最高峰の魔術師と最強の兵器と
一方、アルカディアのドルン中将は苦悶の表情を浮かべていた。空母を三機も失い、戦況は不利になるばかりであった。空からの攻撃が無くなったファンタジアはここぞとばかりに攻め続けている。EP‐29も次々に破壊され徐々に兵士も少なくなっていく。
「私も出るぞ、このまま負けてなるものか!」
「ドルン中将、伝令が届きました」
「なんだ!申してみろ!」
伝令は持ってきたフォトンに記されている文面を読み始めた。
「こちらにリオール型空母一機と四足型マシナリー『SP‐31』二十体。さらに例のアノ兵器も送ったとの報告です」
「本当か!これで勝機が見えてきたぞ!」
彼の言う勝機とはリオール型でも、SP‐31でも無い。名前すら知ることのないアルカディア史上最強の破壊兵器である。
ゼロは空を旋回しながら地上の様子を見ていた。あきらかにこちらが攻め勝っている。こうなれば時間の問題であろうと思い、帰ろうとしたゼロを大きな影が覆う。上を見上げると新たな空母が浮かんでいた。それは先程の空母よりも明らかに大きなものだった。
「何でこんな所にリオール型が来るんだよ」
リオール型とは、アルカディアの作っている空母の大きさを示すもので、シャーレン、リオール、ガルキメニス、と三段階に別れている。これはいわば中型の空母である。そして、そこから新たなるマシナリーが投下され始めた。
「おい、あれ『SP‐31』だろ?試作機でも無いようだが、どうなってるんだ?」
ジブリールは投下されていくマシナリーに違和感を覚えた。確かにSP‐31は未だ戦場での出撃例は聞いたことがなかったから当たり前だが、ゼロは投下されていった地上のほうが気になっていた。
「おかしい、あれほど攻めていたウチの兵達の進軍が止まった。ジブリール、兵達の最前列を見てくれないか?」
ジブリールの首根っこを掴んで地上に目を向けさせた。そこを見たジブリールはこう言った。
「変なのがいるぜ。どんどんコッチの兵を倒してく」
地上ではファンタジアの兵はたったひとつのマシナリーを相手にしていた。そのマシナリーは人型で頭部を守るヘルメット以外は、ろくに装備も付けていない。だが、誰一人そのマシナリーを止める事が出来なかった。
「ええい!情けない。私も出るぞ!」
戦場の様子を聞いたローランは痺れを切らし戦場へと赴いた。止めようにも一気に本陣を飛び出し、前線まで向かったのだ。ローランの魔法属性は風。通常、全ての魔術師は地、水、火、風のどれかに属することになる。それは自分との相性や才能により影響するものでそれは生涯変えることはできない。
風を操り、何よりも速く最前列へと向かうローラン。すでにSP‐31により、兵達は列を乱し、個々に応戦していた。しかし、SP―31の力は圧倒的で一対一では勝ち目は皆無だった。ローランは進みながらもSP―31とも戦う。ローランは圧倒的な魔法と剣術で薙ぎ倒していった。そして、最前列のマシナリーの前までたどり着いた。
「俺が相手だ!こい!」
ローランは剣で斬りかかった。しかし、その兵器は避けようともせず、受け取ろうともせず、ただその身でその刃を受けた。その兵器の体には当たったが、切れることは無かった。ローランは再び力を込める。だが結果は同じだった。ローランは一歩下がり魔法陣を描き始める。兵器はその魔法陣が描かれる前にローランの鳩尾に蹴りを入れた。軽い蹴りだったがローランは、後ろへと吹っ飛んだ。甲冑にもひびが入りしばらく動くこともままならなかった。近づいてくる兵器の存在を感じ、すぐさま立ち上がり、新たな魔法陣を作る。それは「召喚魔法陣」で、自身に一体だけ従う事が許されている召喚獣を呼ぶため自分で決めた詠唱を唱えることにより姿を現す。
「数多の風を纏い、形ある物を切り続けよ。マエストラーレ」
翡翠の色をした獅子が魔法陣から現れた。大きな雄叫びを上げながら天を仰ぐ。その獅子の体毛は刃で形成されており、重なり合うたび金属音が響く。一気にその兵器に噛みかかろうと口を大きく開け突進した。噛み切ったかに見えたが口の中には何もなかった。その兵器は背中に機械の翼を展開させ大空高く飛んでいた。その翼は大きく拡がり無数の光を放っていた。そして、その光は突然、無数の光線を打ち出した。その目標はローランとマエストラーレ。
