第7話 告白と決着
前回が少し短過ぎたと思いましたので、今回長めに書いてみました
現状まだ作業に慣れていないため、思考錯誤の段階です
読みづらい時があるかもしれないので遠慮なくご意見お寄せください
では、本編どうぞ
奴との距離が徐々に近付く。
俺はせめてもの抵抗として、綾瀬の前に飛び出し手を広げ近付けさせまいとするが。
「貴様は、この小娘の後だ」
何か呟いたと思えば、またしても腹を蹴られる。
何度も人のこと蹴りやがって。
また数メートル程飛ばされてしまう。
俺は蹲ってしまうが、目だけは奴のことを捉え続ける。
そして奴は綾瀬の目の前で止まる。
何をする気だ、一瞬そう考えるがすぐに奴のやろうとしている事を察する。
「やめろ…綾瀬…に…逃げろ」
もはや声も満足に出ない。
綾瀬は後ずさりをすることしかできない。
完全に恐怖に飲まれてしまっている。
奴がこちらをチラッと一瞥し、ニヤリといやらしい笑みを浮かべる。
グランベルは、綾瀬の首元へとその鋭く伸びた犬歯を突き立てる。
「あっ、あぁああ、い、いや、いやぁあああぁぁ」
途端に、綾瀬の叫び声が響き渡る。
血を吸うたびにグランザムの皮膚が再生していく。
「クソ野郎がぁぁ、綾瀬から離れろ!!おい、黒焦げ野郎!!」
こんな罵声を浴びせたところで、言葉が通じない以上意味がない。
綾瀬が苦しんでいるというのに俺は見ていることしかできないのか?
そんな無力な自分が情けなくて、許せなくて、煮えたぎるような怒りを覚える。
が、一番許せないのはグランザムである。
激しい怒りと尋常じゃないグランザムに対する殺意により体の限界を超え無理やり動かす。
俺は近くに落ちていた石を怒りのままにグランザムに投げつける。
その石は、想像以上のスピードで飛び、グランザムの顳顬を貫く。
真っ赤な血しぶきを上げその場に倒れるグランザム。
倒れそうな綾瀬の元へとすぐに駆け寄る。
息が荒い、熱が出ているようだ。
そういえば、俺もこいつに噛まれた後は、息が乱れ体が熱かった。
まさかこいつの歯に何か毒でもあるのか?いや、唾液のせいか。
漫画の知識ではあるが今は信じてみよう。
「すまん」
と言って奴の歯型が残る綾瀬の首元から唾液を吸い出す。
吸っては吐き出しを数回繰り返す。
なんとか吸い出しに成功した。
息が正常になり、熱もだいぶ下がった。
安心し、綾瀬を地面に寝かせる。
だが気を抜いた瞬間、背中に激しい痛みを感じ全身へと駆け巡る。
綾瀬の顔に俺の血が飛び散る。
後ろを振り向くと、俺の背中に剣を突き立てるグランザムがいた。
「貴様は、何度私の邪魔をする気なのだ」
痛みに負け地面に倒れこむ。
くそ、こいつは何度殺せば死ぬんだよ。
爆発の直撃を受けても、顳顬に石がめり込んでもこいつはまだ死んでいない。
やばい、また綾瀬の血が吸われてしまう。
そうはさせまいと背中に突き刺さる剣を引き抜きグランザムの背中から心臓めがけ突き刺した。
しまった、綾瀬の顔に次はグランザムの血が飛び散る。
「そう簡単に血を吸わせてやるわけないだろ」
「キ、キサマァア」
グランザムもこれ以上ないという程の怒りの表情を浮かべる。
そんなことはもはやどうでも良い。
もうこれ以上は生きれそうにない、幾ら何でも血が流れすぎた。
どうせ死ぬのならこいつも道連れにしよう。
「そんなに怒るなよ。お互い様だろ。ここまでやりあったんだ。最後まで付き合えよ」
「貴様何をする気だ」
何故か今更ながら奴の言葉が理解できた。
少し驚いたがもはや死ぬだけだ。すぐ冷静になる。
「何、俺と一緒に地獄に落ちようぜって言ってるだけだよ」
「まさか、ふざけるな!このグランザム様にそのようなことをして許されると思っているのか。地獄など貴様一人で行け」
察しが良くて助かる。
それに、こいつもこちらの言葉も理解できたようだ。
そしてこいつの名前は、グランザムというらしい。どうでもいいが。
グランザムのことは無視し、綾瀬に向かって、
「ごめんな、綾瀬に怪我させちまったし、顔汚しちまったし守りきれなかった。本当にごめん。どうやら俺はここまでみたいだ。勝手だけど綾瀬は俺の分まで生きてくれ」
聞こえてないと思いながらそう話しかけると、
「だ、ダメ、だ、よ。一ノ瀬くんも生きてくれなきゃ許さないんだから」
薄っすらと目を開け笑顔で綾瀬は言う。
俺は、自然と涙が出てきた。
好きな子に生きて欲しいと言われ素直に嬉しくなった。
