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旅人の街・ルーネルと最初の追っ手と

 一行を乗せた馬車は最初の街へとたどり着く。

「旅路の出発地・ルーネル」

商業者も旅をする人も誰もがここで旅の準備をすることで有名な街、ルーネル。ゼロとイヴも例外なくここで準備をするため訪れた。


「イヴには食料と衣料を買ってきてもらう。ジブリールにはその他色々頼む」


「うん、わかったよ」


「じゃあ買い物が済んだ者からこの場所に再度集合な」


 イヴはメモを受け取り買い物に出掛ける。ゼロとジブリールはイヴが見えなくなるまで見続けていた。


「ゼロ、本当のことを話してもらおうか」


 イヴに聞かれたくない用件をジブリールは知っていた。ゼロは小さな袋をジブリールに渡した。


「トクという男の店に行って欲しい。場所は」


 ゼロはジブリールの頭を触り、店の場所を教える。


「その袋を渡せば分かる。頼んだぞ」


「お前こそ、しっかりやれよ」


 ジブリールはそう言い残し、人込みの中へと消えていった。全てをジブリールは理解している。追っ手が数人、こちらの様子を伺っている。逃げてから十日は経っているが、追っ手が来ることは予想以上に早かった。幸い、この街はハビリスの領地。表沙汰になるようなことはできない。しかし、いつまでも追われてはいけない。この街で処理するために、人気のない路地へと移動を開始する。

 一定の距離を保ちながら追っ手はついてくる。数は多くなく、数人であることは足音で分かる。路地裏へと姿を隠すために角を曲がる。ゼロは立ち止まった。目の前は行き止まり。引き返せば追っ手と出くわす。足音が徐々に大きくなる。ゼロはひとつの魔方陣を描いた。


「どこに行った?」


 角を曲がった追っ手達は目標を見失った。この角を曲がったのは確かである。行き止まり。空へ逃げたとは考えにくい。魔方陣を描いて空に飛ぶまで時間は掛かる。たとえゼロといえども飛行するなら周りの物は衝撃で吹き飛ぶだろう。しかし、壊れかけている樽でさえそのままの形を維持している。


「ゼロはどうした?」


 次々に追っ手が行き止まりに集まる。手分けして辺りを調べるが、どこも変わりはなかった。ふと、追っ手の一人が地面に目を向ける。薄く、細長い線が微弱ながら光を帯びていた。よく見ると、地面に描かれているらしい。何も警戒することなく初めて見る物に触ろうとする。指が触れた瞬間、その線から強烈な光が発せられる。


「何だ!」


追っ手達は目を開けられないほどの強烈な光の中に包み込まれていった。

 目を開けると、目の前にゼロが立っていた。場所は先程と変わらない路地の行き止まり。しかし、なぜか違和感がある。


「どこにいた?」


「別に、ずっとここにいたけど?」


「何をしたのかはわからんが、お前を連れて行くようにと命令されている」


 追っ手達は臨戦体勢に入る。数は魔術師が四人、騎士が四人の計八人。一人の魔術師が自分の杖を召喚し、ゼロに向けて魔方陣を描く。しかし、その魔方陣は一瞬で消える。不思議に思った魔術師はもう一度描く。結果は同じだった。


「何をやっている。失敗するな」


 他の魔術師も魔方陣を描くが誰一人として魔方陣を完成できなかった。リーダ格である男も同じだった。


「なぜだ、なぜ魔方陣を描けない。お前達も戦え」


 騎士達も剣を抜こうとするが、柄から剣が抜けない。一体化しているように離れようとしない。ゼロは未だに立っているだけだった。


「ゼロ、貴様何をした!」


「魔術師なら分かるだろ?空間転移だよ」


「空間転移だと?馬鹿げている。貴様に出来るわけがないだろう」


 リーダ格の男・フラウンはいわゆる「反対派」の人間である。「反対派」とはゼロのことを認めていない人々のことを言い、ゼロを英雄と認めずに力も偽者と決め付けている人間たちである。


「そんなに言うなら空でも見てみろよ」


 ゼロが空を指差す。フラウンも他の追っ手達も空を見上げる。空は青空ではなく、赤・青・黄・緑と様々な色が混ざり合った奇妙

な色をしていた。そして、大きな魔方陣も描かれていた。それを見たフラウンは驚愕した。


「そ、そんなバカな」


「理解したか?ここは『ルーネル』と同じ物質から造った世界。つまり『別世界』だ」


 空間転移。数ある魔法のうち、難易度が高い魔法の一つ。そのなかで最も難しいのは現実の世界の物を物質と考え、全く同じものを別の場所に造る魔法。通称「別世界アナザーワールド」。そして、更にそれを亜空間に造ることが出来る者は現在ゼロしかいない。「別世界」を亜空間に造る場合、様々な制約をつけることが出来る。


