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49_全然気にならないのは、それが欲しいものじゃないからで

 


「あれ……ルーツィアちゃん、なんでそんな嬉しそうな顔してんの?」


 不思議そうなノース様の言葉にハッとした。

 いけない、いけない。つい一人でニマニマしちゃったわ!


 慌てて顔を引き締めるけれど、そんな私を見てノース様が吹き出した。


「ぷはっ!今更キリっとした顔したって無駄だよ~、もう見ちゃったもん!なになに、セルヒのアホ面がおもしろくなっちゃった?」

「おい!アホ面とはなんだ!少なくともお前よりはまともな顔をしている」


 ああっ、ノース様とセルヒ様が喧嘩し始めちゃう……!

 私は誤魔化そうとするのをやめて、白状することにした。


「あの……嬉しくて。私のために、皆さんが怒ってくれているのが……」


 そう、私は嬉しかったのだ。

 セルヒ様もノース様もグレイス様も、私のために怒ってくれている。


 ……リーステラにいた頃は、どんな事情があろうとも、怒られるばかりだったから。

 家族だと思っていた人たちは皆、リゼットのためになら怒るけれど、私のために誰かに対して怒ってくれることなんて、一度だってなかったもの。


 とはいえ、せっかく私のために怒ってくれているのに、私が一人で浮かれているなんて不謹慎だよね。

 そう思い、気まずい気持ちが湧きあがってちょっと俯いてしまったのだけれど……。


「ぐ、ぐうっ……!」

「えっ!?セルヒ様!?」


 なぜか、セルヒ様が突然うめき声をあげ、崩れ落ちるように膝をついてしまった。


「し、心臓が痛い……」

「ええっ!?心臓が痛いって、大丈夫なんですか!?」


 どうしよう!お、お医者様を呼んだ方がいいのでは……!?


「ぶふっ!ぶひゃひゃ!ルーツィアちゃん、なーんにも慌てる必要ないってばー!セルヒは放っといて大丈夫大丈夫」

「ええ、でも」

「ほら、よく見てごらんよ~。あんな幸せそうな顔してるやつ、そうそう死なないって」


 し、幸せそうな顔?心臓が痛いのに……?

 よく分からないけれど、ノース様に促されるままにそっとセルヒ様を見てみる。

 すると……た、確かに、なんだかとっても幸せそうなお顔をしているわね。


「セルヒはルーツィアちゃんが健気可愛すぎて死にかけだけど、そんなんじゃ人って死なないからー。ほっとこほっとこ」

「か、可愛い……?」


 私、失礼な反応をしてしまったのに?

 ノース様はいつも冗談なのか本気なのか分からないことをよく言うから、これもひょっとしたら冗談なのかもしれない。

 そんな冗談にのるかのように、セルヒ様もうんうんと頷いている。

 その様子は確かにお医者様が必要なようには見えない。


 本当に気にしなくても大丈夫なのかも……。


 ホッとしたところで、呆れたようなグレイス様が頭を撫でてくれた。


「セルヒのことはどうでもいいとして……ルーツィアちゃんは、悔しかったり悲しかったりしないのかしら?せっかく頑張ってたくさんの人を助けたのに、それが全てリゼット・リーステラのお手柄になるなんて」


 ううーん。少し考えてみるけれど、やっぱりそんな気持ちは湧いてこない。


「全然、気にならないんです。だって、グレイス様やセルヒ様やノース様、他の皆さんも……たくさんたくさん褒めてくれたから、それだけでとっても嬉しくて」

「ま、まああ!!」


 グレイス様は目を輝かせて手で口元を覆い、ノース様は目を丸くして、セルヒ様は……さらにうめき声をあげてついに床に転がってしまった。


 さっき放っておいていいと言われたばかりだけれど……セルヒ様、なんだか泣いているような……?

 と、思ったら次の瞬間に素早く起き上がり、瞬きした隙にいつの間にか私の前に跪いていた。


「ひえっ!あ、あれっ!?いつの間に!?」

「ルーツィア!ああ、君の心はなんて美しく澄んでいるんだろうな……!改めて伝えるが、いくら褒めても足りないくらい、ルーツィアの魔法は素晴らしかった!ルーツィアが努力を重ねていたことも知っているから、なおさらだ。それなのにそんなルーツィアの努力の結果を踏みにじるようなリゼット・リーステラの行いに憤りを感じていたわけだが……」

「うーん、そうなんですかね?」


 手柄や功績を横取りするような行い、とセルヒ様達は言うけれど、そもそもそのことにあまりピンときていないんだよね。だから悔しいなんて気持ちも湧かないのかも?

 おまけに、それ以上に……


「でも、もし本当に私のしたことがリゼットのお手柄になって、リゼットが教会に迎えられたんだとして、全然羨ましくないので、やっぱりこれで良かったんだと思います!私、教会に聖女として迎えられることに、全然魅力を感じないので」

「は……」


 驚いたようなセルヒ様の表情に、失礼な言い方に聞こえたかもしれないと思い、慌てて言葉を続ける。


「あ、あの!もちろん聖女様という立場の尊さは理解しているつもりですし、リゼットが聖女様になったこともすごいなって思ってます。だけど……私にとっては、魔塔の魔法使いの方が、ずっとずっとすごいし、ずっとずっとなりたいものだから……」


 誤解を生まないように。必死になって自分の気持ちを打ち明けると、ワッと詰め寄って来た3人にあっというまに抱きしめられた。


「「「ルーツィア(ちゃん)~!!!」」」

「ええっ!?」


 あまりの勢いにがちがちに固まってしまったけれど……皆の体温がとってもあったかくて、心までポカポカしていくようで。

 えへへ……私、やっぱり魔塔に来られてよかった……。

 色々あったけど、リゼットも教会で幸せだといいな。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 本気でそんな風に思っていた私は、知らなかったのだ。

 リゼットは、そんなことじゃ幸せだなんて思えないんだということを。


 これからはお互い無関係に、それぞれ別の場所で、楽しく暮らしていけたらなんて思っていたけれど、リーステラにいた頃以上に、リゼットと向き合わないといけなくなることを。


 そして、それがこの国の平和を揺るがすような事態に発展していくことを……。



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