森の試練とティエラたちの戦いと
キュアノエイデスは森の奥へと続く道の入り口にいた。
「よく来ました。ゼロ、準備はよろしいですか?」
「今回の試練の森の住人は?」
「緑の尻尾を持つ竜です」
「わかったよ。行って来る」
ゼロは今、ヴルメリオ・キュアノエイデスの二匹の竜の試練を突破している。竜それぞれが持つ試練の森を突破し、その竜の名を聞くことで始めて契約が成立する。そして、全ての竜との契約を終えたとき、竜の長「ラグナロク」は姿を現す。
ゼロ達が竜の森に入って二ヶ月が流れた。ゼロのキズは次第に癒え、森に挑戦している最中、ティエラ一行はシャクラムスに到着した。大きな事件があったとのことでファンタジアから派遣された騎士団と共に事件の後処理を行った。
カルヴァンは黙々と散った瓦礫を片付けている。それをマルスは距離を取って見ていた。
「なんだ?何か用か?」
「いえ、別に」
「なら手を動かせ」
マルスは言われるまま手を動かした。マルスはエリオット十二世の側近・カルヴァンとファンタジア騎士団において最年少で「魔法騎士」の称号を貰ったローラン。それに「ゼロに傷をつけた男」と噂されているティエラ。どうしてこの三人と自分が任務をしているのだろうと思った。
カルヴァンとローランはティエラの命令に従っている。確かに最初、カルヴァンとティエラが戦ったとき。噂が本当のように感じられた。それを二人も感じたのだろう。
カルヴァンの攻撃を一撃も当たらずに、かつ一撃でカルヴァンを倒したティエラ。それを見てローランもティエラの実力が分かったのかもしれない。
しかし、マルスはティエラの力を目の当たりにし、自分がこの部隊にいること自体が可笑しいと思った。ティエラが何故自分を選んだのかに疑問を持った。この街に来る道中、何度も聞いたけど教えてくれなかった。
アリエスはどう思っているだろう。よく話はするけど、身の上の話しかしない。この部隊のこととか、任務のことは全く話したことはなかった。
「おい」
不意に頭を鷲掴みにされる。強制的に振り返させられると目の前にはカルヴァンがいた。
「さっき言った事すら真面目にできない怠け者なのか、お前は?」
声は静かだが、明らかに表情が怖い。
「す、すみません。すぐやりますっ!」
マルスは恐怖の余り声が裏返ってしまった。手を離すと、マルスは急いでその場を離れ別の場所で作業を始めた。
一方、ローランは街の様子を伺っていた。事件の後処理にしては、騎士団に人数が多い。そんな気がしていた。
「サボりは良くないよ。ローラン」
背後にティエラがいた。
「お前もだろ。それに何か様子がおかしい」
「まぁ、たかが火事処理のためにこんな人数が動員されるのはおかしい。リヒル卿も何も話してはくれ
ないが、おそらくこの近くでまた戦闘が始まるのだろう」
「まだ、戦争は続くのだな。いつになれば終るのだろう」
「終らせるために、ゼロを呼ぶんだ。そのために俺たちはいる」
二人の予想通り、火事処理の二日後にリヒル卿から戦いがある事を通達された。
決戦前夜、ティエラはアリエスとマルスを呼んだ。
「何か用ですか?」
「用がなければ話してはダメか?たまには無駄話もしたいさ」
二人はティエラの横に座った。それからしばらくは他愛のない話を続けた。
「なんだ、マルス。ゼロと会ったことあるのか?」
「はい、ローランさんがいると言い難いんですが、行方をくらます前夜に襲われて」
「なるほど、アリエスは会ったことあるの?」
「いえ、私はないです。でもやっぱり魔術師を目指すものにとっては憧れの存在ですよね。ゼロさん
て」
「ティエラさんはゼロさんとはどういう関係なんですか?」
「昔の馴染みだよ。あいつが独りになった頃からの」
ティエラの言葉には意味深なものがあった。おそらく、二人にしか分からないことだからだろう。
「明日は、ここにいろよ。死ぬぞ」
最後の台詞は冗談交じりで言い、ティエラはキャンプに戻った。マルスもアリエスも何が起こるか分か
らないので、一応明日に備えて寝ることにした。二人とも始めてのアルカディアとの戦闘。緊張しない方が無理かもしれない。