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ファンタジアの騒動とアルカディアの珍事と

 翌日からのファンタジア領域に配られた新聞の一面はゼロの消失を飾っていた。数々の戦役をもたらし英雄と謳われた男の突然の失踪。民も動揺していたが、一番動揺しているのは国王であるバンガーノであった。


「どういうことだ!なぜゼロは我々を裏切ったのだ」


テーブルを叩き、豪華な食事を気にせずひっくり返し、周りにいる神官に怒鳴りつけていた。

朝食を食べている間に不快になることをバンガーノは一番嫌う。今日一日の体調を決める重要な時間に不快になることは絶対に避けたいことだった。あと二十年は王として君臨しなければならない。しかし、齢六十を超えるバンガーノもそろそろ王として限界を感じていた。

 聞くところによるとバーディミアンの君主であるエリオットの失態らしい。バンガーノは手を大きく二回叩き最も信頼できる部下を呼び出す。


「お呼びですか?」


現れた男は燕尾服に身を包む細く、メガネをかけた青年。名前をタリスという。


「タリスよ、軍法会議を開く。主要都市に点在する十権天皇を呼び出せ」


十権天皇。ファンタジア種族の中で国王のバンガーノの下に集う十人の権力者である。それぞれが領地を任され、その中心の都市に配属され、領地を治める役を担っている。間接的だが国王であるバンガーノと同じ権力を持つ。


「かしこまりました。早急に手配いたします」


タリスは両手から数羽の水色の伝書鳩を召喚する。十権天皇を呼ぶための手段は通常の「フォトン」を用いない。特殊な召喚獣を召喚することのできる魔法使い「サモナー」による伝書鳩での連絡である。タリスはそれぞれの伝書鳩の頭に自分の指をめり込ませ、情報を伝える。サモナーが仕える召喚獣は戦闘向きではない代わりに特殊な力を有している。この伝書鳩は水の分子で構成されているため、目的を果たすまで帰還することはない。

 窓を開け、伝書鳩を放すタリス。そのタリスにバンガーノはもう一つ確認することを告げた。


「シュレンはどうしている?」


「御部屋で眠っております。ご安心ください」


「そうか、タリスよこの新聞を捨ててくれるか」


 シュレンに新聞を見せるわけにはいかない。シュレンがこのことを知ると必ず何かをすると知っているからだ。


「かしこまりました」


「それと、騒ぎが収まるまでは絶対にあいつをここから出すな」


 タリスは新聞を受け取ると小さく礼をして部屋を出た。


通路を歩いていると後ろからの声に気付く。自分を呼ぶ声に。


「よう、タリス」


「おはようございます。シュレン様」


 タリスに話しかけたのはバンガーノの一人息子のシュレン。ラフな服装に髪型もボサボサ。あまり王の息子としての自覚を持っていない男。親の権力を良い様に使う勝手気ままな男である。


「さっき親父が怒ってたけど、何があった?」


「これを見れば分かりますよ」


そう言ってタリスはあっけなく新聞をシュレンに見せる。シュレンはその新聞を見た途端、何かを思いついたような笑顔をする。


「おもしろそうだな、アイツが逃げたのか」


シュレンは少しだけだがゼロと面識があるようだ。


「シュレン様、私にいい考えがあります」


タリスはシュレンの耳で何かを呟く。それを聞いたシュレンはさらに笑顔になる。


「さすが、タリスだな。よし、こうなれば今すぐ行くぞ。影武者と支度を済ましたら俺の部屋に来い」


「承知しました。シュレン様」







 アルカディアでも同様のことが起こっていた。ゼロと同じ扱いを受けているイヴの失踪はやはり新聞の一面を飾っていた。

 そして、やはり一番動揺しているのは現国王であるアリュトルムであった。しかし、バンガーノとは決定的に違うことがあった。


「おおぉ、イヴよ。どこに行ったのだい?」


 アルカディアの空中浮遊都市ムーヴァ。そこの王族専用の宮殿の一室ではアリュトルムが泣きながら部屋の中を歩き回っている。国王の威厳は全く感じられない。幸い、神官もこの宮殿には入れないため、情けない姿を見せることはないが。


「なぜ居なくなるんだよぉぉ」


「うるせぇぞ、親父。イヴなら疲れたからその辺で寝てるんじゃねぇのか」


「どこだ。そこはどこなのだ!私が行って添い寝してあげよう!」


「知るか、このバカ!俺だって心配で昨日は寝られなかったんだ!」


アリュトルムと話しているのは息子のクリオスである。先程からの父の、そして国王としてはあまりに情けなさ過ぎる姿を見て怒りがこみ上げてきている。


「まぁまぁ、兄さんも父さんもその辺にして。イヴだって女の子ですから何日か帰ってこないくらいで大袈裟ですよ」


二人をなだめるのは長女のマリセルア。しかし、父と兄というのは例外なく娘・妹の心配をするのは当たり前である。


「何日どころじゃないだろ!もう十日だぞ!まさか、男か?」


「な、な、なんだと!男だと!」


もはや完全に父と化しているアリュトルムの目は光を放ち今にもオーバーヒートしそうな勢いで怒りがこみ上げてきている。まだ完全と決まったわけではないのにかなり動揺している様子だった。


「いい加減にしなよ、それにイヴが居なくなった訳じゃないし、手掛かりも無いわけじゃないから」


隣の部屋から出てきた次男のオラキスは手にしている資料を見ながらそう言った。


「その手掛かりって何だ?教えろオラキス」


「イヴが消えた前日にいた街がベルニカらしい。まずはそこから探すべきだろ。当てもなくブラブラ変なところばっかり探して」


 父・アリュトルム、兄・クリオスと違い、オラキスは冷静である。とても親子とは思えないほど似ていないのである。


「他にはないの?オラキス」


「まだあるけど、とりあえずベルニカに行って何もなければまた言うよ」


「そうと決まればベルニカに行くぞ。子供たちよ!遅れを取るなよ」


 完全にリミッターが外れたのかアリュトルムは何も考えずに飛び出していった。

 それに続きクリャオン、マリセルア、オラキスと順番にベルニカへと急いだ。

 




アリュトルム・クリオス・マリセルア・オラキス、そしてイヴは本当の家族である。しかし、一番初めに生産が始まったのはイヴだった。

 最高級の素材を使ったイヴは工程に時間がかかりすぎ、イヴの材料の破片や部品から新たなるマシナリーを作り出した。それがアリュトルムたちである。          

 実質、イヴが母親であるが、四体が造れてもまだ、イヴは動くことも出来なかったためこのような家族構成になった。この事実は神々意外誰も知らないことである。


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