15_誰もが同じように見えているとは限らないということ
「ルーツィア嬢……君はひょっとして、普段から魔力が見えているのか?」
私はセルヒ様に聞かれた内容に驚いて目を丸くしてしまった。
「普段から見えている人なんているんですか?」
「そうか、そうだよな……さすがにそんなわけがないか」
「はい。魔法を使うときにしか見えません」
「やっぱり見えているんだな……!」
ええっと?
首を傾げる私に、セルヒ様がいくつか質問を繰り返す。
「グレイスの魔力の色はいつ見たんだい?」
「昨日、一緒にお風呂に入ったときに見ました!ほわほわの暖かいオレンジ色ですね」
「一緒に風呂っ……!羨ましい…………!」
「あの?」
「っ、ああ、すまない。俺の魔力はさっき、扉を開けるときに見たと言ったよね?」
「はい。扉を開けるために流したのはほんの少しの魔力だったですよね?なので、ほんの少ししか見えませんでしたけど……もしかして、水色は間違ってましたか?」
「いや、俺の魔力はたしかに水色だったな。……ほら」
そう言って、セルヒ様はさっきまで私が触れていたオレンジ色を帯びた水晶に手をかざす。
すると、今度はセルヒ様の魔力が水晶からふわり、ふわりと漂い始めた。
やっぱり水色だわ。それも、一色ではなくてほんの少し薄かったり、反対に少しだけ濃かったり、いろんな水色が踊るように絡まり合っていてすごく幻想的に見える。さっき見た、ほんの少しだけではこれは分からなかった。綺麗……。
その後、少し考え込んだセルヒ様は、そのまま他のお部屋に案内してくださった。
どのお部屋にも一人から数人の魔法使い様がいて、何かを相談し合ったり、魔法を使って色々なことをしていたりする。
「あの魔法使いの魔力は何色に見える?」
「すごく神秘的な紫色ですね!なんだかご本人もミステリアスに見えてきます」
「そうか。おっと、そこの段差に気をつけて。魔力を見るのに夢中になっても、俺がこうして支えているから大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます……」
確かに、魔力が綺麗で、夢中で見つめていたせいで、足元の段差には全然気がついていなかった。セルヒ様が抱き寄せてくださらなかったら、うっかり躓いて恥ずかしい思いをしていたかも。こうして支えられるとなんだか距離が近くて少しそわそわしてしまうけれど、魔力の美しさに浮足立っていて、自分できちんと気をつける自信がないので、素直に甘えさせてもらうことにする。
「あ、あの女嫌いセルヒ様が女性を抱き寄せている……!?」
「冷酷魔法使い、あんな風に笑えるのか……!」
んん、なんだろう?なんだかお部屋にいる魔法使い様がざわざわしている……?思わず声のした方に視線を向けると、目が合ってしまった。ぺこりと頭を下げると、魔法使い様は目を見開いたまま会釈を返してくれた。
すると、魔法使い様たちの方を遮る様に、セルヒ様が私の顔を覗き込んでくる。
「ルーツィア嬢?魔法使いは癖の強い者が多いからね、あまり微笑みかけていると、好きになられてしまうかもしれないから気をつけてね」
「えっ!そんなまさか……」
リゼットのように美しくて可愛ければそういうこともあるかもしれないけれど、私なのに……。
「もしも俺の知らないところで無暗に声をかけるようなやつがいれば、すぐに相談してね?」
「は、はい」
そんなことはきっと起こらないのではないかしら?と思ったものの、セルヒ様があまりに心配そうな顔でおっしゃるので、とにかく頷いておいた。
次の部屋でも、たくさんの魔力がふわりふわりと漂っている。
「わあ、ここでは皆さんがたくさん魔法を使っているんですね。いろんな色があってすごく綺麗」
「ここは二人以上の魔法使いが、それぞれ魔法を合わせて一つの魔法にできないかを実験している部屋だね」
「なるほど……!」
そんなこと、考えつくだけですごいわ!だから魔力と魔力がまるで重なる様に見えるのか。すごく面白そう。
「あれって例の新人さん?」
「本当にセルヒさんがつきっきりで側にいるんだ……!」
「あの人嫌いが特別視しているって本当だったんだな」
……うーん、この部屋でも、なんだか視線を集めているような……。さっきもそうだったけれど、なにやらひそひそと噂されている気がする。あまり嫌な感じはしないから、悪口ではないと思いたいけれど……。
今まで、たくさん悪感情を向けられてきた。だから、自分を良く思っていないんじゃないかなっていうときには、なんとなく雰囲気で分かる。もちろん、そうじゃないときにも、ひょっとして悪いことを言われているんじゃないかって、そわそわしてしまうこともあるけれど……。
(だけど今は、私というより、セルヒ様が注目されているような……?)
チラリと隣にいるセルヒ様を見上げると、私の視線に気がついたセルヒ様が蕩けるような笑顔を見せてくれた。途端に部屋の中が一層ざわめく。
(な、なに……?)
思わず部屋の方を見渡す私に、セルヒ様はそろそろ行こうと優しく声をかけてくれた。
そうして、他にも何部屋か少しだけ見学しては、なんとなく視線を感じながら部屋を後にする……というのを繰り返したあと、セルヒ様は何かに納得したようにうんうんと頷いた。
「やっぱり、ルーツィア嬢は特別な目を持っているんだね」
「特別な目、ですか?」
思わずセルヒ様の方を見ると、そのすごく澄んだ水色の瞳に呆けた顔の自分が映っていた。
ああ、そういえば、セルヒ様の魔力は瞳の色によく似ているなあ、なんて思いながら。
「ルーツィア嬢は気づいていないみたいだけど。普通はね、魔力の色や質は目には見えないんだよ」
「え……だけど、セルヒ様も魔力の色のお話をされてました……」
「水晶による魔力鑑定では、誰もが見えるように魔力が可視化されるんだけど、それは普段から見えるものではないんだ」
ふと、水晶に触れた時のセルヒ様の言葉が蘇る。
『俺はこっちの水晶による魔力鑑定が好きなんだ。魔力が可視化されて、すごく美しい。人によって魔力の色や質が全く違うのも面白いしな』
た、たしかに、よく考えれば魔力が可視化されるのが美しいから、水晶による魔力鑑定が好きって言っているようなセリフにもとれるわ……!それってつまり、普段は見えないものが見えるから、とも理解できる。
(つまり、本当に、他の人には普通の時に、魔力は目に見えてはいないの……?)




