28_才能は自分では見つからない
爆発音の正体はどうやらセルヒ様のお師匠様である、オーランド様という方が魔塔に戻られた音だったらしい。
どうして爆発音??と不思議に思ったけれど、皆さん平然としていたから、気にすることではないのかも。
それにしても、天才魔法使いと名高いセルヒ様のお師匠様だなんて!きっとオーランド様もとってもすごい人に違いないよね?
どうやってご挨拶しよう、できればいい印象を持ってもらいたいし……と緊張し始めている私の目に、オーランド様の前に置かれたたくさんの本が映った。
……あれは?
じっと見てみる。そのどれも見覚えがあることに気がついた。
「まあ!?」
「っ!?どうかしたのかい、ルーツィア嬢?」
私の声に驚いたセルヒ様に、心配そうに声をかけられる。しまったわ。驚いて、思わず声が出てしまった。驚かせてしまったわよね、恥ずかしい!
だけれど心配させてしまったままではいけないので、恥ずかしさをなんとか堪えてお答えする。
「いえ、懐かしくてつい。小さな頃に読んだことがあったものばかりなので……」
そう、何冊かある古い本は、そのどれもが小さな頃にリーステラの屋敷で見つけて読みふけった、お祖父さまの古書と同じものだった。幼い私はその古書を読むことでしか魔法のお勉強ができなくて、必死になって、何度も繰り返し読んだからよく覚えている。
オーランド様が私の言葉に驚いていることにも気がつかなかった。本当は黙った方が良かったのかもしれないけれど、恥ずかしさを引きずっていた私はなんとなくその気持ちを誤魔化したい気持ちもあって、なんでもないように言葉を続けた。
「どれも、リーステラの屋敷にあったお祖父さまの集めた古書と同じものです。あれは魔法陣について、そっちは実践的な魔法学の本ですね、懐かしい!すごいですね、セルヒ様のお師匠様と私のお祖父さまは、とっても本の好みが似ていらしたのかも」
嬉しくなってにこにこと話していると、セルヒ様が恐る恐る私に尋ねた。
「君は……これが読めるのかっ?」
「えっ?」
その時になって、初めてセルヒ様やそのお師匠様、それから他の魔法使い様達が驚いたように私に視線を向けていることに気がついた。
え……私、ひょっとして何か言ってはいけないようなことを言ってしまった……?
周りの予想外の反応に、さっきまでの恥ずかしさなんて一瞬で引っ込んで、あっというまに血の気が引いてクラクラしてくる。
(ど、どうしよう……何が何だか分からないけれど、すごい空気だわ。私、怒られてしまう?いいえ、もしも魔塔から追い出されてしまったら……!)
「す、すみませ──ひゃあっ!?」
とにかく謝らなくては!と焦って頭を下げたけれど、そのままの姿勢で横からオーランド様の腕に抱き抱えられてしまった。
へっ!?
「すごい!すごいよ!君、ルーツィア嬢だよね!?ああ、なんてことだろう?神様は君を僕に遣わせてくださったんだ!」
「……え?」
さらなる予想外の反応に目を白黒させていると、私を抱きしめていたオーランド様の腕はすぐに離れていった。というか、セルヒ様がオーランド様の襟元を後ろから掴み、私から、こう、べりっと!引きはがしたのだ。
す、すごい扱いだわ。オーランド様って、セルヒ様のお師匠様なのよね……?
「ぐえっ!セルヒ、師匠に対してなんてことするのさ!」
「いかにオーランドと言えど、無暗にルーツィア嬢に触れるなど許されるとでも?」
「うわ、心せまっ……」
……よく分からないけれど、怒られる雰囲気ではなさそうで少しだけ息がしやすくなった。
よく考えてみれば私、魔塔に来てから誰かに怒られたことなんてないのに、すぐに怒られてしまうのではないかって怯えてしまうの、セルヒ様や他の皆様にも失礼よね……。
そんなことを考えていると、オーランド様は私に改めて向き直り、ニコリと微笑んでくださった。
「改めて、私はそこのセルヒの師匠であり、偉大なる魔法使いのオーランドだよ!よろしくね、ルーツィア嬢」
「は、はい、ルーツィアです!よろしくお願いいたします」
緊張しながらもぺこりと頭を下げると、「うーん、素直ないい子だね!癒し~!」というなんとも軽い声が飛んできた。
「さて、ルーツィア嬢。さっき君は私が持ち帰ったこの古書たちを読んだことがあると言ったね?」
「はい」
「ルーツィア嬢は、どうやってこの古書たちを読めるようになったんだい?誰かが読み方を教えてくれた?」
「い、いいえ、あの」
誰にも教えてもらってはいない。むしろ、古書の読み方に限らず、私に魔法についての何かを教えてくれる人なんていなかった。普通の魔法書はリゼットがよく使うリーステラ家の図書室にあって、なかなか私が読めるような機会はなかった。だから、誰も近寄らないホコリに塗れた狭い部屋──亡くなったおじい様のコレクションを詰め込んでいる部屋にあった基本の魔法書と、古書ばかりを読んでいたのよね。
「読み方は、教わっていません。あの、よく見ると、文字にも色があることに気がついたので、普通の魔法書の文字と古書の色を見比べて、同じ単語や同じ意味の呪文を覚えて、少しずつ、読めるようになりました……」
言いながら、あれ?と思う。
魔法の色は、普通は目に見えないって言っていた。つまり、誰にも聞けないからと色を見比べて単語を覚えた私のやり方って、普通じゃなかったってことだよね……?
そんな疑問を裏付けるように、オーランド様は感心したように言った。
「君は分かっていないだろうけれど、それはとても素晴らしいことなんだよ。なんたって、この古書は今では読める人が誰もいない、古の魔法言語で書かれた特別な物なのだから」
「……え?」
読める人が誰もいない?言われた事実が上手くのみ込めなくて、ポカンとしてしまう。
セルヒ様はそんな私の手を取ると、微笑みながら言った。
「ルーツィア嬢、君が特別で素晴らしい人だということは分かっていたけれど、俺が思うよりずっとずっと、君は素晴らしい才能を持っているんだね。これはとんでもないことだ、規格外の才能だよ!」
その言葉が、私の中にじんわりと沁み込んでいく。
素晴らしい、規格外の、才能……。
落ちこぼれだって、無能なダメ令嬢だって言われ続けてきた。
だけど、私には才能があるって、セルヒ様は言ってくださっているのだ。
(嬉しい……)
正直言って、実感なんて全然ない。何がすごいのかよく分かっていない。だけど、私を見るセルヒ様やオーランド様の目が、そして驚いたような魔法使い様達の、私を嫌悪しているわけではない空気が、私のことを肯定してくれているように感じる。
気がつけば、私は口を開いていた。
「だったら……私も、セルヒ様のような魔法使いになれますか……?セルヒ様の、お役に立つことは出来ますか?」
私の言葉を聞いたセルヒ様は、とても驚いたようで目を丸くした。
その目を見ながら、私は初めて自分の気持ちを自覚した。
(そっか。私、役に立ちたかったんだ。それも、できることなら他でもない、セルヒ様の……)
そして、今の私の中には、それができるかもしれないというキラキラとした希望に溢れていた。