「この世界では俺以外、戦うことは出来ないようにした。まぁ、追っ手がお前達みたいに弱い奴らで助かったよ。強いとかかり難いからな」


 フラウン達はようやくゼロの力を理解できた。フラウン以外の追っ手も同様に反対派であったが、徐々に自分達が間違いだと思い

始めた。


「連れて行くと言ったが、俺を殺す以外でここから出られないからな。相手してやるよ」


 ゼロが手を叩く。それまで抜けなかった剣は抜け、魔方陣も描けるようになった。


「さぁ、戦おうぜ」


「撃て!」


 フラウンの号令とともに一人が水色の魔方陣を描き、水流を発動させる。道いっぱいの水がゼロに襲い掛かる。一足早く空に飛び、水をかわすゼロ。続いて二人目の魔法がゼロを追撃する。小さな火の粉が何十ともゼロを目掛けて飛んでいく。確実に当たったかに見えたが、そのゼロは幻影だった。フラウンは辺りを見渡すもゼロの姿が見えない。一人の男が地面に手を当て四角の魔方陣を描く。地系の魔法には地面から情報を得ることが出来るため、偵察に優れている。


「分かりました。この近くの大広場にゼロはいます」


 フラウン達は大広場へと急いだ。ゼロがいることは遠くからで確認できる。フラウンは追っ手達に周り込むように命令した。


「逃げるのだけは得意のようだな」


 フラウンはゼロの前に姿を現した。フラウンのほかに魔術師と騎士が一人ずつ。それ以外の五人はゼロの背後に位置している。大広場からいくつも道が伸びており、後ろからゼロを狙うことも容易に出来る。

 背後にいる騎士が徐々にゼロに近づいてきている。フラウンの風の魔法により、少しだけ宙に浮きながらゼロに向かっている。


「お前の周りは隙だらけだ。どこから狙われるか、分からんだろう」


フラウンは気付かれないようにとゼロの注意を自分に向けている。騎士がゼロを斬れる位置へと辿り着いた。そして、剣を振りかぶりゼロにゼロに斬りかかる。ゼロは一歩横に移動し、剣を紙一重に避ける。振り下ろされた剣は地面に刺さり、金属音が響く。騎士が剣を抜こうとする前に、ゼロは足で剣を破壊する。振り返り、騎士の胴に指を当て小さな緑色の魔方陣を描き、力を込める。騎士は一気に後ろへ吹き飛び、建物に激突し気を失った。他の騎士二人がゼロの左右から襲い掛かる。左右からの剣戟をしゃがんでかわし、二人の足を払う。体勢を崩し、倒れた騎士に追撃する。手を添え、魔方陣を描く前に背後から最後の騎士が斬りかかる。しかし、騎士が斬りかかることはなかった。後ろの騎士に気付いたゼロは振り返ることなく魔法による呪縛をかけていた。


「背後を取ったからって油断するなよ」


 地面に手を置き、土色の魔方陣を描く。三人の周りを囲むような大きな魔方陣。その魔方陣一体の地面が噴きあがり、割れた破片が三人に直撃する。三人の騎士も遠くへと吹き飛ばされ気絶する。

 残るのはフラウンを含め、四人。全て魔術師。距離を保って戦う以外に手段はない。しかし、フラウンの顔にはまだ余裕があった。最後の手段である魔方陣がある。おそらく、あまりの強大さにゼロは死ぬかもしれない。それでも構わない。


「もう諦めれば?お前ら弱いよ」


「その減らず口を叩くのもこの術を見てからにしたらどうだ?」


 フラウンたち魔術師は互いの杖を合わせ、ゼロに向ける。ゆっくりと詠唱を唱え始める。四つの杖から一つずつ魔方陣が現れる。赤、青、緑、茶色の魔方陣。それら四つはゆっくりと動き出し、次第に一つに交わる。そして、大きな白色の魔方陣が完成する。


「無属性の魔方陣か」


「知っているなら、この魔法の威力も知っているだろう」


 地、水、火、風、それぞれの魔術師の力を均一に合わせることにより、造り出される魔法、無属性魔方陣。一人でも魔法のバランスを崩すと失敗する合体魔方陣の頂点。その威力は山一つを消し去るほどの威力を持つ。しかし、その強大な威力ゆえ弱点もある。


