23_思いもしない様々な反応
自分に集まったいくつもの視線に驚いて体が固まってしまう。
(ハッ!ひょっとして、さっき試した光魔法が、思ったよりずっと眩しくて、訓練の邪魔になってしまった?)
そう思い至って、血の気が引いていく。
ちょっとした好奇心で好き勝手試してしまったけれど、ものすごく迷惑をかけてしまったのかもしれない。ううん、むしろ、私がいる場所は訓練場の隅の隅、メインのフィールドとはちょっとした柵で区切られている場所だから、もしかするとこの部分で魔法を使うなんてとんでもないことだったのかもしれない。
理由はいくつも考えつく。とにかく、こんなにみんなが私を信じられないような顔で見ているなんて、何か良くないことをしでかしてしまったことは間違いない──。
そんな風にぐるぐると一気に考えを巡らせ、くらくらと眩暈までし始めてしまった私は、「ここで倒れでもしたらますます迷惑だわ、とにかく謝罪をしなくちゃ」と思い、気をしっかり持ち直すために一度目をぎゅっとつぶった。
そして、意を決してその目を開くと、いつの間にか目の前にセルヒ様が立っていた。
普段なら、「あんなに遠くにいたのに、いつの間に目の前に!?」と驚いていたかもしれないけれど、焦りまくった私はそんな驚きにも気づかず、ただ呆然とその姿を見上げる。
さすがに怒られてしまうかも──と、思いかけたのは一瞬で、セルヒ様はガバリと私の両手を握った。
(えっ……?)
私を見つめるその目はキラキラと輝いていて、どう見ても怒ってなんていなくて。
「ルーツィア嬢!君は魔法を使えないと言っていたよね?ひょっとして、今初めて魔法を使ったのかい?ああ、俺には何が起こったのか半分も理解できていないけれど、言い表せないほど素晴らしい奇跡を目にしたことはよく分かる!」
「えぇっ?」
何が起こっているのか分からない私に、セルヒ様は続ける。
「君の魔力操作は完璧だった。初めて魔法を使おうとして、大きな魔圧を発したんだろう、すぐに気がついたよ。危険かもしれないと止めに入ろうかと思ったが、君はすぐにコツを掴んだようだったから、驚いてつい見入ってしまった。すると、なんとたちまち炎属性の魔法を発現することに成功していたね!」
「あ、あの、勝手に魔法を使って、ごめんなさい……」
言われている内容が理解できるようなできないような、そんな混乱する頭の中で、とにかく勝手なことをしたことを謝らなければ!と思いそう口にすると、セルヒ様は何をそんなこと!と笑い飛ばす。
「そもそもここは勝手に魔法を訓練するための場所だ。問題などあるわけがないよ!それに、とんでもなく良いものを目にした。ルーツィア嬢、君は炎属性の魔法を成功した後、他の全ての属性の魔法を試し、その全てに成功し、あろうことか……光魔法まで成功させてしまった!!」
ここまで言われて、さすがに気づくものがあった。さっき言われた言葉も合わせてじわじわと理解できてきたということもある。
ひょっとして、私今、怒られるどころか、どちらかというと褒められているような雰囲気……?
そう思ったとたん、単純な私の体には引いていた血の気が一気にめぐり始め、心臓がどきどきし始めた。
伝えたかったことを思い出して、まだ少し震えの残る口を開く。
「わ、私、魔法使えました」
「ああ、見ていたよ!とてもすごかった!初めてで、教えてもらうこともなく、あんな風に魔法を使えるなんて!」
「へ、へへへ……あの、どうしてもやってみたくなって、やってみたらできました」
「普通、指導も受けず魔法を使うなんてできることではない。ルーツィア嬢は無能どころか、天才だったんだね!」
「天才……私が……」
それはない、ということは自分は一番よく分かっている。どう考えても言い過ぎである。私が天才だなんて、さすがにそんなわけがない。だけど、それでも嬉しくて、口元がむずむずしてしまうのは止めらない。
ふと、視線をセルヒ様の後ろに走らせると、さっきまで固まって私を見ていた他の魔法使い様たちが、今はセルヒ様を見つめていることに気がついた。今度こそ口をあんぐりと開けて、目玉がこぼれんばかりに目を見開いている。
「ええっ、あ、あれって、あのセルヒさんだよな?」
「バカ、誰かが幻影魔法の訓練の一環でふざけてセルヒ様のふりをしているんだろ?セルヒ様はあんなにはしゃいだ声をあげないし女が嫌いだから指一本も触れたりしない」
「そうだよな、セルヒ様って二単語以上話せないって聞いてるし」
「……いや、でもさっき、あの子の側に一瞬で移動したあの魔法、セルヒ様やノース様以外に誰か使えたっけ」
「…………そういえば、最近セルヒ様の様子がおかしいって噂を聞いたような」
「…………魔塔に長年想っていた運命の人を迎え入れてデレデレなんだってあの噂か?さすがにただの噂だろ?」
「…………だけど訓練場に入ってきた時も、あの子に緩んだ顔で微笑みかけていたような」
「…………あれって俺だけの見間違いじゃなかったのか?」
「………………」
「いや、それよりも、さっきあの子、ありえないことをしてなかったか……?」
なんだかざわざわしていた魔法使い様達が、突然私とセルヒ様の方に駆け寄ってくる。
「な、なあ!ちょっと話が聞こえたんだけど、さっき初めて魔法を使ったって本当か!?」
「というか、俺途中からしか見ていなかったんだけど、何属性使った!?」
「それより、どうやって光魔法を使ったんだ???光魔法を使える奴なんてほとんどいないはずなのに!」
「ひえっ!?」
魔法使い様達はどんどん集まって来て、どんどん私に質問をしてくる。そのあまりの勢いについ悲鳴じみた声が漏れてしまった。
「おい!ルーツィア嬢が怯えているだろう!やめろ!」
セルヒ様が私を抱き寄せて庇ってくれるけれど、その近さにますますドキドキしてしまって。
心がキャパオーバーになってしまった私はつい小さく呟いてしまった。
「た、たすけて」
するとその瞬間、急に訓練場の中に強い風が吹き込んでくる。
「うわあ!?」
私を質問攻めにしていた魔法使い様達がその風に体を押されてバタバタとその場に折り重なるように倒れていき、私は思わず目を瞬いてしまった。
そして気が付けば、私の目の前に、まるで私を背中に庇うようにして、魔獣さんが立っていた。




