第6話 恐怖と再生
信じたくもない。
あれで死なないなんて。
これ以上の手など何も思いつかない。
漫画はあくまで想像でしかないのだ。
そもそも、日の出ているうちからグランザムは行動していたのだ。
日の光が弱点というのも怪しい。
だが、当たっている事もある。
奴は血を吸おうとしたのだから、その点は当たっているのだ。
そして、一番当たって欲しくないところが事実だったのだ。
ドラキュラは不死身であると。
考えてみれば、俺が最初に殴りつけた時ついた傷もすぐに治っていた。
これはもう詰みかもしれない。
今出来るのは出来るだけ遠くに逃げる事である。
奴を殺せない以上逃げるしかないのだ。
しかし、現実は残酷である。
先程とは、逆に体が動かない。無理に動かしすぎたか。
というか今までこの傷で動けていた方が異常だ。
このままでは2人ともなすすべなく殺されてしまう。
それだけはダメだ、綾瀬だけはなんとしても守り抜くと誓ったのだから。
「綾瀬!ここは逃げてくれ、早く!!」
しかし、綾瀬は怯えきっていて、俺の声が聞こえてないようだ。
それでも俺は綾瀬に呼びかけるが、反応がない。
段々と黒焦げになったグランザムが近づいてくる。
爆発の中心にいたグランザムは死にはしなかったが相当危険な状態まで陥っていた。
「血が足りない、血を吸わねば……」
ドラキュラも完全なる不死ではない。
腕を切り落とされようが、心臓を潰されようが大抵のものは完全再生する。
腕はまた生えてくるし、心臓だって再生する。
しかし、その全てのエネルギー源は血液である。
必要以上に血液が不足した状態で大怪我をすると、再生するためのエネルギーが確保できずに体が朽ちていく。
今回グランザムは、この世界に来てまだ一度も血を吸っておらず、吸おうとしたところで勇気に邪魔されていた。
つまり、元々のエネルギー量が少なかったのである。
その状態で粉塵爆発に巻き込まれ、全身に大火傷を負い、内臓まで焼かれてしまった。
内臓の再生を優先させたため、火傷の治癒まで手が回らなかったのである。
死体からでも吸血は可能なのだが、爆発の超高温により全て炭とかしていた。
「くそ、忌々しい人間である。いたぶってなどいないですぐに殺しておくべきだった。やはり奴は危険であったか」
すぐにでも殺してやりたいが、まずは回復を優先させる。
グランザムの視線の先には勇気と綾瀬が居る。
勇気を噛み殺してやりたいが、自分をここまで追い詰めた人間であるため万全の状態で殺すことにする。
吸血は、綾瀬から行うことにした。
どうやら恐怖からか動けないでいる。
更に、勇気もその場に座り込んでいる、体に力でも入らないのだろう。
あれだけ無茶をしたのだ体が動かないのも当然である。
思わず、口元に笑みがこぼれてしまう。
神など信じてなどいないが、どうやら今神は私に微笑んでいるのだろう。
グランザムは今、綾瀬へと襲いかかる。