一瞬の出来事だった。その光は召喚獣を強制帰還させるほどの威力を持っていた。地面にできた無数の穴。黒く焦げており、かすかだが火薬の匂いもする。ローランは大量の血を流し、倒れ込んでいた。意識はあり、天を見上げその兵器を睨んでいた。召喚獣が召喚師の意思に関係なく消えることを「強制帰還」と言い、召喚師の体力や魔力が極限まで減らされてしまうと起こる現象である。それは召喚師の死が近いことも意味する
光の放たれていた時、ゼロとジブリールは驚愕していた。
「おいおいマジかよ、レイまで搭載しているマシナリーがあんなに小型化になるのか?」
光粒子のエネルギーにより開発された兵器・レイ。光による攻撃のため回避以外で逃れる術はない。
「このままだとローランの奴、死ぬな。助けに行くか」
腰に携えている剣を抜き再び翼を拡げてその兵器に向かって行った。
兵器はゼロの存在にいち早く気付き、立ち向かうべく照準をゼロに変えた。両者は空の戦場で刃を交える。兵器はレイの応用を使い剣の形に固定させていた。
「落ちろ!」
水色の魔法陣を描き、数多の水弾を創り、発射させる。しかし兵器は全てを弾き返した。兵器はすかさず反撃の準備に出た。何処から出したのかわからないが、その兵器の周りに数百とも見える小型のミサイルが出現していた。兵器は手をあげ、ゼロに向かい手を下した。すると、一斉にゼロに向かいミサイルが動き出す。
「アイツ、いつの間に出したんだよ?」
ミサイルが飛び交い、爆発が起こる空を飛び続けているゼロ。ジブリールは振り落とされないようにフードに掴まっている。止むことのないミサイルの雨。兵器は次々とミサイルを飛ばしていた。回避するだけで精一杯のゼロの目前で強烈な発光が起こる。ミサイルの中に一つだけ閃光弾が混ざっていた。その隙にミサイルはゼロを直撃し大きな爆発が起こる。二発、三発、四発と止まないミサイルは次々とゼロに襲い掛かった。
兵器はミサイルを撃つのを止めた。爆煙で覆われたターゲットの生死を確認するためだ。曇っていてよく見えない。しかし、生命反応は感じない。死んだと思ったのか、兵器はミサイルを消した。現れた時と同じように何所にも収納される訳でもなくパッと消えていったのだ。腕に固定化したレイも消えかかっていた時、わずかに生命反応を感じた。完全に煙が晴れ、ゼロはいた。
「守護方陣・玉」
ゼロの周りには玉状の結界で覆われており、まったくの無傷だった。
守護方陣とは、その名の通り防御するための魔法陣である。これを使っている最中は攻撃することは一切できない。攻撃に移る際の予備動作でさえできない。それ程、この魔法陣は神経を使うのである。
「ジブリール、用意はいいな」
「あぁ、ばっちりだぜ」
守護方陣の内部でジブリールはゼロの右腕に乗っかる。ゼロは笑い、ある詠唱を唱えた。
「竜の森よ、住人であるゼロの声を聞け」
守護方陣が解放された瞬間、突風が巻き起こる。その中心を見据えた兵器の目の前にゼロが現れた。右肩に乗るジブリール。そこから先はゼロの腕ではなかった。真紅の鱗を身に付け五本の指から伸びている大きな爪は特徴的だった。
「紅竜・ヴルメリオ」
天高く掲げたその爪は紅い軌道を描き、兵器のヘルメットを目掛けて一気に振り下ろし、切り裂いた。
兵器の顔が徐々に明らかになるにつれ、ゼロは目を疑った。それはよく見てきたヒトだった。
「イヴ」
その兵器はイヴだった。
あの幼い、子供のようなイヴだった。
ぬいぐるみを抱えた小さな少女。
それがゼロの目の前にいる。何も分からなくなったゼロは動けなかった。
二話続いて連載しました。
あまりにも戦闘の件が長いので二話にしました。
〜ちょっと補足〜
ファンタジアは本文でも説明しましたが、騎士と魔法
使い。それと魔法騎士が存在します。
魔法騎士はいわゆるエリートです。騎士と魔法使いの
両方の課程を修了できないと成れません。
〜召喚獣について〜
一人につき一体です。地・水・火・風により、様々な
召喚獣を従えます。ローランのように戦闘系もいれば
補助・偵察など種類も多々あります。
〜ゼロについて〜
一言で言うと「非常識」の存在です。地・水・火・風
全ての魔法を扱い、四元素(地・水・火・風)の精霊
であるノーム・ウンディーネ・サラマンダー・シルフ
を扱っています。ジブリールは召喚獣ではありません
〜アルカディアについて〜
機械の種族であるアルカディアは様々な機械が存在し
ています。戦闘型と呼ばれる「マシナリー」や人に近
い構造をしている「アンドロイド」の大きく二つに
分かれます。このアルカディアにおいてもイヴは特別
な存在です。長くなるので詳しくは次回に