ファンタジアの英雄と強き騎士と
ウォーランド高地。すでにファンタジアの魔法使いや騎士たちは最前線にて陣を整えていた。ゼロはいつものように、どこにと決めることなく自由に座っている。この地へと出向く命令は出ているが、基本的に自由に戦えば良いと言われているからだ。
ファンタジアという種族は魔法を使う事に長けている。しかし、種族の全員が使えるわけではなく限られた素質のある者だけ使う事ができる。素質のある者は幼い時より魔法を習うために「アカデミー」に入学し、一人前の魔術師に成るために修練する。そして、ファンタジアのために戦う。使う事の出来ない者には、それぞれが自由に生活することができる。商業、工業、農業、自由だ。しかし、魔法が使えなくてもファンタジアのために戦う事もできる。それが「騎士」だ。基本的な剣術や武道を覚え、騎士の試験に受かることができれば、誰でもなれるのだ。もちろん、魔法を使える者も「騎士」になる道を目指す者も多い。それが「魔法騎士」である。魔法騎士になれるのはほんの一握りのエリートだけである。
今、このウォーランド高地での総司令官がその魔法騎士である。名前はローラン。最年少で魔法騎士の名誉を授かった。ローランの命令で全ての兵が動き隊を形成する。その動きは鮮やかで一糸乱れぬ陣形となった。
「アルカディアはどうなっている」
ローランは側近の一人に話しかけていた。ローランのいる本陣はウォーランド高地の全てが見渡せる高い場所に設置されている。そこから側近は双眼鏡であたりを見渡している。
「見えました。前方、十里もありません」
「よし、進め!アルカディアを討つぞ!」
ローランは立ち上がり、剣を空高く突き出し、進軍を命じた。その令により、ファンタジアの兵は隊を乱さぬまま一気呵成に攻め込んだ。
アルカディアも戦闘態勢に入ったのか、空母も数機、空を飛んでいた。そこから投下される飛行型マシナリー。地面を駆り進んでくるのは最新型の兵器「EP‐29」と呼ばれている人型のマシナリー。飛行型には有翼獣を召喚し応戦する魔術師。遠距離魔法を駆使しながらも撃墜していく。地上では騎士とEP‐29との戦闘が各地で起こっていた。
アルカディアは空母からの爆撃や大砲からの攻撃で優位を保っている状態だった。ファンタジアは幾人も重ねた大型魔法陣で応戦するもアルカディアの大量兵器の前に押され気味である。
「加勢しないのかい?ゼロ」
「まぁ、そろそろだな」
重い腰を上げ、一機の空母に向かい飛ぶ準備を始めた。地面に手を置き、直径一mの丸い魔法陣が完成した。それは小さくも緑色に光っていた。
「掴まれよ、ジブリール」
背中に光り輝く翼を創り出し空高く飛び上がる。瞬間、あまりの速さに空へ向かう一筋の光ができた。空母の目の前まで近づいたゼロは空母に手を添えて詠唱を唱えた。
空母が大きな爆発を伴い、墜落していった。燃えながら鉄の塊と化していく空母からは残りの飛行型マシナリーも出撃してくる。しかし、その全てが出撃してから間もなく爆発した。ゼロの放つ灼炎系魔法の最下級の威力が内部にまで及んでいた。
「ゼロが現れました。すでに空母一機を破壊しています」
進軍中のアルカディアの最後列にいるドルン中将は早々にゼロを討つ手配を始めた。
「残りの二つの空母もゼロに向かわせろ。何としても倒すのだ!」
その令を受けた空母はゼロに向かい舵をとった。雄叫びにも似た機械音を鳴らしながら目指すは空に浮かんでいる敵国の英雄。しかし、その英雄はまったく怯える事もなく逆にこちらを倒す気でいる。
「ジブリール、片方任せたぞ」
「はいよ」
フードから出たジブリールは空母に向かい飛んで行った。ゼロも空母に向かい再び魔法陣を描く。再び、緑色の魔方陣。そして四角、また一瞬で魔法陣が現れた。空母からはすでに何発かのミサイルがゼロに向かい飛んできている。それでもゼロは逃げようとはしない。ミサイルが魔法陣に当たる直前に、魔法陣から大きな風が生み出された。その風は空母に向かい一直線に進んでいった。ミサイルを爆破しつつ風は進んでいく。風は徐々に姿を変え竜巻のように螺旋を描き、空母を切り刻んだ。その中にいたマシナリーも切られた衝撃で爆発を起こす。その爆発がさらなる爆発を引き起こし空母を破壊した。
ジブリールのほうも空母を爆発させることに成功しゼロの元へ戻っていった。地上ではファンタジアの兵が歓声を上げていた。本陣でもそれは同じだった。握手をする者もいればゼロに向かい拍手をする者もいる。しかし、ローランだけは素直に喜んでいなかった。