第三分隊出撃
「第三分隊、総員出撃準備完了しました」
分隊長であるダニエルはオコナー騎士団長に敬礼しながら報告した。第一駐屯地の開けた練兵場に総勢十名の分隊員たちは軽装の鎧を身にまとい各々の軍馬に騎乗しながらダニエルを中心に横一列に整列している。片手には槍を携え、腰にはサーベルを下げるが、アンリのみは重々しい両手剣を下げている。遠くに見える駐屯地東門からは数刻前に準備を終えた第八分隊が馬蹄で土煙を巻き上げながら出撃する。
「ご苦労。敵はデリーから目と鼻の先、北の森を抜けた先の街道に展開する――竜騎兵を含む部隊だ」
一瞬目を見開いた分隊員たちは互いに顔を見合わせる。
「既に出撃した部隊が迎撃している。事態は一刻を争う、直ちに出撃し戦列に加われ。我が部隊もすぐに向かう」
第三分隊はダニエルを先頭に駐屯地東門を抜けデリーの通りを疾走した。既に人影はなく、先刻までのお祭り騒ぎが嘘のような静寂につつまれていた。デリーを囲む城壁の北門から森へ出ると、舗装されていながらも両手側から木々が迫り一個分隊がやっと通れるほどの狭い道である。馬ならば五分ほどで森を抜け街道へ出る。
「相手は飛竜を含む、だとよ」
エイモンはアンリの左に馬をつけ体を揺られながら話しかける。
「飛竜か。話には聞いたことがあったが実際に見るのは初めてだな」
「ああ。敵さんはこんなド田舎になんの用だか――」
ヒュン、ヒュンとエイモンの言葉を遮るように右手側の茂みの中からいくつもの矢が飛んでくる。矢はアンリの軍馬に命中し、大きくいななく軍馬にアンリは振り落とされる。
「チッ、伏兵か!ショーン、アースキン行くぞ」
ダニエルは二騎を連れて矢の射られた茂みへ突っ込んだが、既に撤退する敵兵の背を遠くに見るのみで、すぐ引き返すほかになかった。
「アンリ、無事か」
「ああ、俺は大丈夫だが、馬がやられた」
倒れた自身の馬を撫でながらアンリはダニエルに答える。
「気の毒だが私たちは先に行くよ。君は徒で後から来い」
「おお、アンリ、歩きか!待ってるぜ」
先を急ぐ九騎の背中を見送りながらアンリは槍を捨てると両手剣だけを頼りに道を急いだ。日の光が入りづらい森の道は、出口に近づくほどにだんだん明るくなり、そして森を抜け戦友たちが待つ開けた広野にたどり着くとそこには、遠くの敵騎兵と激しく戦闘するデリー騎士団を背後に二匹の飛竜が悠々と屍体を貪り食っていた。