第二十三話
大変間が遠くなってしまい恐縮です。
やっと書きたいところまで書ききれましたので投稿します。予約投稿で毎日二話ずつアップします。
自宅に戻り、秋紀ちゃんから手渡された招待状を眺めた。招待状にはお父様とお母様のお名前が連名で書かれている。珍しく二人揃っているみたいだった。
身内の集まりだというのに、相変わらず仰々しいこと。
私はため息をつきながら、硬くて厚い高級紙で作られた招待状をテーブルの上に置いた。
テーブルの上に置かれた招待状を和磨さんが手に取って検分した。
「読んでもいい?」
「ああ、ごめんなさい。どうぞ、ご覧になって。」
和磨さんは無意味に仰々しい招待状を眺めると驚いたように大きな目を更に大きくした。
「冬桜子って、本当にお姫様だったんだね。」
「前に言ってたのはお嬢様じゃなかった?」
私が笑いながら言うと、和磨さんは苦笑いした。
「よく覚えてるね。そうだけど予想以上だった。
まさか、白金にお屋敷があるとはね。」
「ああ、白金の本家のこと?
そちらは古いから普段は使わないの。なのにお父様ったら見栄っ張りなんだから。」
「そうすると、他にも家があるの?」
「ええ。普段は渋谷の松濤のお家に住んでいるの。
そちらの方が現代的で居心地も良いのに。本当に形式ばったことばかり考えて、嫌になっちゃう。」
「冬桜子は本当にお姫様なんだね。」
和磨さんが他に言葉がないみたいに、ため息をつきながら言った。
どうしよう、不安にさせてしまったわ。それはそうよね、従兄弟が言伝のためだけに押しかけてきたり、格式ばった時代錯誤の招待状が届くなんて普通じゃないもの。
私はフォローするつもりで慌てて言った。
「和磨さん、びっくりしたでしょう。
従兄弟が前触れもなくやってくるし、仰々しい招待状は用意するし、普通じゃないわよね。うちの家が変でごめんなさい。
こんな格式ばった手紙を用意してきたけれど、お父様は私達の顔を見たいだけよ。気構えなくていいから。
それにお父様達から何を言われても私は和磨さんと結婚するつもりよ。」
「冬桜子が謝ることはないよ。ただ、予想以上で驚いただけ。
それに冬桜子のご両親に認められるつもりだから、安心して。」
和磨さんはいつもの通りにっこり笑ってくれた。
本当に和磨さんは優しい。
「ありがとう。それじゃあ、2人揃って出席するとお返事しておくわね。」
「返信も手紙なんだ。」
私が便箋を取り出すと和磨さんが目を丸くした。
そうよね、今どきメールも電話もあるのに手紙でお返事なんてちょっと変わってるわよね。
それから、あっという間に時間が流れて三連休になった。
いよいよ今日は、私の両親に挨拶に行く日だ。
新幹線とタクシーを乗り継いで、私達は白金の洋館に降り立った。白亜の洋館はアールヌーボー様式を取り入れた小洒落た雰囲気がある。
門を抜けて敷地内の庭園を歩き、たどり着いた先にある静かなこの洋館は、どこか緊張を孕んでいた。
エントランスには初老の男性が立っていた。白金の屋敷の管理をしてくれている六草さんだ。
六草さんは私の顔を見て、お辞儀をして扉を開けてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、冬桜子お嬢様。それに藤堂様。旦那様方がお待ちです。」
私と和磨さんは六草さんの後について屋敷の中を進んでいった。何度も来たことがある場所なのに、初めて訪れたかのように余所余所しい感じがする。
何か、いつもと違う。
「六草さん、質問してもよいかしら。
今日はお父様のほかにお母様もいらっしゃるのよね?」
前を進む六草さんに声をかけると予想外の答えが返ってきた。
「はい、旦那様と奥様と秋紀様がいらっしゃいます。お三方に加えて本日は臨時のあやめ会が開催されておりますので、六条グループの幹部の方々もいらっしゃいます。」
「あやめ会が開催されているの?」
「冬桜子、あやめ会ってなに?」
和磨さんが私の耳元に囁く声で聞いてきた。
そうよね、和磨さんは知らないはずだわ。私が説明していないのだもの。
「あやめ会というのは、六条グループの幹部の方々、つまりグループの主要な企業15社の社長を集めた月に一度の親睦会のことよ。六条グループの今後について話す重要な会議なのだけど、どうして今日に限って重なっちゃったのかしら。」
私が困惑しながら説明すると、和磨さんは神妙に頷いた。
「そうか、なるほどね。」
不安になって隣を歩く和磨さんを見上げた。
和磨さんはこちらを見返して、静かに微笑んだ。
「冬桜子、大丈夫。たぶんだけど、困ったことにはならないから。」
落ち着いた様子の和磨さんに私も少しばかり安心した。
「旦那様、お嬢様と藤堂様をお連れしました。」
通された先は、洋館で最も広い大広間だった。
長い長いテーブルに、お父様とお母様、秋紀ちゃんだけでなく、何人もの人が座っていた。六条グループを支える幹部の方たちだった。
「ようこそ、遠くから来てくれた。」
お父様が私達に声をかける。仰々しい物言いから、これは正式な場であるとひしひしと伝わってきた。
