妖精の森と鎮魂歌 1
またまた新作を書いたよ、よろしくお願いします。
あらすじ通り叙述トリックをテーマにした作品です。
妖精の森編は比較的わかりやすくを意識して書いたので、あまり難しくはないです。ぜひぜひ感想を頂ければ目安となるのでお願いします。――評価ぽちでもいいのよ?
こういうコメントに効果があるのかちょっと実験してみたり。感想にネタバレ注意できるくらいコメント来ないかな……。
「あるじ様あるじ様。初めての異世界はどんな場所なのかな?」
「ん? そうね――、ホムラならきっと気に入るわよ。なんたって可愛らしい住民しかいない世界ですもの」
私と助手のホムラは箒に乗って夜空を渡っていた。真っ暗闇な宙には星のような世界の輝きが無数に広がる。
「覗き込んで落ちないでね。ここは世界と世界の狭間。落ちたら助けられるかわからないんだから」
「……はぃ」
箒の後ろに座り、私に抱き着くホムラの手に力が増す。さすがに星に対する好奇心は、世界の狭間に落ちる恐怖に負けたみたい。
好奇心は猫を殺す。私の助手が行き過ぎた好奇心でそうなるのは、複雑な気分になるのでやめてほしい。
「――私はあそこの住民が羨ましいです」
「どうして?」
「さあ、どうしてでしょうね……。使われない道具なんて、処分されるだけだっていうのにね」
もう一人の旅の同行者、魔導書のアルアが私の腰でポロっと溢す。
あなたはそうでしょうね。人に使われるために作られた癖に、面倒くさがり屋なんだから
「あなたが怠惰なのは許さないわ」
「奴らが怠けるのは良いと。……なぜ私が許されないのでしょうか?」
「だってあそこの住民は――」
私の答えを聞いたアルアは呆然とし、ホムラは訳も分からずとりあえず笑う。
「魔導書差別ですよ!」
いくら叫んでもここには私達しかいない、誰にも届かないわ。
ホムラの初めての異世界は緑豊かな森でしたとさ。
「――よいしょっと」
大きな箒を空中に停めて、私は地面に「とうっ!」と着地。操縦の邪魔になるからと、結んでいた黒髪を解き、軽く体をほぐす。
振り返るとホムラが一人で降りられないか四苦八苦していたので、私が手を貸して大地に降ろした。
着地ポイントに選んだのは森の中にある、開けた集落らしい場所。ここの中心には一際大きな大樹が根を張っている。ここなら誰かしら住民とすぐに接触ができると考えたのだけど――、さっそく気配があるわね。
「最近の魔女様は箒に乗らないのですな」
この異世界の第一村人発見。見た目で年齢が分かりにくいけど、長生きしてそうな雰囲気。
「これをプレゼントしてくれた私の先生が、『鋼鉄』の魔女ですから。改めて、始めまして。妖精の森の住民さん。私はセラ――『創造』の魔女よ」
おばあさんが驚いている、箒の概念に全力で喧嘩を売っているすちーむぱんく? な鋼鉄の箒バイク『セバス』。
先生が付けた元々の名前がたしか、――『異世界間航行可能 万能魔女箒 黒狼号改』だったかな。
長いのでセバスと私が命名した。先生は技術や知識面は優秀だけど、ネーミングとか美的センスが独特なのを自覚して欲しいものです。
「アルアの中ってどれくらい入るのですか?」
「あれは空間魔法だから、魔力次第でいくらでも入るわよ」
「マスターのバカ魔力なら、限界なんて有ってないようなものですから……」
私はアルアの中にセバスを収納し、口の悪い魔導書の表紙を叩く。
「バカの戯言は聞き流しなさい。ほら、それよりもホムラも挨拶をしたらどう?」
「はい、そうでした! ――初めまして、おばあちゃん。わたしはホムラです。あるじさ、魔女様の助手です」
「これはこれはご丁寧に。私はタマ、この妖精の森でもっとも長生きな妖精です」
日向ぼっこ用に作られた寝床から立ち上がった妖精。その大きさは14,5歳くらいの身長があるホムラよりさらに小さい。彼女が立ち上がるのはいいけれど、その足取りは不安になるほど弱弱しく見てて不安になる。
それでも子供な私の助手と小さな妖精との握手は、微笑ましいを通り越して一種の兵器かしら。ここに先生達が居たら、密かに悶えていたに違いない。
ひっそりと私がアルアにこの光景を残すように命じていると、何かが風を切って近づいてくる音が聞こえた。
「もう長老ったら、体調は大丈夫なの?」
「あらあら、スズも来たのね。あなたもこちらの方々に挨拶なさい」
新しい妖精が私達――いえ、長老の元に急いで駆け寄ってきた。
小さな長老と比べてなお、一段と小さい子供。その二本足で走り寄ってくる姿に、ホムラが目を輝かせていた。
「この人たちは外の魔女様かな? スズはスズだよ! 好きなモノはお昼寝とボール!」
外の世界から来る訪問者は大抵が魔女だ、もしくは魔女の関係者と思って良い。魔法を使う存在は数多あるが、世界を渡れる魔法を使える存在を私は他に知らない。
「初めまして、私はセラよ。こっちは魔女じゃないけどね」
「それじゃあ人に化けてる使い魔さん? 人化の魔法なんて初めて見た!」
スズがホムラの事を人に化けた魔女の使い魔だと勘違いする。魔女が連れているのはアルアのような魔法具か使い魔が一般的だから、ホムラみたいな稀な存在が勘違いされても仕方ない。
「――そんな所ね」
「むー、違うのです。ホムラは動物でも妖精でもないのです」
