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50_私が望まれるのは当然よね(リゼット視点)

 


「え?私を聖女として神殿に迎えたい?」


 神殿の使者が恭しく頭を下げる。私を敬い神々しいものを見るかのような視線に、じわじわと気分が高揚していくのを感じる。

 突然のことに少し驚いちゃったけど、よく考えると当然のことよね。


 ふふふ、ついに私の素晴らしさが神殿にまで伝わってしまったみたい!

 例の事件からお兄様はなんだか私を見る目が冷たくなっちゃった気がするし、仕方ないから私から歩み寄ってあげようかな?と思って話しかけても素っ気ないし、あげく、「少しは勉強をしなさい、慎ましさを身につけるべきだ」なんて的外れもいいところな内容のお説教をし始めるから、心の底からうんざりしていたのよ!


 ルーツィアがいなくなった解放感でおかしくなっちゃったのかしら?


 お母様とお父様もなぜか少し様子がおかしいし。落ち込んでいるのか焦っているのか、何があったのかもよく分からないけど、屋敷の雰囲気を暗くするのをやめてほしいのよね。

 二人に気を使って使用人も大人しくしようとしているのか、私を明るく褒めたたえる機会が減って、気分が悪いの。


 そんな風に不満をため込んでいたから、神殿の迎えにすぐに頷いたわ。


 お父様とお母様は慌てて私に屋敷にいてほしいって言ったけど、最近の自分たちの態度が悪かったと気付いてほしいわよね。

 まあ、神殿の居心地次第ではたまには屋敷にも帰ってきてあげようかな。もちろん、神殿が待遇がよければ、そんな気もなくなっちゃうかもしれないけど。


 でも、もしも私が帰ってこなくたって、お父様やお母様が神殿まで会いにくればいいじゃない?

 だって、私は聖女なのよ?この国の至高の存在なの!

 ああ、ひょっとして、恐れ多くて会いになんて来られなくなっちゃうかも?ふふっ!


「リゼット、お前が神殿に迎えられるほど称えられた功績は、お前ではなくルーツィアのものじゃないか」


 持っていく荷物をメイドにまとめさせていると、様子を見に来たお兄様が厳しい声でそう言った。

 私は思わず吹き出しちゃったわ。


「お兄様、何を言っているの?ルーツィアはただあの場にいただけじゃない。神殿は間違いなく、私があの混乱の中で治癒魔法を使ったことを高く評価しているのよ?」


 いや、あの場にいただけじゃないわね。あの子、魔獣を連れていたわ!

 本当に野蛮で下品で嫌な子だわ。まさか、あの魔物の襲撃にも関わっているんじゃないわよね?


「……本当にそう思っているのか?」


 なんなのかしら?まさか、お兄様も私に側にいてほしくて、神殿に行くのをためらうようにしたいの?

 ルーツィアの名前を出したりして、逆効果なんだけど?


 でもまあ、少しくらい気持ちに寄り添ってあげてもいいかな。

 なんたって私は聖女だもの。


「大丈夫よ、屋敷にもたまには帰ってくるし、お兄様なら優先的に会えるように神殿の人達に言っておくわ。だから、いつでも会いに来てくれていいのよ?私だって大好きなお兄様には会いたいし」


 せっかく喜ばせてあげようと「大好き」とまで言ってあげたのに、お兄様は苦々しい表情を浮かべて部屋を出て行ってしまった。

 なによ!いくら私がいなくなるのが寂しいからって、そんな態度をとるなんて!こうなったらしばらく会ってあげないんだから!後悔しても知らないわよ!


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 神殿って最高だわ!


 毎日毎日ちやほやされて、誰もが私に憧れと尊敬のまなざしを向けるの。

 王女様みたいな扱いを受けて、煌びやかなドレスや宝石もいくらでも買ってもらえるし、何時間も並ばなくちゃ買えない人気のお菓子だっていくらでも用意してくれる。


 ああ、私の居場所はここだったんだわ!


 ……そういえば、お母様も神殿が聖女に迎えたがっていたけど、それを拒否していたのよね?

 なんでそんな馬鹿なことをしたのかしら?


 神殿にいれば、こーんなに幸せで贅沢な生活ができるのに。

 おまけに、そうすれば死ぬことだってなかったかも。

 愚かなお母様。


 今日は聖女として、神獣の召喚をする予定になっているの。

 ねえ、神獣がペットなんて私にぴったりじゃない?嬉しくて、すぐにやるって答えたわ。

 私の清らかで強力な聖魔力を特別な魔法陣に注ぐと、その魔力に惹かれた神獣が私の側にいたくて召喚に応えてくれるらしいの!

 神獣は数は多いけれど何匹かいるってことだから、私のペットになりたい神獣たちが喧嘩しちゃわないか心配だわ。

 さすがに契約を結べるのは1匹だけらしいから、神獣たちには頑張ってほしいわね。


 可愛い子がいいなあ。




 ──そう思っていたのに。


「何よ、この獣!」


 魔法陣から出てきたのは、傷だらけでボロボロな、醜い獣だった。怪我のせいかなんだかくさいし、汚くてしょうがない。

 それはどこからどうみても神獣ではなかった。


 神獣を召喚する魔法陣じゃなかったの?それ以外が出てくるなんて聞いてないわ!


 不快すぎて怒りを抑えられない私に、召喚のサポート役の神官が慌てて頭を下げる。


「ま、魔法陣は必ず神獣が出てくるものではないのです……!一応、聖魔力に反応するのは神獣のみのはずなのですが……ひょっとして、私のサポートが不十分だったのかもしれません!すぐにその汚い獣を捨ててきますので、もう一度召喚を行いましょう!」


 どうやら魔法陣自体は通常の召喚魔法陣だったらしい。

 神獣限定なんて高度な魔法陣は描けないのだとか。ふうん。

 まあ初めてだし、こんな失敗もしかたないか。


「次こそうまくいくんでしょうね?」


「は、はい!念のため、先ほどよりも強く魔力を流していただいてもよろしいですか?」


「何よ、私が悪いって言うの?」


「いえ、とんでもございません……!」


 はあ、まあいいわ。可愛い神獣はほしいから、我慢してあげよう。

 別の神官がボロボロの汚い獣を持って出ていくのを見送った後、もう一度魔法陣に魔力を流す。

 言われたとおりに思いっきり魔力を注いでやった。


(今度こそ、可愛い神獣を!私に相応しい素晴らしい子を!)


 魔法陣が眩しく輝き始める。やがて光がおさまった頃、私はにんまりと笑うのを抑えられなかった。



 魔法陣の上には、私が望んだとおりにとても可愛く、神々しい神獣が立っていたから。



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