俺はまだ伝えなければならないことがあった。
「綾瀬、俺伝えたいことがあるんだ。俺、ずっと綾瀬のこと大好きだったんだ」
ついに言えた、死ぬ寸前でなければ言えないなんてとんだヘタレである。
「私も一ノ瀬くんのこと好きだよ。大好き」
一瞬驚いた顔をした綾瀬だったが笑顔で好きと言ってくれた。
嬉し過ぎて涙が溢れて止まらない。
「ありがとう」
俺は、最後に一言そう言ってグランザムに剣を突き刺したまま穴へと一直線に突き進む。
「やめろ、貴様止まれぇぇぇ」
グランザムが叫ぶが構わずに穴の中へと飛び込んだ。
「待ってよ、一ノ瀬くーーん」
綾瀬が穴の淵まで来て叫ぶ声を背中で受けたまま、穴の中を落ちていく。
だんだんと俺を呼ぶ声が遠くなっていく。
中は真っ暗であり、それこそ本当に地獄へと繋がっていそうである。
だが、グランザムもそう簡単には落ちてくれない。
どうにか地上に戻ろうと背中から歪な形の羽を生やしなんとか生き残ろうとする。
最初に見たときと形が違う。
よく見ると焦げた跡が残っている。
爆発の時、羽を犠牲にして体を守ったのだろう。
飛行能力は落ちているみたいだが、地上に戻られると厄介である。
俺は、両脚でグランザムの腰をがっちり掴み体を固定する。
そして背中の剣を引き抜き、右側の羽を切り裂く。
「ぐっ、何をする」
呻き声を上げグランザムはバランスを崩す。
左側の羽も切り裂こうとするがグランザムが肘打ちを放つ。
俺の右腕に直撃し、剣を落としてしまう。
剣は無音の暗闇へと吸い込まれていく。
武器を失い、もう一度攻撃を受けたら落ちそうである。
ならばと、最後の抵抗としてグランザムの首筋に噛み付いた。
俺は力一杯に血を吸い始めた。
「貴様ヤメろ、私の血を吸うな。力が私の力が。ぐ、ぐわぁぁぁぁ」
かなり効いているようだ。
猛スピードで壁にぶつかり、俺を引き剥がそうとする。
「そんなに嫌なら全部吸ってやるよ」
俺はさらに力を込めた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ、くっ、ヤメろと言っているのがわからんのか。このままだと貴様も死ぬのだぞ」
「言っただろ、もう死ぬのも時間の問題だから、お前にも付き合ってもらうって」
そう言い放ち、吸血を再開する。
何故かさっきよりも力がみなぎっている。
そのため力を入れすぎてしまい、首元の肉を引きちぎってしまった。
勢いよく噴出する紅い血。
慌てて首元を抑えるグランザム。
しかし、一向に血が止まる気配はない。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁよくも、ぐあぁあぁ」
断末魔のような呻き声を上げると、ついに羽も動かすことができなくなったようだ。
真っ逆さまに俺たち2人は穴の底へと落ちていく。
俺はグランザムから離れる。
血を流し過ぎたらしい。
グランザムは、どんどん乾涸びていく。
「くぅああああ、貴様のことは絶対に許さんぞ、人間」
目を見開き、血眼でこちらを睨みつけながらグランザムは声をあげる。
「俺は、一ノ瀬勇気だ。グランザム」
「一ノ瀬勇気…その名絶対に忘れんぞ!!必ず私は貴様を殺しに行くかr 」
グランザムは最後まで言い終えることなく塵となり消えていった。
俺はそれを見届けると、そっと目を閉じる。
次は俺の番なのだと、走馬灯のように綾瀬の顔を思い出す。
最後に告白できてよかった。
好きと言えて、しかも綾瀬も好きといってくれた、大好きとも言ってくれた。
それだけで幸せな気持ちになる。
残念なことにその先を見ることはできなかったけど、とても満足している。
勇気は最後に笑顔を浮かべる。
15年という短い人生だったけど、とても幸せな人生だったとそう心から思う。
そして、暗く深い穴の底へと静かに落ちていくのだった……
それから10年後……
この街には、未だに大穴は塞がれることなく存在している。
街はこの10年で復興を果たしていた。
街の人々は、たまに出現する悪魔たちに怯えることもなく元の生活を取り戻していた。
しかし、世界はまだ知らない。
10年前の出来事は、ただのお遊びに過ぎなかったのだと。
そして、1人の男の帰還により、今運命の歯車が動き出す。
今回でようやく前置きのような話が終わりました
次回からは、新編開幕です
是非読んでください!!!!