正式な場で勝手に座るのはマナー違反だから、お父様から座っていいと許可されなかったので立ったままでいた。
私が座らないのを見て注意深く和磨さんも同じようしていた。
沢山の視線が私たちに向けられている。
なんだか叱られる前みたいで落ち着かない。
お父様は遠くから私達を品定めするように見た。
「ふむ…。2人とも楽にしていい。今日は2人の仲を確認したかっただけだ。私は2人を祝福しようと思う。」
最後の言葉を強調してお父様は言った。お父様の視線は私たちというより幹部の方々に向けられていた。
お父様の鋭い目線に幹部の方は何も言わずに黙っていた。
「改めて紹介しよう。私の娘、六条冬桜子とその婚約者の藤堂和磨殿だ。
2人はこの度、婚約し結婚することになった。
式は来年の春に行う予定だ。
私は六条家の家長としてこれを認めた。
皆さん、異論はあるまいな?」
お父様が幹部の方に確かめると、その場にいた人々は静かに頷いた。肯定を意味する沈黙が続いた。
「それでは、これを持って二人の婚約をー」
お父様がまとめようとした時に、止める声が入った。
秋紀ちゃんだった。
「待ってください!冬桜子お姉様のお気持ちを確かめてからでも遅くありませんか?」
「何を言っているんだ秋紀君。
冬桜子自身が藤堂君とここに来た時点ですでに意思は表明しているも同然じゃないか。
それに、この婚約は六条グループの後継となる君のためにもなるのだぞ。」
「僕のことは関係ありません。
冬桜子お姉様、本当にその男と、藤堂和磨と結婚したいのですか?」
「えぇ?ええ。もちろんよ。なぜ、そんなことを聞くの?」
急に質問を向けられた私は驚いて間抜けな声を出してしまった。
「くっ…!むしろなんでですか!
なんでそんな出会って間もない人と結婚しようだなんて…どうかしてますよ!」
「ど、どうしちゃったの、秋紀ちゃん…?」
私はいつもと違う秋紀ちゃんの様子に戸惑っていた。秋紀ちゃんは礼儀正しい優等生で、こんな風に声を荒げて当たり散らすなんてことはなかったから。
私がおろおろとしていると、和磨さんが口を開いた。
「秋紀君はお姉さん思いなんですね。」
それから、和磨さんはいつもの通りにっこりと笑ってその場にいた全ての人を見渡した。和磨さんほどの美形だと、微笑むだけで性別も年齢も関係なく相手を圧倒するらしい。その証拠に幹部の方のうち何人かが見惚れていた。
「うっ…。」
和磨さんの一言に、秋紀ちゃんは黙りこくった。顔が真っ赤になっている。ええっと、和磨さんの指摘が図星だったのかしら?
「なんだ、秋紀ちゃんたら、私のことを心配してくれたのね。でも大丈夫よ。和磨さんは研究者として一流だし、何より私のことを一番に思ってくれているもの。白条誠一さんに連れ去られた時だってすぐに助けてくれたわ。」
私が和磨さんが頼りがいのある人だと説明しようとしたら、お父様が被せてきた。
「そうだぞ秋紀君。藤堂君は32歳という若さですでにノーベル賞級の研究成果を発表している。特に血液の代替となるナノマシンについてはすごい発明だ。量産化されれば輸血が要らなくなるかもしれない。貧血だって、白血病だって治せてしまうだろう。
秋紀君はそれに張り合える成果があるのかね?」
鋭いお父様の切り返しに、秋紀ちゃんは握りしめていた拳を下ろして静かに席に座った。その様子をお父様は満足そうに眺める。それから、お父様は場を仕切り直すように咳ばらいをした。
「それでは、改めて確認する。私の娘、六条冬桜子は藤堂和磨殿と婚約し、式は1年後に行うこととする。
この結論を持って本日の臨時会を終わる。」
そうしてお父様が宣言すると、一方的に集会が終わった。秋紀ちゃんはこの場にいるのが耐えられない様子で、真っ先に外へ飛び出して行った。
「秋紀ちゃん、大丈夫かしら……?」
「大丈夫だよ。もう大人だからそっとしておいてあげよう。」
秋紀ちゃんを追いかけようか迷っていると、和磨さんに止められた。和磨さんの言う事も尤もだと思って、私は追うのをやめた。
「それにしても、何が何だかわからない会だったわ。」
この会でしたことは、私と和磨さんの結婚を決定しただけ。身内で済むはずの話なのに、一体この茶番はなんだったのかしら。
「冬桜子、つかれた?」
「ううん。ちょっと頭が付いていけてないだけ。
それより、幹部の方が帰るみたいだから挨拶してくるわ。」
お父様に促されて幹部の方達が疲れた顔で退出するところだった。幹部の方々はお休みの日にお父様に巻き込まれただけなのでしょう。当事者ですらよくわかっていない会に巻き込んでしまったことに娘として申し訳ない。
恐縮しながら幹部の方々を見送っていたけど、お父様の傍若無人な声が聞こえた。
「冬桜子、何をボサッと立っているんだ。早く和磨君を連れてこっちに来なさい。」
お父様の身勝手な発言に、私も頭にきた。
六条の長としてなんでも思い通りになると思っているその態度に腹が立った。
私は生まれて初めてお父様に物申すことにした。




