ヤマトとインフと
ヤマトは広場に戻っていた。今起きたことが夢かもしれないという淡い期待を持ちながら。広場にはインフがいた。
「遅かったじゃないか。ヤマト」
「師匠・・・」
すぐにヤマトの異変に気付いたインフ。
「どうした?何があった?」
ヤマトは今まで起こったことを全て話した。
「そうか、そんなことがあったのか。紅い男か」
「師匠、何か知っているんですか?」
「推測の域だが、おそらくその男は『七色の道化師』の一人だろう」
「『七色の道化師』?」
「ああ。この世界に存在する七人の道化師。奴らは無差別に人を殺していく。さらに、奴らには普通の
攻撃は効かない。突然現れ、突然殺す。対抗する手段がない」
「そんな」
「ヤマト。お前なら道化師を殺すことが出来る」
その言葉を聞いたヤマトは胸に小さな希望を抱いた。
「可能性の話だ。その可能性とは、昨日お前に渡した『複数武装』だ」
「これが、可能性」
「それの研究段階で私は道化師の話を聞き、道化師を倒せるように『複数武装』を改造した」
ヤマトは手に取った「複数武装」を見つめている。これでアオバの敵が討てる。
「どうする?ヤマト。このまま普通の生活を続けるか。それとも」
「決まっています。俺は道化師を殺します」
インフはため息を一つ。ポケットから一枚のカードを取り出す。黒く光っているカードだった。
「これがあれば大抵のものは買える。道化師を探す旅は苦しく、辛いことが多いだろう。これは卒業記念だ。受け取れ」
ヤマトはカードを受け取り、「複数武装」と共にポケットにしまう。
「では、師匠。行って来ます」
「元気でな」
ヤマトは旅立った。目指すは紅い男。目的は復讐。
ヤマトが旅立って数分、インフは未だ広場にいる。そこに老婆が現れる。
「インフさん。はいよ、いつもの差し入れだよ」
その老婆はヤマトとアオバの訓練中に焼きたてのクッキーを差し入れに来ている。二人を孫のように思い親しくしている。しかし、今日はいつもいるはずのヤマトとアオバがいなかった。
「あれ?ヤマトちゃんは?」
「少し前に、この街を出て行きましたよ。やりたいことが見つかったらしくて」
「そうかい、そうかい、若いうちは旅をするもんだよ。ところで・・」
老婆は何かを思い出すように首を傾げながら考えごとをしている。
「どうかしましたか?」
「いやね、ヤマトちゃんのほかにもう一人、一緒に訓練している子がいたような気がしてね。確か女の子だったんだけど、名前がねぇ」
「いえ、私の弟子はヤマト一人ですよ。女の子は弟子にした覚えが無いですね」
「そうかねぇ?やっぱり気のせいだったのかもねぇ。最近物忘れが激しくてねぇ」
「では、おばあさん。私はこれで」
「あら、そうかい。じゃあインフさん。これ食べておくれよ」
「ありがたく頂きます」
インフもまた、旅に出る。