2.社会不適合者の転生
◆
と、思った矢先、セイヤはふと目が覚めた。
胸は痛く無いし、服も完全に変わっている。
中世的な衣装に、中世的な剣を腰につけ、彼は噴水広場の真ん中で突っ立っていた。
「――ん?」
見たことのない風景に驚くが、彼はここで大体の状況を把握する。
あぁ、これは夢だと。
「あら、そこにいる旅人様! どうしてこんなところで一人でいらっしゃるのですか?」
と、ケモ耳の娘が突然セイヤに話しかけてきた!
紫色のリボンを耳に括り、なんとも可愛らしい犬人間。
「あ、えっと……ここは日本ですか?」
「ニホン? 聴き慣れませんねそんな所。ここは、ハルハルの街ですよ」
ケモ耳娘がそう答えると、彼女はセイヤの手をギュッと握ってくる!
「えっ、なんすか!」
「あなた、見たところまだ『ギルド』に入ってませんよね? 首に紋章がないようですし」
「紋章? あぁ、多分俺はギルドには入ってないと思う」
セイヤはこの世界観にどうにか馴染めるように色々と話を聞いてみる。
「では、私たちのギルドに向かいましょう!では、『適正検査』をしてよろしいですか?」
といい、ケモ耳娘はステッキを腰から取り出した。
「え、適正検査?」
「はい。私たちのギルドは『魔術師特化』のギルドなんです。とりあえず、適正検査をしますね」
――と、ケモ耳娘は「ちちんぷいぷいぷーいぷい!」と、ステッキでセイヤの右手をコツンと叩いた!
「いたっ!」
セイヤはチクリと痛む右手の甲を見る。
と、手の甲は少し赤くなり、ピリピリとした痛みが走った。
「……はぁ」
ケモ耳娘はため息をつき、セイヤをギッと睨みつける!
「――まさか、私を茶化してますか?」
「え、何が?!」
セイヤは急に態度が変わったケモ耳娘から離れようとするが、
「――この薄汚い騎士風情が!」
と、ケモ耳娘は回し蹴りでセイヤを思いっきり蹴飛ばしたのである!
「あばっ!」
ぴゅーと飛んで行き、セイヤは噴水の中にザバン!
「ここは『魔術師採用』の会合ですよ! なぜここに騎士が潜伏しているのですか! 私たちを冷やかしに来たのか、スパイしに来たのかどっちだ!」
ケモ耳娘はファイティングポーズをとり、セイヤを牽制する!
「な、なんだよ! 俺は騎士だってのか!」
「そうです! 適正検査をしたでしょう! 魔術師で攻撃して、あなたへのダメージは半減した! つまりあなたは騎士であることは明白です!」
「そ、そうなのかよ! だって僕、まだここに来たばっかだし、職業とかなんとか言われても!」
と、セイヤはびちょびちょのまま噴水から飛び出ると、すぐさまその場から走り去る!
「魔術師の皆さん! 騎士が我々のスパイをしにやってきました! やっつけましょう!」
と、ケモ耳娘が合図を出すと、セイヤの後方から火炎弾が何発も飛んでくる!
「ひゃー! なんだよこれ! どーなってんだよ!」
◆
――社会不適合者のセイヤは、異世界に転生したとしても不適合者であった。
真っ黒焦げになったマントを脱ぎ、長靴に入った水を脱いで掻き出す。
「なんなんだよ。転生してきてすぐこれって、僕はどんだけ社会不適合者なんだ」
呟きながら、焼き焦げたマントを折りたたんでゴミ袋の上に置いた。
「うえ、寒い! でも、これ以上脱いだら変質者とか言われてまた追いかけられる羽目になるし……」
セイヤは震えながら誰もいない路地を歩いていく。
――ただの一本道。
逃げ場所はどこにもなく、こんなところで強盗なんかに遭えばもうどうすることもできない――。
そんな、嫌な予感がしたセイヤは、どうにかこの薄暗い路地から出ようとした矢先。
「おうおう、ここに居たか騎士さんよ!」
と、真上から声が聞こえた!
