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25_魔獣さんとの本当の出会いが発覚です。

 


「なるほど。特殊魔力のみを集中させて五感のどれかを引き上げる……単純なようでいて、思いつかなかったな。こうか?」


 セルヒ様はそう呟くと、すっと目を瞑り魔力を耳に集中させた。綺麗な水色がふわりと光ったのでそれが分かったのだけれど。


『なんだ、今まで我の声は聞こえていなかったのか?』


 魔獣さんがそう言って首を傾げている。ええっと、ひょっとして、聞こえていると思って今までずっと話しかけてくれていたのかしら?

 ハッ!もしや、今までも、さっきのような物騒なことを言っていたりした?うっ、なんだかとってもそんな気がするわね!?何も分からないうちにうっかりひどいことが起こらなくてよかったわ……!

 そんな風に一人で安堵している私をよそに、セルヒ様は納得したように頷いている。


「うん、聞こえるね。普通、魔法を使うときにメインで使用するのは通常の魔力だから、どちらも持っていたとしても特殊魔力だけを操作するのはなかなか難しい。だから、今までルーツィア嬢以外、誰もそれをすることはできなかったんだろう」

「そうなんですか?」


 だとすると、それに気づいてすぐに同じことができてしまったセルヒ様って、とんでもなくすごいのでは……?やっぱり天才魔法使い様と言われる人は違うんだわ!だって今のも、さらっとやってのけていたし。


 周りの魔法使い様達はなにがなんだか分かっていないみたい。

 セルヒ様はそんな皆様に向き直ると、訓練に戻る様に言い伝えた。


「さあ、ルーツィア嬢。ここは騒がしいから、他の部屋に行こうか」

「は、はい」


 促されるままに、魔獣さんとセルヒ様と訓練場を後にした。





「えっと。改めて、魔獣さん、お話できて嬉しいです」


 どうしていいかわからなくて、とりあえずペコリと頭を下げてみる。だけどお話しできて嬉しいのは本当だ。

 素直な気持ちを伝えたのだけど、魔獣さんはどこか悲しそうに「くうん……」と鳴いた。


『ルーツィア、どうしてそんな風に我を呼ぶ?昔のようにその可愛い声で、我だけの名前を呼んでおくれ』


 魔獣さんはそういうと、私の足元に近づいて体を擦り寄せてきた。反射的にその背中を撫でながら、私は内心首を傾げる。

 はて……??


(昔のように?我だけの名前……?)


 もしかして、魔獣さんは私のことを誰か別の人と勘違いしているのじゃあないかしら?だって私は魔獣さんと、リーステラの屋敷を出てきたあの夜に初めて会ったわけだし……。うーん、だけど魔獣さんはバッチリ私のことを「ルーツィア」と呼んでいるわよね。一体どういうことだろう?


 何も答えられない私に、ついに魔獣さんは顔を上げて上目使いで見つめながら、しょんぼりとした顔をした。

 うっ、どうしよう!なんだかとっても罪悪感が湧くのだけど、でもやっぱりなんのことを言われているのか分からない……。


 困ってしまって助けを求めてセルヒ様の方を見たけれど、もちろんセルヒ様にも分かっていないようで、同じように困った瞳と目が合った。そんな私の様子に魔獣さんは必死で言い募る。


『ルーツィア?もしや我のことを忘れてしまったのか?お前の可愛い【フワフワ】だよ……!!』


 フワフワ……?

 ………………フワフワ?


 えっ、フワフワ!?

 私の脳裏には遠い昔の胸がぽかぽかするような思い出が浮かび上がってきていた。辛く苦しいことの多かったリーステラで過ごした日々の、数少ない幸せな時間。


「フワフワって、あのとっても小さかったフワフワ?屋敷の裏手でいつも一緒に遊んだ、すぐにコロコロと転んでしまう、あの可愛いフワフワ?」


 まさか!

 信じられない思いで目を丸くする私に、魔獣さんは嬉しそうに「がうっ!」と鳴いてみせる。


『ああ、ルーツィア、よかった!我を忘れたわけじゃなかったんだね。そうさ、お前の可愛いフワフワだ!』

「まあ!」


 だけど、と思いとどまる。

 フワフワは確か、生まれたての子猫のように可愛らしいサイズの、綿毛のようにふわふわとした毛並みの可愛い子犬だった。だからフワフワと呼んでいたのだもの。

 我ながらなかなか安直なネーミングだけれど、幼い子供なんてそんなものよね?


 だけど、今のこの子はどうだろうか。立ち上がれば私よりよほど大きな体、多分熊よりも大きい。艶やかな毛並みは美しいけれど、フワフワと呼ぶのはちょっと躊躇う。


 まさか、ここまで大きくなるなんて……。

 それにしても。


「ああ、フワフワ、久しぶりに会えてとっても嬉しいわ!だけど、どうしてあの時、突然私に会いにきてくれなくなってしまったの?」


 あの頃、フワフワは急に私に会いにきてくれなくなったのだ。私はまだ幼くて、屋敷の裏手に抜け出すことが精一杯で。遠くまで出歩くことはできなかったし、すでにリーステラに居場所はなくて、私に付き添ってくれる侍女や護衛もいなかったから、会いにきてくれる魔獣さんだけが唯一の友達だったのに。

 悲しい気持ちを思い出しながら思わずそうたずねると、魔獣さん──フワフワは、グルルと唸りながら、歯をチラリと出して、苦々しい表情を浮かべた。


『我とてお前に会いに行きたかった!どれだけ可愛いルーツィアに会いたかったか!しかし、ある時突然あの辺り一帯に小さな、しかし強固な結界が張られたため、近づけなくなってしまったのだ』

「結界……?どうしてそんなものが?」


 すると、私たちのやりとりを優しく見守ってくれていたセルヒ様が、突然その場に崩れ落ちた。


「お、俺のせいか……!!!」

「えっ?」


 ええっと、セルヒ様のせいって一体どういうことかしら?



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