14_白くて、キラキラしていて、とっても綺麗
オレンジ色を帯びた水晶に手を翳す。
すると、水晶がぽう……と淡く白い光を放った。よく見ると、まるでちょっとした霧か煙のようなその白い光の中に、小さな金の粒子がキラキラと輝いて見える。
初めてのことだけれど、なぜだかすぐにわかった。これが、私の魔力なんだわ。
「わあ……私にも、本当に魔力があったんだ……」
その光があんまり綺麗で、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。この、キラキラしていて綺麗なのが、私の魔力だなんて、すごく嬉しい!
それに、ずっとずっと、自分には魔力はないんだって思って生きてきた。自分は無能なんだって。落ちこぼれのダメ令嬢って陰口を叩かれても、その通りだから仕方ないって、思ってきたのに。
こんなに綺麗な魔力が自分の中にあったなんて。
私は嬉しくて、手を翳したままそばで見守ってくれているセルヒ様の方を見る。
すると、セルヒ様は感心した様子で私を、というか、私の魔力を見つめていた。
「これは……そうだと思っていたけれど、思っていた以上だな。こんなに綺麗な魔力はなかなかない」
その言葉を聞いて、私はますます嬉しくなる。
(そっか。私の魔力、天才魔法使いとして有名なセルヒ様から見ても綺麗なんだ。うふふ、そっかあ)
はにかむ私を見て、セルヒ様はなぜか顔を背けてしまった。うっ、ひょっとして、さすがにニヤニヤしすぎちゃったかしら……!
「な、なんだこの可愛さは……!自分の魔力を見て喜ぶルーツィア嬢、やばい……この部屋の管理をしている奴も追い出しておいてよかったこんなのみんな好きになってしまう……!」
「セルヒ様?」
なにか言っているみたいだけど、顔を背けているせいであまり聞こえない。
セルヒ様は私が声をかけると、一度深呼吸をして、スッと元の体勢に戻った。
「すまない。定期的に発作が出るんだ」
「まあ!なにかご病気にかかってるんですか?」
定期的に発作が起こるなんて、ひょっとしてかなり重病なんじゃ……?
「ぐっ、俺を心配するルーツィア嬢……!」
「セルヒ様っ!?」
またもや小さくうめいて顔を背けるセルヒ様。
「だ、大丈夫だ。たしかに俺は病気だが、体調が悪いわけではないから」
「病気なのに、体調は悪くない……?」
それって一体どういうことだろう??
「ああ、だから心配しないでくれ。もちろんルーツィア嬢が俺を心配してくれるのは心から嬉しいけど。この病は普通の病とは全く別のもので、重くなれば重くなるほど俺を幸せにしてくれるものなんだ。発作はむしろご褒美」
「ほ、発作がご褒美!?」
とても信じられない話だけれど、セルヒ様は本当に嬉しそうに頰を染めて微笑んでいる。それに、たしかに顔色も悪くなさそうだし、どうやら話してくれていることに嘘はないらしい。
そんな病があるなんて、私には想像もつかないけれど、世の中にはまだまだ知らないことがあるみたいだわ。
「とにかく大丈夫だ。ただ、いつかこの病についてもルーツィア嬢に詳しく聞いてほしい。今はまださすがにちょっとだけ早いと思うから……」
「?はい、よく分からないけど、分かりました」
私が了承すると、セルヒ様はとても満足そうに頷いた。
そして、水晶から漂っている私の魔力に手を伸ばすと、楽しそうに目を細める。
「俺はこっちの水晶による魔力鑑定が好きなんだ。魔力が可視化されて、すごく美しい。人によって魔力の色や質が全く違うのも面白いしな」
「たしかに、綺麗ですよね。どうして人によって魔力の色や質が違うんでしょうか?」
「オレンジ色の水晶の方は、特殊魔力を測定していると言ったよね?さっきも説明したけれど、魔力回路に流れている普通の魔力とは違って、その人を形作る細胞や血、体そのものから生み出されるから、俺としては心や魂の色が魔力に反映されているんじゃないかと思っている。もちろん、詳しくはわかっていないが」
「なるほど……!魔力って、魔法って、すごく楽しいですね」
私の魔力は白。おまけにキラキラしててちょっと嬉しい。
「グレイス様のは暖かいオレンジ色で……ノース様の魔法はまだ最初に迎えにきてくれた夜にしか見ていないけど、突然だったし暗かったし、魔力は見えなかったなあ。何色だろう?」
「ルーツィア嬢?」
「あ、セルヒ様のはすごく澄んだ綺麗な水色でしたね!さっき、扉を開けるときにほんの少しだけ見えました!えへへ」
他の魔法使い様たちの魔法も早く見てみたいなあ。どんな色の魔力があるんだろう?同じような色の人もいるのかな?
全部全部新鮮で、すごくわくわくするわ!
すると、そんな風に少しはしゃいでいる私を見て、セルヒ様が呟いた。
「ルーツィア嬢……君はひょっとして、普段から魔力が見えているのか?」




