シュレンと殺し屋と
シャクラムスよりも南にある小さな街、ラクアン。ベルニカと肩を並べる三大娯楽都市のひとつだが、ベルニカのようにカジノなど賭場主体ではなく、レジャー施設やスイートクラスのホテルなど高級なイメージの街。そのラクアンの中でも一番大きなホテルの最高級スイートの一室。ワインを片手にシュレンはある男と対峙していた。男は目深に帽子を被り黒のスーツに身を包んでいる。目の前にあるワインを飲み干した後、シュレンは男に話しかけた。
「お前の噂は常々聞いている。その噂を信じてある事を頼みたい」
男も同様に目の前のワインを飲み干しこう告げる。
「来る者拒まず、だ。話から聞こう」
シュレンは指を鳴らしタリスを呼び出す。タリスは机の上に一枚の写真を置く。
「貴方にはこの男を殺していただきたいのです」
写真に写っているのはゼロだった。男は写真を手に取りじっと見つめる。
「殺してもいいのなら殺す。だが、コイツはお前らの種族の英雄のはずだが?」
男はゼロを殺すことよりも、それを頼んできたシュレンを不思議に思った。一国の主の息子。自国で戦争が起こっている状態で、何故こんな所で自分と対峙しているのか理解できなかった。そして、英雄を殺して欲しいことも。
「理由は聞かなくていい。ただ、始末してくれれば誰でも良い」
「了解した。但し、報酬の額は俺が決める。ターゲットが満足できる存在ならば報酬は要らん。だが、
つまらない相手だったらそれ相応に頂く」
男はそう言い残し、部屋を後にした。シュレンは笑顔を浮かべていた。
「やはり噂は本当でしたね」
「あぁ、ゼロを始末するのに金はかけたくない。あの男でもゼロを殺すのは困難だろう。もし殺せたとしても、アイツの言う満足はする筈だ。殺せても殺せなかったとしてもどちらでも良い」
シュレンは男の全てを知っていた。あえて、どちらに転んでも良い結果になるように仕組んだのだ。
部屋を後にした男はゼロの写真をもう一度見る。裏を見たとき、ある言葉が書いてあった。
『シャクラムスにて目撃情報あり』
余計な気遣いと思ったが、探す手間が省けたことは嬉しかった。男がラクアンの街を抜けようとした時、目の前に人影がいくつか見えた。
「おい、兄ちゃん。ちょっと待ってもらおうか」
よく見てみると、どうやらこの街を仕切っているギャングのようだ。気付けば男の周りをギャングが囲んでいる。その数は十を超えている。目の前にいるリーダー格の男は銃を向け、こう言い放つ。
「身包み全部置いていきな。この街を出るには通行料が必要だからな」
その言葉を合図に周りのギャングたちも次々と銃を向ける。しかし、男は動じる様子もなく静かに呟く。
「十秒待ってやろう。その間に逃げなければお前たちを殺す」
それを聞いたギャングたちは少しの沈黙の後、高笑いを始めた。男の論外な台詞に呆れ返っていた。
「アンタ、面白いこと言うな。自分の立場が分かってないようだ」
「もう、十秒経ったな」
男はそう言い、指を鳴らす。その瞬間、ギャングたちの喉下にナイフが突き刺さっていた。ギャングは何が起こったのかわからず、血を噴出し、その場に倒れこむ。既に息はなかった。
「さすがですね。あのマキと言う男」
窓から一部始終を見ていたタリスは静かに言った。
「当たり前だ。あんなギャング共を倒せないでどうする?」
先程のギャングはシュレンが雇った者達であった。男・マキの力を試すためにあえて衝突させた。
「やはり、噂は本当でしたね」
「そうだな。何が起こったのかまったくわからなかった」
マキ。男はそれ以上語らず、それ以外語らない。ただ、マキにはある噂が流れている。それゆえ、一流の殺し屋を続けられている。