「どうした?早く阻止しなければお前が死ぬことになるぞ」


 魔法の威力が最高潮に達するまでの間、四人の術者は無防備になる。そこに小石一つでも誰かに当たれば魔法のバランスは崩れ、大爆発が起こる。


「待っていてやるよ。俺を倒したいのだろう」


「その笑みを、今すぐ消し去ってやる!」


 魔方陣から白色に光を発した魔法弾が轟音と共にゼロに襲い掛かる。ゼロはゆっくりと指を広げ、親指以外で魔方陣を描く。それは一つではなく先程、フラウンたちが描いた四つの魔方陣全てと同じものだった。その魔方陣は一瞬の内に一つに交わり白色に輝く。そして、同じように魔法弾を放つ。二つの白い魔法弾は互いに衝突し、やがて消滅していった。


「な、何が起こったのだ。どういうことだ」


 普通、魔法が衝突し合えば弱い魔法が消え去るか、爆発を引き起こし互いに消滅する。フラウンは事態をうまく飲み込めなかった。


「相殺って知っているか?アレと同じだ」


「バカな、無属性魔法だぞ。それを貴様一人で相殺しただと」


「そうだけど」


 余りにも呆気なく言うその一言にどれだけの重みがあるのかゼロは自覚しているのだろうか。ゼロにとって魔法は呼吸と同じような存在だった。フラウン含め、魔術師たちは目の目の敵に立ち向かう自分達がいかに愚かな存在かというのを感じた。ゼロにはどんな魔法も通用しない。


「殺せ」


フラウンの口からその言葉は自然に漏れた。もはや敵わぬ相手に死すら覚えていた。それを聞いたゼロは何も言わぬまま、指を鳴らす。すると、街の景色にひびが入りガラスの破片が飛び散るようにして景色が変わっていく。

 変わったのは空の色。青空に雲が流れている。ゼロが「別世界」を解除し、先程までいたルーネルへとフラウンたちを帰した。倒れていた騎士達も無傷だった。ゼロはそのままフラウン達を通り過ぎた。そのとき、フラウンはゼロのほうを向きこう言った。


「なぜ、殺さない?」


「自分の命は大事にするものだ。それに、お前らにだって両親はいる。その人達まで悲しませたくない。ただ、それだけだ」


 フラウンは何も言い返せなかった。ただ、去り行くゼロの背中を見ているだけだった。


 

 ジブリールは、予定通りトクの店へとやってきた。人通りの多い道の、たった一つだけ閉まっている店。店を営業していないのではなく、一般の客の来客は有り得ない。ジブリールはゼロからこの場所の地図を教えてもらうとき、この店への入り方も学んだ。一見、普通の店の扉に見えるが、この扉を開ける者はいない。「CLOSED」の看板があると、誰もこの扉を開けようとはしない。鍵すら存在しないこの扉は「物質透過」の魔法がかけられている。どのような種類でも構わく、一つの魔方陣を描けば「物質透過」の魔法が発現する。ジブリールは扉の前で小さな魔方陣を描く。すると、扉が呼応するかのように、音を鳴らす。その音を聞いたジブリールは扉の奥へと進んでいく。


「おやおや、かわいいお客だ」


 カウンターに座る店主は若く、新聞を読みながらジブリールを見る。店内は何も置いていなく、奥にカウンターがあるだけの長い店だった。カウンターの上に乗り、ジブリールはゼロから貰った小袋を店主に見せる。


「アンタ、ゼロの使いか」


「この袋を渡せば分かるとゼロから聞いている」


「ちょっと待ってな」

 

 店主はそのまま店の奥へと姿を消した。数分後、戻ってきた店主からジブリールは意外なものを渡された。


「こいつは、何考えているんだゼロは」


「理由はどうであれ、その袋を見せられたらコレを出すようにゼロから頼まれていてな」


「わかったよ、ありがとう」




 集合場所に二人と一匹が集まる。一番遅かったゼロにイヴは心配していたが、道に迷ったとゼロは何気なく言った。目的も達したとこで新たな街へと向かう。ルーネルの街を出るとき、ジブリールはゼロに話しかけた。


「ほれ、約束の品物だ」


 ジブリールはゼロに小さな紙切れを渡す。これがトクの店で貰ったもの。この紙切れは二人にしか真の意味は分からない。


「いつか使うときは来る」


「それで、追っ手はどうした?」


「逃がしたよ。でももう追ってこないだろうし、ひとまず安心だ」


「そうか、なら大丈夫だろう」


 そして、一行は次なる街を目指す。

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