ティエラの到着と一人歩きする噂と
都市バーディミアン。ここに一人の男が現れる。名前はティエル。背は高く、体が細い。特徴的なのは長髪のオールバックと右頬の菊の刺青。今回、ある目的でここに呼ばれていた。
ヴァルハラの王座の間。ティエラは頭首のエリオット直々に招集された。
「ティエラよ、お主にはある重大な任務に就いてもらう」
「はい」
「任務の内容は指名手配犯であるゼロの始末だ」
「わかりました」
「今回の任務には少数で行ってもらう。お主が小隊長となり隊員数は五人とする。その中にこの二人を入れてもらう」
後ろの扉が開き、二人の男が姿を見せる。カルヴァンとローランだった。
「本人たちの強い希望もあり、私が推薦した。残りの二人は自由に決めてくれ」
王座の間を後にしたティエラは騎士の修練場へと赴く。カルヴァンとローランもその後ろを付いて行く。向かったのは修練場の中
でも一般の兵士たちが鍛える大広間だった。そこに腰を据え、訓練に励む騎士を見つめることにした。ティエラのその姿を見てローランはこう言った。
「なぜ、聖堂へ行かないのですか?」
その言葉の意味はカルヴァンも理解していた。このバーディミアンでの修練場は一般の騎士が修練を行う大広間と戦場で数々の功績を残した者しか入ることの許されない聖堂がある。任務の編成でも最初に聖堂から人員を選ぶ。少数部隊なら尚更だ。
「何でお前らがいるんだ?」
素っ頓狂な台詞に二人は硬直した。何を言っているのか理解できなかった。
「残りの奴なら俺で決めるから」
その言葉を言われた二人はその場を去ることにした。
「まったく、よく分からない奴だな」
ティエラを知る者は少ない。使う魔法も、従えている召喚獣でさえ見たものはいない。ティエラ自身を見た者も少ない。ただ、ある一つの噂だけが流れている。
「ゼロにキズをつけた男か…」
その言葉通りの噂だった。それだけが一人歩きしている人物のようである。
「俺は認めない。あんな男に、そんな力はない」
ローランも噂は聞いたことがある。それが事実と思った時もあった。しかし、実際にゼロと対峙してみて傷を負わせることなど不可能と感じた。
数時間後、ティエラからの召集により、元の大広場へと戻るローランとカルヴァン。ティエラの横には、明らかに雑兵だとわかる二人が立っていた。
「紹介する。マルスとアリエルだ」
ローランは目を疑った。平凡な騎士と魔術師。そして、魔術師は女。明らかにおかしな部隊編成だった。
「この二人に依存がないなら、今日は解散だ。後日、出発の連絡を入れる」
ローランとカルヴァンが何も言わないところを見るとティエラはマルスとアリエルを連れて帰ろうとする。振り返るティエラの首筋にカルヴァンは剣を向ける。
「この二人のことなどどうでも良い。ただ、お前に対して意見がある」
「なんだよ?」
「お前が隊長の資格があるかどうかを試させてもらう。いいな」
ローランも同意見だった。雑兵のような二人などこの際どうでも良い。ティエラ自身に不満があった。
「いいけど、俺、強いよ?」
そんな言葉で脅されるカルヴァンではなかった。場所は大広場。修練中の騎士もその対決を見ようと周りを囲んでいた。
噂が一人歩きする男ティエラとエリオットの側近で「無音」と呼ばれているカルヴァンの対決だった。