スズの勘違いを私が肯定しちゃったから、ホムラが急いで否定する。
「セラ様、御用があるのはここの魔女様にでしょうか? それとも使い魔を探しに?」
妖精の長老殿は私達が使い魔の契約を交わしていないことをわかってて、聞いてるわね。私とホムラの眼の色をさりげなく確認してたもの。
「いいえ、使い魔の類は間に合ってるの。今回は『新緑』の魔女へお届け物よ」
「それは丁度良かった。スズ、道案内をしてくれないかい?」
「うん、いいよ」
誰かを呼ぶ手間が省けたと長老のお願いに、スズは二つ返事で了承する。セバスを見て真っ先に来たのだ、好奇心もだけど元気が良い妖精だわ。
「フェイ様の所に連れて行けばいいの?」
「お願いしてもいいかしら」
「もっちろん! スズにおまかせあれ! ――こっちだよ!」
スズは飛び出していった。すばしっこい妖精の彼女に私達が追い付けるはずがないのだけど。
「……すっ飛んでいきましたが?」
予想外な案内人の行動に、喋るのもサボっていたアルアが思わず口に出す。
「――困った子ね」
「ふふ、どうせあの――人が住める家でしょ?」
妖精達は家で暮らさない。お気に入りの場所に雨避けを作って、ふかふかな植物や外から持ち込まれるクッションを敷き詰めて寝床にしているらしい。妖精達のために作られたこの世界は常に春の陽気に包まれ、外で寝るのが丁度いいのでしょう。
そんな妖精の里で家に暮らすのは魔女くらいしかいない。例え違ってもあの子の魔力を追えば辿り着けるでしょうし、子供の道案内としては上出来よ。
「それでもお客人を一人で歩かせるなんて……、魔女様の面子に係わりますのに」
「魔女は皆、自分勝手な生き物よ? 他者からの見え方や評価、まして形式なんて一々気にするもんですか。だから大丈夫よ」
困り顔で苦笑する長老は穏やかな金の眼差しを、一生懸命にスズを追いかけるホムラに向ける。
「――優しい魔女様に感謝を」
「言ったでしょ? 魔女は自分勝手だって」
長老に別れを告げ、私はホムラ達の走って行った道をついていく。
「待ってくださいー! ホムラ達は妖精さんみたいに速くないのですー!」
「――あ! 人間って足が速くないんだったね。いけない、いけない。――ごめんなさい」
そう言いながら急停止を掛けたスズは、振り返り舌を出して謝る。私も最初から子供の失敗に怒るつもりはなく、ホムラはスズのその無邪気な笑顔に脱力していた。
「それじゃあ案内の続きをお願いしてもいいですか?」
「うん!」
私が追い付く頃には二人は仲良く手を繋いで、私に手を振っていた。それから反省したスズは私達の速度に合わせて案内する。
「ここの妖精さんは普段は何をしてるのですか?」
「普段? お昼寝したり遊んだりだけど?」
ホムラがじっくり観察するまでもなく、周囲にはじゃれ合ったり、すやすや熟睡する妖精が点々と居る。
「――! ご飯はどうしてるのですか?」
「この里の近くにご飯が溢れる木があるんだよ。気になるなら案内してあげる!」
ホムラは驚いて私の顔を見る。ここの妖精はマナの生産地の維持と使い魔候補が仕事みたいなものだから、スズの言葉が嘘というわけではない。
私はホムラの確認に頷き、左にかけた魔法具の片眼鏡を彼女に貸し出す。
「だから怠け者のアルアが羨んでたのよ」
自然が生むマナや魔力を見通す魔法の掛かった片眼鏡は、ホムラにこの世界の本質を少しだけ魅せる。
「凄いです! これがあるじ様が見てる世界!?」
「魔女でもただの眼じゃマナは見えないわ。マナとは本来感じ取るモノよ」
それは森の自然から生まれる七色のマナ、それが少しずつ空に上がっては宙に消えていく。妖精の里の名に恥じない幻想的な光景であった。
「妬ましいです。ええ、妬ましい……。今からでも私を妖精に作り変えてはくれませんかね――」
「どっちにしろ使い魔なら使われる存在でしょ」
「社畜なんて嫌です。使い魔にも魔法具にも労働組合はないのですか。……ぶつぶつ」
「知らない言葉を話されても私達には理解できないわよ?」
始まりの魔女――『創世』の魔女は、何を考えてアルアなんか創ったのか。もう少しまともな魔導書にならなかったのかしら。
私は頭の中でアルアを創った魔女に疑問を投げかける。こんな性格だから他の魔法具から倉庫を追い出されたんでしょうに。
「魔女様、到着したよ?」
「あら、そのようね。ここまで案内してくれてありがとう。これはお礼よ」
「――! やったー」
私の二つ名の所以たる創造魔法で、スズに即席で遊び場兼家をプレゼントする。すぐにそこら中から仲間が集まってスズをもみくちゃにするけれど、彼女はそれも楽しそうにしていた。
「あなた達、仲良く遊びなさいね?」
「「「「はーい」」」」
「妖精は魔女とは違うみたいですね」
「あなたもあそこに投げ込んであげましょうか?」
「繊細な魔導書があの中に紛れ込んだら、バラバラな古書になってしまいますよ」
「あなたが余計を言うからでしょ」
魔女ならじゃれ合いじゃなくて、魔法の打ち合いになる事は否定しない。けどわざわざ、そんな分かり切った事を言う必要はないのよ。
「ホムラもいくわよ?」
「……はい、あるじ様」
戯れる妖精に飛び込みたそうなホムラの首根っこを掴んで、私は魔女の家の前に立つ。
二度読める小説を目指すぞー。