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006 路地裏にて

 オークを狩り尽くし、正門に帰ってきた頃には夕焼けが降りていた。



 ギルドに向かい、相変わらずオドオドとしたサレンに依頼達成の報告と回収部位を渡したリオンは、





「んじゃ、あたしはちょっくら散歩してくるわ」





 と、ギルドを出て行った。



 残されたシリルは、ふっと笑みを浮かべ、ギルドを後にする。





「ま、またお待ちしておりますーっ」





 出入り口までついてきたサレンの声を背に受けて、シリルは夕焼けに照らされた街を歩く。



 行き交う人々の笑顔や匂い、会話を聞きながら歩き続けていると、とつぜん背後から声をかけられた。





「あ、あの、お兄さん……」





 振り返ると、どこかで見覚えるのある少年がそこにいた。



 シリルと対して変わらない身長ではあるが、まだ幼さの残る十五、六前後の少年は、唐突に頭を下げた。





「あの、ありがとうございました。お兄さんですよね、あの人たちを懲らしめてくれたのは」



「なんのことだ?」



「僕に絡んできた素行の悪い冒険者を、後から同じ目に合わせてくれたって、女の人が教えてくれて……それで、お礼を」



「ああ。そういうこともあったな」





 つい昨夜の、ちょっとしたいざこざを思い返した。





「アレはただ単に、清掃の大変さを知らしめただけだ。後身育成ともいうな。上に立つ者の義務であるからに、礼を言われる筋合はないぞ少年」





 それだけを言い残して、シリルはポケットに手をつっこんだまま踵を返した。





「ありがとうございましたーっ! また来てください、特級冒険者さんっ!」





 そんな声を背に受けながら歩いていると、囁くように女性たちの声が耳に入った。





「シリル様のあの素っ気なくも滲み出る優しさが素敵よね……」



「歳もそんな離れてない子が少年呼びって、年上感出してるところもほんっと尊い」



「ああ……ああ……ああ……」



「きょうもあなた様をお目にかかれたこと、幸福に思いますわぁ」





 ——いつものことなので気にせず歩き続ける。

 彼女たちは擬態がうまい。



 一般人のフリをしてそこら中に散らばっている。



 声の方向に視線を投げたところで、この気味の悪い声の主を見つけられたことは、シリルをもってしても一度もない。




 

「……まあいい」





 今のところ害はない。放っておいても大丈夫だろうと結論付けてからは、特に気にしなくなった。



 ……週末に旅亭へ送られてくる大量の手紙だけは無視しきれないのが難点ではあるが。





「……シリル?」





 声をかけてきたのは、前方から歩いてきたルドラだった。



 食材が溜まった紙袋を腕に抱え、買い物帰りの彼女は反転、シリルの横に並んだ。





「……どこ、行くの?」



「暇を持て余していたところだ。行くあてもない」



「……そう。ならルドラと一緒に帰る?」



「きょうはおまえが食事当番だったな。では帰るとしよう」



「……ん。マグノリアも一緒だったけど、はぐれた」



「探しながら帰るとしよう。心配しなくともすぐに見つかる」



「……ん。あのお飾りメイドのことは全然心配してない」





 辛辣な言葉ではあるが、実に的を射たものだった。



 炊事洗濯家事……何ひとつまともにできない彼女が得意なことといえば、紅茶を淹れることぐらいだろうか。



 メイド服が私服のお嬢様——『ジャガー・ノート』では、それが皆の共通認識だった。

 




「アレはアレで、他に使い道がある。そういう風にはできていないんだよ」



「……じゃあ、なんでメイド?」



「俺の趣味だ」



「……ふぅん。シリル、たまに気持ちわるい」



「俺の趣味趣向にケチをつけるな。俺とて男なんだ、メイドに欲情だってする」



「……じゃあ、あの新入りもそういうえっち目的?」





 リオンのことを指しているのだろう。ルドラは横目でシリルの反応を窺う。





「さあな。正直なところ、俺にもわからん」



「……惚れたんじゃないの?」



「惚れたさ。愛しいと思う。骨の髄まで屈服させてやりたいと思う」



「……よくわからない。とりあえず好きでいいの?」



「そうだな」





 即答するシリルに、ますます混乱するルドラ。



 好きで愛おしいと思うのに、なぜ情欲に関しては曖昧なのか?





