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32_戻りたくない理由はあっても、戻る理由はどこにもないので

 


 リーステラ家に戻るなんて、絶対に嫌!


 心の底からそう思い、反射的に拒絶してしまったものの、すぐにハッとする。


 ひょっとして、セルヒ様は私をリーステラ家に戻したくて、この話を切り出したのかもしれない。

 もしもそうだったとしたら、私が嫌だと言ってしまったことで、セルヒ様を困らせてしまうんじゃ……?


 さっきセルヒ様は、『君をきちんと大切にしてくれるとしたら、リーステラ家に戻りたいか?』と言った。その言葉からは色んな事が考えられる。


 私が魔塔にいること自体が、ただの一時保護のようなものだったら?特殊魔力についても、私にはあると思っていたと言っていた。

 5歳の頃に受けた魔力鑑定で、あとからセルヒ様が気が付くほどの不手際があったのかもしれない。

 それならば無能なダメ令嬢だと言われていることをどこからか聞きつけて、正しい道に戻そうとしてくれた可能性もあるわよね。


 最初からリーステラのお父さまやお母さまに、私にもちゃんと魔力があることを伝えて、その魔力を使えるように訓練をさせてくれて、その上でリーステラ家に戻すつもりだったのかもしれない。


 一瞬で、色んな考えがぐるぐると頭の中を巡っていく。


 待って、そもそも、私がリーステラであまり大切に思ってもらえるような存在じゃないことがバレているっていうことだよね……。

 私がそんな人間で、ガッカリされてしまうかもしれない。


 セルヒ様はそんな人じゃないのに、そんなことは分かっているのに、悪い想像が止められなくて──。


 だけど、そんな今にも昏い気持ちに沈み込んでしまいそうな私を引き上げてくれたのは、やっぱりセルヒ様だった。


「──ああ、よかった!万が一ルーツィア嬢がリーステラ家に戻りたい気持ちを抱えていたらどうしようかと思った!」

「……え?」


 心の底から安堵していることがわかるその声に、思わず顔を上げる。

 すると、セルヒ様は崩れ落ちるように膝をつくと、ソファに額を当てて突っ伏してしまった。


「え、セルヒ様っ?」

「本当によかった……君は優しいから、俺が最初からリーステラ家には帰らないでほしいと思っていると言えば、帰りたくともその気持ちを抑え込むのではないかと思って聞くべきことだけを尋ねたけど、頷かれてしまったらどうしようと本当に恐ろしかったんだ」


 セルヒ様は突っ伏したまま、空気が抜けた風船のようにしぼなえている。力が抜けているらしい。

 その様子でよく分かった。セルヒ様は私にリーステラ家に戻ってほしかったんじゃなくて、本当は真逆で、戻ってほしくなかったんだ……。


 驚いて何も反応できずにいると、セルヒ様は慌てて顔を上げる。


「ああっ、もちろん、俺は君のやりたいことはなんでもやりたいようにさせてあげたいと心の底から思っているから、もしもリーステラ家に戻りたいならば、ちゃんと戻してあげるつもりだったよ!…………ルーツィア嬢が一人で戻るという条件ではなかったから、俺が護衛としてついていくのも有りだと考えていたし」


 ご、護衛!?セルヒ様が私の!?

 セルヒ様、だんだんと呟くような声色になっていったから、私には聞こえない独り言のつもりだったのかもしれないけれど、残念ながら聞こえています……。さっきぐるぐると嫌なことを考えていたせいで、身を守りたいという本能のせいなのか特殊魔力が体を巡って、ちょっとだけ聴力が上がっているので。


 ちなみに、特殊魔力は自らの肉体、血、細胞、全てで生み出される魔力なので、生存本能が刺激されると一気に活性化されるのだということは、オーランド様に教えてもらった。こうして冷静に自分の状態を認識できるようになったのも、ちゃんと知識が増えているって感じがして嬉しいわよね。


 って、そうじゃなくって!


 天才魔法使いと名高いセルヒ様が、私の護衛だなんて恐ろしいし申し訳なさすぎる!さすがに冗談だとは思うけれど、心臓に悪いです。

 それよりも、こんなにも私の反応を気にしてくれていたセルヒ様の姿を見ていると、きちんと自分の気持ちを伝えなければという気持ちが湧いてくる。


 言葉にしなければ、伝わらない。そして、伝えることはとっても大事。

 最近、しみじみとそのことを実感している。


 だって、すぐに悪い想像をしてしまうよくない癖がある私だけれど、その想像にとりつかれずにすんでいるのは、セルヒ様が本当はどう思っているか、何を考えてそう言ったのか、きちんと全てを言葉にして伝えてくれているからだもの。


 まずは気になっていることから。


「どうして、リーステラ家に戻る話が出たんですか?」

「リーステラ家から、王家に申し立てがあったらしく、文書が届いたんだ」

「申し立て……?」


 セルヒ様はまた苦虫を噛みつぶしたような顔をした。


「ルーツィア嬢のリーステラ家からの除籍と、魔塔への引き渡しは手違いである、と異議申し立てをしたらしい」

「えっ」

「もちろん、全て正規の手続きを経て成立しているから、ルーツィア嬢が拒否した時点で申し立ても却下されることになっているんだ。だから大丈夫だよ」

「そ、そうですか……よかった……」


 私の顔が強張ったことに気付いたセルヒ様は、安心させるように優しく微笑んでくれた。


「ルーツィア嬢に戻る意思がないなら、何があっても俺が守るから安心して?怖い話をしてごめんね、さあもうすべて忘れてお茶にしよう」

「……はい!」


 にこにこと上機嫌なセルヒ様に手を引かれて、いつものようにソファに座る。

 セルヒ様が安心してといってくれたら、本当に安心できるのだからすごい。


 それにしても、どうして今更異議申し立てなんてことになったんだろう……?リゼットがお父様やお母様にかけあってくれたとか……?

 もしそうなら、そんな必要は全くないのに。


 だって、私は魔塔で幸せに過ごしているんだもの。


 でも私も魔塔のことを書物と噂の内容で誤解していたし、リゼットが、私が魔塔で辛い目に合っているのじゃないかと勘違いしていたとしても無理はないわよね……。

 だけど申し立てが却下された経緯で私が自分の意思で魔塔に残る選択をしていると分かってもらえるはずだし、今回のことはいい機会だったのかもしれない。



 まさか、リーステラ家が私を必要とするはずがないことを知っている私は、わざわざ王家に申し立てがされたなんて聞いても、そんな呑気なことを思っていたのだった。

 それに、サインは相談もなく私が勝手にしてしまったとはいえ、書類を準備したのはお父様やお母様、お兄様だったのだから。


 おまけに私は最初から、リーステラ家でいないようなものだったから。


 だから、私がいなくなった後のリーステラ家がどうなっているのかなんて、考えもしていなかった。



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