それぞれの思い
「俺はいくよ、志願する」
必ず帰ると誓いをたてて三年、ついに機会は訪れた。アンリのその双眸は目の前の二人を越え、遥か遠くを見ていた。
解散した騎士団員たちがもたらした反攻軍の噂はデリーの街中に広まった。ある者は故郷の解放を夢見て歓喜し、ある者は故郷で別れた最愛の人の無事を改めて祈った。先の戦いでの戦死者の弔いで暗い雰囲気だったデリーは、再び活気を取り戻し街中がお祭り騒ぎとなった。それも日没の鐘が鳴ると共に終わりを迎え、疲れ切った多くの人々は明日に希望を抱きながら眠りについた。ある人々を除いて――
「志願者は三百名を超えたそうですね、父さん」
「ああ。3個中隊規模、我が騎士団のおよそ半数だ。ダニエル、お前の名もあったぞ」
ダニエル=オコナーに対面し、パイプを片手に椅子に深く座る騎士団長ダグラス=オコナーは言葉を続ける。
「我々は中央の騎士団よりデリーの亡命者を守るために派遣された。国境いの要塞より先に縁故はないぞ」
「デリーの民が征くのです。中には家族を連れていくものもある、これを守るのがオコナー家の使命でしょう。父さんは残られるので?」
「戦力が半減する。敵の目はしばらく要塞に向くだろうが、油断はできぬ。しかしそうか、お前がこの街を離れるか。九つの時からお前には街を守れ、民を守れと教えてきたが――」
「母ちゃん、俺、反攻軍に行くよ。母ちゃんも来るだろ?」
「あたしゃいけないよ。まだこの街でやることがあるし、私たちが一から作った街だ、愛着ってのがあるしねえ。……でも、そうかい、エイモンあんたは行くんだね。ちょっとこっちへおいで――」
ある者は厳しき父の初めて見せる涙に心打たれ、ある者は母と抱き合い別れを惜しんだ。
そして十日の時が過ぎた。