13_魔力には二種類あるらしい。普通のとそうじゃないの
セルヒ様が連れてきてくれたのは、魔塔のお仕事用の棟のとある小さな部屋だった。どうやらこの場所では魔力鑑定ができるらしい。
部屋の奥には台座になった場所があり、そこに少し水色を帯びた水晶が置かれている。……そして、その水晶の隣には、少しオレンジ色を帯びた水晶も並べて置いてあった。向かって左が水色、右がオレンジ色だ。
他にも、なにやら見たことのないアイテムが部屋のあちこちに置いてある。
たくさんの物についても興味があるけれど、やっぱり一番に水晶のことが気になった。
どうして少し色の違うものが2つもあるんだろう?
そう疑問に思っていると、私の視線に気づいたセルヒ様が説明をしてくれる。
「この国の人間が5歳で受ける神殿の魔力鑑定で、主に使うのはこっちの水色を帯びた水晶だ」
そう言いながら、セルヒ様は向かって左側に置かれた水晶に軽く触れる。
確かに、私の記憶でも、5歳の頃に神殿で見たのは水色を帯びたものだったような気がする。
「そもそも、人が持つ魔力には二種類ある。普通の人間は体内に魔力回路を持ち、そこに、生まれ持った魔力が常に流れている。それを測ることができるのがこの水色を帯びた水晶だ。ほとんどの人間がその普通の魔力しか持たない」
そして、セルヒ様は今度は向かって右側に置かれた、オレンジ色を帯びた水晶に触れる。
「こちらの水晶で測れるもう一つの魔力は、魔力回路ではなく自らの肉体、血、細胞、全てで生み出される魔力で、特殊魔力と呼ばれている。魔塔の魔法使いである俺たちのように特別魔力が多い魔法使いは、普通の魔力と特殊魔力の両方を持っていることが多い。けれど、魔力に二つの種類があることを知らない者も多い。人は自分になじみのない物は興味がないからな」
どうしよう、初めて聞く話ばっかりで、なんとかついていくのに精一杯だわ。
セルヒ様によると、魔法は複雑で奥深く、学ぶべき内容は尽きないほどにあり、とても知り尽くすことはできないのだとか。だからこそ、ほとんどの人は普通の魔力についてだけ学ぶ。
昔は普通の魔力と特殊魔力、どちらも学ぶことが普通だったらしいけれど、自分が持たない特殊魔力について学んでも自分にとって何の糧にもならないため、少しでも身になる勉強をと切り捨てられて行った結果、今では特殊魔力はあまり知られないものになっていったらしい。
「本当は昔のように誰もが学ぶべきことだと思うけれど。ただ、やっぱり少ないとはいえ特殊魔力を持つ者は生まれるから、5歳の魔力測定の際に、魔力量が一定以上あった者はこっちのオレンジ色の水晶での第二鑑定を受けることになっているんだよ」
「なるほど……」
難しいけれど、なんとなく分かってきた。普通の魔力しか持たない人が圧倒的に多いために、そのことを知らない人も多いけれど、特殊魔力を持つ人はきちんと見いだされるようにはなっているらしい。
別に秘密にされているわけでもないのにあまり広まらないのは、恐らく貴族の面子的な問題なのではないかしらと予想する。
魔法についてはお爺さまの古書で読む内容しか知らなかったので、こうして人に教えてもらう話がとても興味深くて、知識として面白く聞いていた。
すると、セルヒ様はあっさりと、ちょっと聞き捨てならないことを言い始めたのだ。
「ルーツィア嬢は、魔力なしなのではなくて、きっと普通の魔力を持たずに特殊魔力だけを持つ、稀有な例だと思う。ちょっとこっちの水晶で測ってみないか?」
……待って?セルヒ様はとても軽い調子で言っているけれど、なんだかとても重大なことを言われたような気がするのだけど。
そう思い、ポカンとする私を見て、セルヒ様はどうしたのかと言わんばかりに首を傾げている。
そして、何かに気付いたように付け加えた。
「大丈夫。そもそも俺はルーツィア嬢に特殊魔力があるだろうと分かったからこそ、この魔塔に呼び寄せることにしたんだから」
……うすうす感じていたけれど、私はセルヒ様とどこかで会ったことがあるのかしら?だけど、いくら考えても全く思い出せないのよね。
けれど、魔力なしの私をどうして魔塔に売ることができたのか、ずっと疑問だったその理由はやっと分かった気がする。自分ではまだ半信半疑なのだけれど、私に特殊魔力があると思われたからこそ、ここに招かれたんだわ。
──と、そう思ったのだけど。
私がそう思い至ると同時に、突然セルヒ様が顔色を変えて慌て始めた。
「ハッ!い、今の言い方だと、まるでルーツィア嬢の持つ特殊魔力だけが目当てで魔塔へ連れてきたかったと言う風に聞こえなかったか?違うんだ!たしかに魔塔に呼ぶことにしたのはその理由からだが、そもそもどうにか君のそばにいられる方法はないかと考えて、たまたま運良くルーツィア嬢を魔塔に呼ぶことができる理由があったからその手段を取っただけであり、君の魔力を欲していたのではなく、俺が望んだのは君自身だから、どうか誤解しないでほしい……!」
「あっ、はい」
あまりの圧に、私は思わずこくこくと頷いた。
つまりどういうことなのかは正直よく分からないけれど……とにかく、魔力だけが目当てというわけではないらしい?
「あ、危ない……!こういう小さな誤解が、のちのち大きなすれ違いを生む可能性が高いんだ……俺は知っているぞ……ああ、すぐに訂正することができてよかった……!」
セルヒ様は胸を撫で下ろしてなにやらぶつぶつ独り言を言っていたけれど、とにかく気を取り直して、私の潜在魔力を測ってみようということになった。
(本当に、私に魔力があるのかな?とても信じられないのだけど……)
そう思いながら、私は促されるままにオレンジ色を帯びた水晶に手を翳した。
ちょっと説明回っぽくなってすみません……!




