目指すはゼロの街と
その日は朝早くから戦いが始まった。エリオット・カルヴァンもこの地には正規の軍として来ていない為、前線で戦うことになった。ティエラも同様に前線にいた。
「あの二人は大活躍だな。そろそろ俺も戦うから、ここにいろよ」
昨日話したとおり、ティエラはマルスとアリエスを街に置いて、戦場へと赴いた。
「やっぱり、三人ともすごいね」
「うん。他の騎士と明らかに違う」
二人はティエラの言いつけを無視し、戦場の近くにある丘から戦闘を見ている。どうしても三人の戦いぶりが見たかったから。
ローランは風を駆りアルカディアの兵器を切り倒していく。カルヴァンもさすがはエリオット十二世の側近だけはあった。「無音」と呼ばれている戦闘術は敵の人口兵器をいともたやすく殺していく。全ての武術において音を出すことなく敵を倒す騎士。
それにティエラもすごかった。ティエラもローラン同様に魔法騎士のようだが、どんな魔法を使っているのかは分からなかった。だけど、この三人がいるだけで、戦局は完全にこちらの有利に進んでいる。
結局、三人の活躍と空からの攻撃がなかったアルカディアの軍はあえなく撤退していった。
戦闘が終るとティエラは早々に支度を始めた。
「さっさと移動するぞ。リヒルとなるべく関わりたくないからな」
「何か知られたらダメなことでもあるんですか?」
ティエラの言葉にアリエスが質問をする。
「俺たちの任務は極秘だ。ここにいる理由を聞かれてみろ。何て答えればいいんだ」
カルヴァンは呆れたように言い放った。
「どんなときでも、アルカディアに負けるなど許されません」
対抗するようにローランはカルヴァンに言った。
「それで、任務を放棄しなければならない状況になってもか?」
なにやら険悪なムードが流れ始める。
「俺が決めたことには従って貰う。どんな結果になっても俺が責任を取る」
その言葉で二人は黙ってしまった。任務も進展がなく、仲も悪くなる一方。果たしてこれでゼロなど見つかるのだろうか。マルスは不安になっていた。
宴を挙げている騎士たちを横目にこの街を出て行くことにした。だが、出口付近にはリヒル卿が待ち構えていた。
「何処へ行く気だ?ティエラ」
全てを見透かしたように立っているリヒルは徐々に近づいてくる。
「別に、ちょっと通りかかってね。止む無く戦闘に参加した帰りだよ」
「お前!言葉遣いに気をつけろよ!」
「構わん。こいつに何を言っても無駄だ」
カルヴァンの言葉をリヒルは笑ってごまかしている。
「特に用がないなら帰るけど」
「ゼロを探しているんだろう。つい先程、エリオットから連絡があった。お前がこの街に来たときは協
力してくれ、と」
「まったく、何処が極秘なんだよ」
「そう言うな。ゼロは、この街より東の方へと向かった。まだ、遠くには行っていない筈だ」
「東か。そういや街が一つあったな」
荷物を持ち、街を出ようとしたとき。目の前に馬車が止まった。
「俺からの餞別だ。受け取れ」
「礼なら何もないぞ」
「構わん。お前とゼロでこの街に訪れてくれればそれでいい」
「なら、遠慮なく貰っていくわ」
馬車に荷物を積め、一行はゼロが向かったとされる街へと急いだ。