドより先にルーツィアが「あっ!」と声を上げた。


「あの、今日、怪我をした魔獣ちゃんを拾ったんです。ひょっとすると、その子が目を覚ましたのかも……」

「魔獣ちゃん……?」

「今、フワフワが側についてくれているんですけど。よかったらセルヒ様にも会ってほしいです!えへへ、私がお世話を担当するんですよ」


 嬉しそうにはにかむルーツィアが可愛い。

 オーランドが認めているということは、恐らく魔塔にいたうえで危険な事態になるなどという可能性はないのだろう。

 まあ、ただでさえフワフワが俺の邪魔をすることが多々ある中で、ルーツィアが可愛がる存在が増えるというのは少し気になるが……何よりも、ルーツィアが喜んでいるならばその方が重要だ。後は魔獣やフワフワよりも俺のことを気にしてもらえるように頑張るのみだからな。


 そんなことを考えながら、ルーツィアに連れられて魔獣ちゃんとやらの元へ向かい、部屋に入る。

 そこにいたのは小さな魔獣。

 人が近づく気配に気づいたのか、目を開けている。


「魔獣ちゃん!たくさん眠れた?もう怪我は大丈夫?」


 恐る恐る近づくルーツィアを、その大きな瞳で見つめ、伸ばされた手に威嚇することもなく大人しく頭を撫でられている。

 この分なら確かに危険はなさそうだな。


 無意識に詰めていた息を吐き、もっとよく観察をしておくかとルーツィアと魔獣の元へ俺も近づいていったのだが……


「グギャ!シャー―――ーッ!!!!」

「わわ!魔獣ちゃん、どうしたの??」


 ──さっきまで甘えるようにルーツィアに身をゆだねていた小さな魔獣が、歯をむき出しにして俺に向かって威嚇した。


 それを見てオーランドは腹を抱えて笑い転げ、ルーツィアは眉を下げて困り果てている。

 宥めても宥めても魔獣は俺にだけ威嚇し続け、飛び掛からんばかりだ。


 ……そのせいで、あろうことか俺だけ部屋から追い出されてしまう羽目になったじゃないか!

 おい、待て!なぜだ!?


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どうぞよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
たぶん半径2mくらいの間にいたから、リゼットの匂いついちゃったんだろうな。 香水臭い人のそばに居たら匂いうつるし 動物って鼻が良いし
コミカライズおめでとうございます!
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