途端、上空から三人の男が降りてきたのである!
「うわっ! もう本当にどうなってんだこの異世界!」
「ごちゃごちゃうるせえ! 出すもん出せよ!」
と、重厚な鎧で身を包んだ男たちがジリジリとセイヤを壁に追いやる!
「てめぇの素性は知ってるさ! 騎士らしいな! ちなみに言うが、俺たちは重装兵だ! 言いたいことは分かるよな?」
「分かるか! ってか言うが、僕はお金は一円も持ってないぞ!」
「なんだイチエンって? どうでもいい! 金目になる物を渡せ!」
――と、一番ガタイの良い男がセイヤの胸ぐらをグッと掴む!
「くっ! やめろ! 本当に金はないんだ!」
「だったら、その腰につけてる高そうな剣を貰ってやるぜ!」
「……この、やめろぉ!」
セイヤはお得意の膝蹴りを大男の顔面にぶっ放った!
――瞬間、大男の体は宙に浮き、上空4メートルほど吹き飛んだのである!
「あがっ!!」
「「あ、あにきっ!」」
上空に飛んで行った大男は回転しながら地面に叩きつけられ、そのまま何も言わなくなってしまう!
「え、ええっ! 僕ってこんなに強かったっけ?!」
セイヤは自分の手を見ながら強さを確認する。
が、特に今までとは何も変わった様子はない。
「――嘘だろ、まさかあのケモ耳の魔術師が騙してたってのか!」
強盗の一人が大男を担ぐと、
「間違いない! コイツ、騎士じゃない、格闘家だ! こんな相性の悪い奴なんか相手にしてらんねぇ! 逃げるぞスタコラ〜!」
もう一人の強盗もボスを担ぎ、そのまま路地の奥の方へと消えていった。
そして、取り残されたセイヤ。
「さっきから、魔術師だの、騎士だの、格闘家だの。一体なんの話なんだ?」
セイヤはぽかんとした顔で消えていった強盗たちを眺めていると――。
「――ほう、君は魔術師にも重装兵にも適正があるのか。なるほど、中々面白い人間が他所から来たものだ」
と、セイヤの背後からまたも声が!
「っまた盗賊か!」
「盗賊とは、また愉快なことを言う。私のどこが悪に見える?」
セイヤは振り返ってみてみると、その女は剣を地面に突き刺した。
白銀の鎧に身を包み、黒いストレートヘアが美しく風で舞う。
二枚の翼が背後から覗き、腰にもう一本の巨大な剣を帯刀する。
その姿は、まさに天使のそれである。
「私の名はゼルエル。異天から舞い降りた至高物、それが私である!」
「ゼルエル……? あ、僕の名前は適豪誠哉です」
「テキ・ゴウ・セイ・ヤ? 長い。どこで名を切る?」
「あ、セイヤでいいです」
セイヤはあまりにも美人な女性の登場で少しマゴマゴする。
――腹回りがピチッとなっているのがセクシーで、エロいのである。
「では、セイヤ。ここで話すのもなんだ。ぜひ私たちのギルドに来るがいい。心配せずとも、あのケモ耳娘のように水瓶の中に落としたりなどせぬ」
ゼルエルはそう言うと、セイヤの方に向けて手を差し伸べる。
「――悪じゃないってなら、別についていっても良いっすけど。僕のことを食べようとしてるなら、少なくとも美味くはないっすよ」
「何?! 私がお前を食う? はっはー! 本当に愉快な奴だ!」
と、ゼルエルはセイヤの肩をグッと寄せると、そのまま路地を歩いて出ていくのだった。
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魔術師
適性度
騎士 ★☆☆☆☆弱点
重装兵 ★★☆☆☆準弱点
格闘家 ★★★★☆準強手
銃撃手★★★★★強手
魔術師★★★☆☆等倍