「……リオンの、どこが好き?」



「死の際で吼えられるあの気概は美しい。なかなかお目にかかれるものではない」



「……マグノリアの好きなところは?」



「あの冷めた瞳と、胸だ」



「……リオンの二番目に好きなところは?」



「俺を殺すと言ったところだ」



「……んぅ。つまり、わたしたちは体目当てだけど、あの女は体目当てじゃないってこと?」



「そう言われれば……なるほど、そういう風に捉えることができる。ああ、それがいちばん納得がいく。

 ――しかしひとつ訂正させてもらおう。おまえたちの体はもちろん、中身も愛しているぞ」



「……ふぅん?」





 納得のいかないような反応を見せるルドラ。



 微かに浮かび上がる敵意の視線ですら、シリルにとっては愛おしい。





「かわいいな、かわいいぞルドラ。おまえはおまえのままで成長してくれ」



「……また変なスイッチ入った」






 ◆






「で、おまえらあたしになんの用だよ。言っとくが金目の物なんて持ってねえぞ。飛び跳ねてやろうか?」





 喧騒の外。繁華街の隙間にある薄暗い路地裏で、リオンは三人の男に囲まれていた。





「金なんて要らねえよ。俺らの目的はおまえさんだ、新人ルーキー



「まあ、あわよくば金も欲しいところだが……それよりも大事なことがあんだよ」





 目の前の男たちには見覚えがあった。



 それは昨晩、冒険者ギルド内でシリルに赤っ恥を掻かされた三人衆だ。





「忘れたとは言わせねえぞ、昨日のことをよ。俺たちに恥かかせやがって、それ相応の対価はいただかねえと気が済まねえんだよなあ」



「武器買ったら金を払うだろ? 飯代もタダじゃねえ。女をデートに誘うってのにも金が必要だろうが、ああん?」



「俺たちは昨日清掃したからよぅ――って、おまっ、デート誘うのに金払ってんのかよっ?!」



「バーロいま関係ねえだろだあってろよクソがッ!」





 漫才をはじめ出した男たちに呆れた視線を向けつつ、腰元の柄に指を這わせた。



 この場に他の誰かが来る気配はない。死体が三つ転がっていたとして、それほど騒ぎにはならないだろう。リオンが殺したという目撃者もいない。



 さて、どのタイミングで抜こうかと思案しながら、リオンは男たちの漫才に横槍を入れた。





「おい。よくよく聞いてりゃあよ、あたし関係ねえだろ。恥をかかせたのは死神タキシードだろ? ならそっちに行けよ。さっきまで一緒にいたし、まだそこらにいるぜ?」



「はっ、バカ言ってんじゃねえ。俺ら三人がかりで向かったって返り討ちにあうだけだろうがバーカ。その頭はなんのためについてんだ? ああん?」



「できたら最初からやってんだよ、少し考えりゃわかんだろ痴呆女」



「そのどデケエ胸に栄養持ってかれすぎてよぉ……ロクな思考ができてねえんじゃあねえのかよ、新人ルーキーぃ……?」



「そ、そんなに殺されてえかおまえら……ッ!」





 ワナワナと震える手で前髪を掻き上げながら、リオンは口角を痙攣させた。





「イキってんなよパイオツ姉ちゃんよう……俺らは知ってんだぜ? 冒険者なりたてホヤホヤ巨乳だってことをよう」



「俺ら全員が二級だぜ? 要は中堅ってことよ。経験も豊富だぜ? アッチもソッチもよぅ……勝ち目なんてねえぜ?」



「逆に殺されたくなかったらストリップショーでもやって媚びてみせろよ――っておま、金で女買ってる素人童貞のクセにソッチ方向でイキがんな」



「んなっ――だからいま言う場面じゃねえだろアホかッ! 舐められんだろッ」



「遅かれ早かれベッドの上でバレんぞ。そっちの方が恥ずいうえに舐められるぞ。ああこれ経験談な」



「あーわかった。おまえにはぜってえ祝儀渡さねえ。来月の結婚式にも顔出さねえからなおぼえてろッ!!」



「まあ待てよ。ここで童貞捨てればいい話じゃねえか、リーダー」



「……ほう? てか都合の良い時だけリーダー扱いすんな。一番最初は俺からだぞ」





 ジロリと、下卑た視線がまとわりつく。



 リーダー格と思わしき男の狂犬染みた目がリオンの谷間を舐る。


 

 よし、殺そう。



 心の中でそう思った時、すでに鞘から刀は抜かれていた。

 

プロは殺すと心の中で思ったなら、その時すでに行動は終えてるらしいです。

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