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16_だって、今まではそんなこと知らなかったし。

 


(つまり、本当に、他の人には普通の時に、魔力は目に見えてはいないの……?)


 え、でも、それってつまりどういうことだろう。どんな風に受け止めればいいんだろう。


 セルヒ様は、私の目は『特別』だとおっしゃったわよね。

 だけど、私は知っている。『特別』には二種類あることを。いい特別と悪い特別の二種類だ。


 思い出したいわけじゃあないのに、頭の中に、何度も何度も何度も聞いた言葉が再生される。


『ああ!私たちのリゼットは本当に可愛いわ。あなたは特別な存在よ』


 これは、いい特別。両親がリゼットによく言っていたのを覚えているわ。


『ルーツィアったら、あなたは本当に特別な人よね。だって、普通は自分からお父様やお母様に嫌われるような真似、できないもの』


 そして、これは、愛されない私を嘆いて使われる、悪い特別……。

 リゼットは度々私を『特別』だと表現した。自分とは違う、理解できないという気持ちを伝えるときに。

 リゼットがどんなつもりで言っていたのかはわからない。だけど、私は言われるたびに心臓がギュッと掴まれるような、喉の奥を引き絞られるような、そんな居心地の悪さを感じていた。


 ……セルヒ様が言った『特別』はどっちだろう。


(私に向けた特別だもの。やっぱり、悪い意味かもしれない)


 天才魔法使いと名高いセルヒ様が特別だというなんて、異質で悍ましいという意味かもしれない。


 ああ、軽々しく、魔力が綺麗だなんて言わなければよかった。魔塔にきてから辛い気持ちになるようなことがなかったから、気をつけるのを忘れていたわ。私は、油断すると、すぐに人を不快にさせてしまうから、リーステラにいたときには聞かれたことに最低限の言葉で答える以外、口を開かないようにしていたのに。


 ギュッと目を瞑る。優しいセルヒ様も、私を嫌いになるかもしれない。そう、覚悟──して、いたのだけど。


「すごい!ルーツィア嬢、君はすごいよ!普段から魔力が見えるなんて、そんな人は今まで出会ったことがない。もちろん、君に特別な能力がなくとも、俺にとって君が特別で尊い存在であることは変わらないけれど、それにしたってすごい!もっと君の話を聞かせてくれるか?ルーツィア嬢の、その特別な目に見えている世界のことが知りたい!」


 ……え。


 すごい勢いで捲し立てたセルヒ様の瞳は、キラキラと輝いて私を見つめている。


 こ、これは、ひょっとしてひょっとすると、褒められているのではないかしら……?


「……セルヒ様が仰った特別な目って、良い意味ですか?」

「?むしろ、悪い意味の可能性があるのか?」


 私の問いかけに、不思議そうに首を傾げるセルヒ様。それは心の底からそう思っているとわかる言い方で。


 ……えー、そっか、そっかあ。私、褒められてるんだ。正直、特別な目なんて言われてもピンとはこないし、私は何かをしたわけじゃあないのですごいのかどうかもよく分からないけど。

 だけど、褒められた。


「……えへへ。私の目、特別なんですね」

「ウッ!?か、かわ……!!!」


 褒められるって、こんなに嬉しいことなんだあ。うふ、うふふ!

 いつも、リゼットが褒められる姿は見ていたけれど、私自身が褒められることなんてなかった。お兄様は、心の中でどう思っていたにせよ私に優しくしてくれていたと思うけれど、慰めてくれることはあっても、褒められることはなかったし。それは、私が褒めてもらえるようなことを一切できなかったせいでもあるのだけど。


 ニコニコと嬉しさのままに顔が笑ってしまうのを抑えきれずに、そのままセルヒ様を見上げる。すると、セルヒ様はなぜか耳の先まで赤くして、片手で顔を半分覆っていた。


「……ルーツィア嬢、君は、本当に可愛い人だな」


 じっとこちらを見てつぶやかれた言葉に、思わず肩が跳ねる。

 そういえば、セルヒ様は何度か私のことを可愛いと言ってくださっているよね……?

 馴染みがなさすぎて、そして信じられなくて、恥ずかしくは思ってもなんだかあまり理解できていなかったけれど、これも……『可愛い』も、褒め言葉だよね?


「……セルヒ様は、とっても褒め上手ですね」


 じんわりと、顔が熱を帯びていく。


 褒められると、嬉しい。私は今日、とても大切なことを知った。



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