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第二十四話


「一体どういうことですか。突然呼びつけたと思えばグループ幹部の皆様まで巻き込んで、婚約発表だなんて。あまりにも勝手な行動ではありませんか?」


会議が終わり人がいなくなった後、私はお父様に詰め寄った。残っているのはお父様とお母様と和磨さんと私の4人だけだった。


「冬桜子、お前…!?」


お父様は目を見開いて固まってしまった。驚いているみたい。お父様にこうしてハッキリと意見をぶつけたのは生まれて初めてだから、驚いているのね。


固まっているお父様にお母様が助け舟を出した。


「驚いていらっしゃるの?無理もありませんわね。

冬桜子は家だととても大人しかったでしょう。ですけど、意外とこの子は大事な時は意見を言うのよ。そうでなければ、白天グループの社長秘書なんて務まりませんからね。」


今度は私が驚いてしまった。

お母様は意外にも私のことをよく見てくれていたから。


「お母様、よくご存じですね。」


「これでも貴女の母親ですから。

さて、旦那様はしばらく使い物にならないから先に挨拶をしましょう。

初めまして、藤堂和磨さん。私は冬桜子の母の蓉子(ようこ)です。」


「こちらこそご挨拶が遅くなりました。藤堂和磨と申します。国立Y研究所で特任准教授をしております。」


「ええ、聞いていますわ。和磨さん…と呼んでよろしいかしら。和磨さんのような、きちんとした方と巡り合えて本当に安心していますの。冬桜子はお勉強はそこそこできるのですけど、世間ずれしていなくておっとりしたところがあるでしょう。ですから、和磨さんみたいな冷静で大人の方とこうして縁が繋がって嬉しいですわ。」


「ありがとうございます。今日はてっきり怒られると思っていたので気が抜けてしまいました。」


和磨さんは笑顔で返す。その様子に、確かに和磨さんは大人の対応をしているわ、と納得してしまう。


「ふふ。まさか、和磨さんと冬桜子の仲を認めないなんてあり得ないでしょう。和磨さんがしっかりした方だということは、報告が上がっていましたから。

白条誠一から冬桜子を救っていただいたこと、改めてお礼申し上げますわ。」


お母様は深々と和磨さんに頭を下げた。あの気位の高いお母様が頭を下げるなんて初めて見た。

一方、和磨さんは困ったようにしていた。


「お顔を上げてください。あの件については、私も悪かったんです。私たちの邪魔をされたくなくて、撒くようなことをしたせいで、護衛の方たちのお仕事を邪魔したのですから。」


「いいえ。護衛については単純に力量不足ですわ。護衛対象に存在を悟られるなど、もってのほか。本件で厳しく指導させておきました。」


どういうこと?そういえば、秋紀ちゃんも以前言っていたけれど私に護衛が付いていたというの?


「ちょっと待ってください。全く話についてこれないのですけど、護衛って何のことですか?」


「冬桜子は気づいていなかったのね。貴女には幼いころから護衛が付いていたのよ。知らなかったの?」


「この間に秋紀ちゃんから言われて存在を知りました。まさか、子供の時からつけていたなんて。理由はなんですか?」


「そうね、それについては旦那様からお話いただこうかしら。」


お母様が水を向けると、お父様は重い口を開けた。


「それは、あれだ。六条家の娘ともなれば身代金目当ての誘拐も想定されるだろう。だから、護衛をつけていたのだよ。」


「そうなのですか。」


確かに、身代金誘拐は十分に考えられることだった。私の幼いころはそう言った事件が頻発していたし、護衛がいるお友達も小学校のクラスにいた気がするわ。

そこまで考えて、納得しかけて不思議に思った。

変ね。でもどうして大人になっても護衛がつけられているのかしら。


「仰る通りですけど、それならどうして誘拐の恐れが低くなった今でも護衛をつけているのですか?」


私が切り返すと、お母様がお父様をつついた。


「ちょっと、旦那様。いい加減に本当のことを仰いなさいな。」


「むむ…。」


お父様は口をモゴモゴと動かして、顔を赤くした。

恥ずかしそうにもじもじしているけど、全然かわいくない。


「心配だったんだ…。」


「ただ心配だったんだよ。冬桜子が変な人に騙されたり、泣かされたりするのが、怖くて護衛をつけていたんだ。それに、冬桜子が元気にやっている様子も護衛は教えてくれるし…。」


私は頭が痛くなった。とっくに成人している子供に対してそこまでするのは、過保護ではないかしら。それに泣かされたという意味では、お父様が婚約を決めた白条誠一さんより酷い人に出会ったことはないわ。


「お父様のお気持ちはわかりましたわ。でも、護衛を付けるのは止めてくださらない?もう成人していますし、あと1年で六条家を出ることになるのですから。」


「でも…そうしたら冬桜子の様子が分からなくなるじゃないか…。」


「別に問題はないと思いますわ。私はお父様のご様子なんて今まで知らされていませんでしたもの。放っておかれていましたから。」


私の冷たい言葉にお父様はショックを受けたのか、泣き出しそうになっていた。見かねた和磨さんが私をなだめにかかった。


「冬桜子、勝手に行動を見張られていたのに傷ついたのはわかっているよ。護衛を止めてもらうのも賛成する。だけど、護衛については夏秀(かしゅう)さんが心配のあまりやってしまったことなんだ。そこは理解してあげてくれないかな。」


