51_新しい魔獣ちゃんとの出会い
今日は朝からセルヒ様がお仕事で魔塔を出られていて、私はちょっとだけ寂しいな、なんて思っていたりする。
そんな気持ちがバレバレだったのか、ノース様には笑われちゃったけど……。
だからこそ、どんなお仕事でも一緒に連れて行ってもらえるくらい、色んなことで役に立てるようにならなくちゃいけないよね!
そう思い、今日もオーランド様にお願いして魔法の練習をしていると、近くで見守るようにくつろいでいたフワフワが、突然立ち上がり顔をあげた。
なんだかとってもピリピリとした魔力の圧を発している……?
「フワフワ、どうしたの?」
当然オーランド様もフワフワの異変に気づいていて、私たちは訓練を中断した。
『微かに、特殊な魔力を感じるのだ』
「魔力を?」
フワフワはそう言うと、それ以上の説明はせず、集中するように耳をすませている。
オーランド様を見てみるけれど、首を振ってフワフワの次の反応を待っている。
つまり、オーランド様でも感じ取れないような微かな魔力なんだろうなって察した。フワフワは魔獣だから、きっと人間よりも魔力を感じ取る能力が高いんだよね。
とはいえ、オーランド様ほどの魔法使いでも感じ取れないくらい微かなのに、そんなに緊張感を孕んでいるなんて……一体特殊な魔力ってなんなんだろう??
しばらくそうしていたフワフワは一度小さく唸ると、
『傷ついて、死にかけている』と呟き、走り始めた。
「えっ!フワフワ!?」
『行かねばならない!我はこの魔力の持ち主をどうしても無視できないのだ!』
「フワフワ、それなら私も一緒に行く!」
『ルーツィア……』
「もちろん、私も一緒に行くよ。ルーツィアとフワフワだけを行かせるわけがないでしょう」
オーランド様が私をひょいっと抱き上げてフワフワの背中にのせてくれる。
ご、ごめんなさい、私だけ足が遅いから……。
『では行くぞ!』
フワフワが足を止めたのは、魔塔からも街からもかなり離れた場所だった。
何もない、ひらけた場所。この辺にそんな死にかけの弱った生き物がいるってことだよね……?
身を隠す場所もない。もしも魔物に見つかってしまえば、ひとたまりもないはずだ。
心配していたけれど、フワフワはすぐにその子を見つけ出した。
傷ついて血まみれで、小さな体は地面に溶け込んでしまいそうなほどに倒れ込んでいて。
だけど、息をしているのが分かった。
ああ、なんとか間に合ったみたい!よかった……!
この子は……普通の動物に見えるけど。でも魔力を感じるってことは、やっぱり魔獣さんなのかな?
猫やタヌキ、キツネにも似ているけど、どれとも少しずつ違う。
血に濡れていて、汚れてしまっているから、毛並みの感じもよく分からない。
フワフワは、その子に近づくと、心配そうに体を優しく舐めてあげている。
「フワフワ、この子を連れて帰ってあげよう?」
『……いいのか?』
フワフワは少し考えるような素振りを見せたあと、私じゃなくてオーランド様に向かって聞いた。
普段、フワフワは何があっても私を優先してくれていて、私がいるのに他の人の意見を優先しようとすることなんてほとんどない。だからそんなフワフワの反応を見て、魔塔の責任者であるオーランド様がダメだと言うかもしれないと思うくらい、この子が得体のしれない生き物であるということなんだと分かった。
そんな危険かもしれない生き物を連れて帰るなんて、あまりよくないことなのかもしれない。
だけど、フワフワがこれほど気にしているなら、連れて帰って、傷の手当てをして、助けてあげたい……。
祈るような気持でいたけれど、オーランド様は拍子抜けするほどあっけらかんと答えた。
「もちろん、連れて帰ろうね。むしろ、このまま放置するっていう選択肢はないかな~。危険かもしれないけれど、だからこそ目の届く場所にいてくれた方がむしろ安心でしょう」
オーランド様が言うには、思ったよりも生命力が強く、このまま放置して生き残り、なおかつ邪悪な心を持つ生き物だった場合、街が襲われる危険性もあるのだと。
なるほど、確かにそうかも……。
優しさとか、フワフワの気持ちとか、そういうこと以上に、魔塔の魔法使い様としての判断でオーランド様は連れていくつもりだったんだ。
そんなオーランド様の考えを聞いて、私の身も引き締まる。
……私も、もっともっと勉強しなくちゃ。しっかりと冷静な判断ができるように……!
「それに、ただの魔獣じゃなかったとしても、私に感じ取れないほど微力な魔力だしね。この魔獣が害をなそうとしても魔塔にいるかぎりは無理だから、安心していいよ、ルーツィア。ただし、この子は君にお世話をしてほしいな。フワフワが一緒なら危険はないはずだしね。どうかな?」
その言葉に、私の手でこの子にしてあげられることがあること、そしてオーランド様が任せてくれたことが嬉しくて、私は笑顔で頷いた。
「はい!もちろんです。ありがとうございます!」
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連れて帰った魔獣さん──魔獣さんっていうと、再会したばかりの頃のフワフワを思い出すから、魔獣ちゃんにしよう──を綺麗にしてあげて、怪我の手当てをした。
回復薬を使っても、思ったよりも深かった傷が治りきらなくて……こんな小さな体でどれほど痛くて苦しかっただろうと思うと涙が出てくる。
フワフワも、そんな魔獣ちゃんに寄り添って温めてあげている。
(私がちゃんと、お世話してあげるからね。元気になったら遊ぼうね)
危険かもしれないということは分かっているけど、私にはどうしてもこんなに小さくて弱っている魔獣ちゃんが悪い子には思えないのだ。
この子がどんな子かも、どうしてこんな状態になったのかも分からないのに、なぜかリーステラ家で苦しかった頃の自分と重なってしまう。
そうしてその日は魔獣ちゃんの看病をして過ごして、夜になる頃にセルヒ様が魔塔へ帰って来た。
(セルヒ様にも魔獣ちゃんの話を聞いてほしいな……!)
そう思い、セルヒ様のいるエントランスへ向かったのだけど……。
あれ、セルヒ様、なんだかとっても険しい顔をしているような?
セルヒ様が私に気が付くより先に、オーランド様と話しているその声が聞こえてきた。
「本当に、馬鹿げている。まさか俺にあのリゼット・リーステラの護衛として片時も離れずに聖女を守れなどと言いだすとは……!」
……え?