和磨さんの言うことはわかる。理解できるわ。だけど、感情が追い付かない。それに、和磨さんの言葉に引っ掛かることがあった。和磨さんはお父様のことを『夏秀(かしゅう)さん』と名前で呼んだ。お父様の名前を和磨さんは知っているみたいだった。


「お父様は和磨さんにまだ名乗ってないわよね。なぜ和磨さんはお父様の名前が夏秀だって知っているの?まさか、すでに会ったことがあるの?」


和磨さんはしまったなぁという顔をした。それから、お父様の方を和磨さんがちらりと見た。お父様はアッと両手で口を押えている。女子高生みたいな驚き方をしているけど、全然かわいくないわ。


「お父様!まさか、私に隠れて勝手に和磨さんに会っていたのですか?」


「だって~…。冬桜子のことが心配だったんだもん。

婚約破棄して、傷心しているところに付けこむなんて悪い男かもしれないって心配するじゃないか。」


もん。じゃないですわ!

かわいこぶっても許しませんわよ。


「ごめんさない、和磨さん。お父様が勝手に呼び出したのでしょう?迷惑でしたわよね。」


「全然気にしてないよ。突然で驚いたけれどお会いして話したら冬桜子とのことを許していただけたし。」


和磨さんの言葉に、お父様が全力で首を縦に振っている。


「ちなみにいつ頃でしたの?」


「2人で東京出張に行った後かな。」


「そんな前から?全然気が付かなかったわ。

お父様は変なことをいいませんでした?」


「特におかしなことはなかったよ。」


和磨さんは笑みを変えずに答えた。

だけど、私は気が付いていた。和磨さんの返答までに一瞬の間があったこと、そしてお父様が全力で横に首を振っていること。

何かある、けどどうしても隠したいみたい。取りあえずこの場は矛を収めることにした。


「わかりましたわ。もうこの件についてはお父様を許して差し上げます。」


「冬桜子、ありが―」


「ですけど、まだ聞きたいことがありますわ。

今日の会にどうして幹部の方がいらしたの?家族だけだと思っていたのですけど。」


「それは簡単だ。冬桜子と和磨君の仲を邪魔されないようにしたかったんだよ。冬桜子は知らないだろうが、白条家との婚約が破棄されてから冬桜子への縁談がひっきりなしに来ていてね。おまけにグループの中でも冬桜子と分家の適当な男を結婚させたいという意見も出てきて混乱しそうだったんだ。

だから、話がこじれる前に和磨君との婚約を公表しようと思ったんだ。」


「でも、私たち藤堂のお家にご挨拶もしていないのよ。」


「明日行くんだろう?返事の手紙に書いてくれていたじゃないか。」


「でも、和磨さんのご両親に認められるか分からないのに……。勝手なことして……。」


「大丈夫だよ、冬桜子。うちの両親は喜んでいたから。反対されることなんてないと思うよ。」


「ほら、和磨君もこう言っている。冬桜子は心配しすぎだよ。」


「お父様は強引すぎるのです。

ですが、六条グループのことを考えての行動だとわかりましたわ。ですが、まだ気になることがあります。」


お父様はきょとんとした様子で聞き返した。

首をかしげているけど、やっぱりかわいくないわ。


「なにかね?」


「どうして、秋紀ちゃんはあの時に和磨さんのことを認めないようなことを言ったのかしら?私を姉のように慕ってくれているのは知っていましたけど、六条グループのことを考えれば混乱させるような事をあの場で言う必要はなかったと思うの。」


私が言うと、私以外の3人が揃ってああ、とため息をついた。残念なものを見るような視線を私に向けている。


「え?おかしなことを言いましたかしら?」


「冬桜子はそのままでいいと思うわ。秋紀君のあれは駄々みたいなものだから気にしなくていいのよ。

冬桜子も知っている通り秋紀君には名城(めいじょう)羽留(はる)さんという婚約者もいるし、そもそも冬桜子と結婚させようなんて考えたこともなかったもの。ねぇ、旦那様。」


「そうだよ。今時従兄弟で結婚というのも時代遅れだしな。秋紀君には私からもちゃんと言い聞かせておくよ。和磨君も、身内の非礼を改めて詫びさせてもらう。不愉快な思いをさせてしまって悪かったね。」


「いいえ。気にしないでください。遅い反抗期みたいなものでしょう。弟がいるから分かりますよ。」


和磨さんは本当に気にしていないようだった。それにお父様もお母様も秋紀くんのことは気にするな、と言っている。

よく分からないけれど、忘れて良いのかしら?

なんだか置いていかれている気がするわ。


その後も色々と話をして気がつけば夕日に差し掛かっていた。今夜は泊まっていけば?と引き留める両親を制して、私と和磨さんは去ることにした。だって、ホテルを取ってしまっているからキャンセルしたら勿体ないでしょう。

帰り際、明日のお土産にと言って、お菓子をたくさん貰った。和磨さんのご両親にあげるものらしい。

こちらは断りきれなかったので、仕方なく受け取った。荷物が予想外に多くなったから、ホテルまで車を出してもらうことにした。車に荷物を載せてもらっている時、私と和磨さんに声をかける人がいた。


「冬桜子お姉様、お話があります。」


とっくに走り去ったはずの秋紀ちゃんだった。


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