第5話 爆破と絶望
俺はまず店内に入ってから行ったのは、グランザムを誘導するための足跡を残す事である。
ドラキュラは基本的に夜行性であるとされている為、暗闇でも目が効くのではないかという事だ。
なので、足跡が残っていれば迷わずそれを追うはずである。
店の真ん中辺りまで、足跡を残しておく。
次に、できるだけ多くの小麦粉を用意する。
片手での作業なのでかなりやりずらい。
手間取っていると足音が近づいて来た、どうやらグランザムが来たようだ。
もう少し準備をしたかったのだが、これ以上は無理のようだ。
小さく舌打ちをし、身を潜める。
グランザムは、ためらう事なく店内へと入ってくる。
かなり舐められているようだ。
「チッ、舐めやがって。今に見てろよ」
小さく呟く。予想通りだが頭に来るな。
そして、思った通りに暗闇でも目が効くらしく足跡を追い始めた。
まずは成功と言える。
このまま外に逃げることもできるが、すぐに追いつかれるだろう。
逃げ出したくなる気持ちを押し殺し、作戦を続行する。
小麦粉の袋に切り込みを入れ、グランザムめがけ投げつける。
小麦粉を撒き散らしながら飛んでいく。
グランザムは飛んできた小麦粉を剣で切り裂いた。
袋が破れ、中から小麦粉が飛び散り空気中に漂う。
手間が省けて助かるものだ。
だが奴もただ黙っているわけではない。
俺は投げた後移動しているのだが、元いたところに向かってグランザムが剣を振るう。
すると、商品棚が音を立て崩れ落ちる。
斬撃とは本当に飛ぶものなのだな。
純粋にそう思った。当たるのはやばいとも思ったのはいうまでもない。
それに今のは当てる気がなかったようにも思える。警告の意味もあるのだろう。
だからと言って辞めるはずもない。
その後も小麦粉を投げつけては逃げるを繰り返す。
が、とうとう小麦粉がなくなった。
「そろそろいいかな」
そう考え、俺は気付かれないように音を殺し破れた窓の辺りまで移動する。
移動中に何か言われていたが、例のごとく意味がわからないのでスルーである。
グランザムはあの場から動く気配はない。
あそこから俺を追い詰めている気にでもなっているのだろう。
勿論俺もグランザムが動き回らないように小麦粉を投げ回っていた。
作戦通りである。後は仕上げをするだけだ。
俺は、グランザムに向かって防犯用のカラーボールを投げつける。
グランザムは、飛んでくるのは小麦粉であると脳裏に焼き付いているはず。
迷わずに斬り捨てる。
だが、中から飛び散る染料が目に入った。
思わず目を瞑ってしまう。その隙を逃すまいとすかさずスマホを投げる。
これは当てるためではなく、スマホのライトを使った目くらましだ。
ずっと暗闇にいたのだから急な光には弱いはずだ。
案の定、グランザムは薄っすらと開いた目の前にかざし一瞬勇気が視界から消える。
勇気は窓から外へと出る。
そして、スーパーへと向き直ると手に持つロケット花火にライターで火をつける。
「じゃあな」
一言そう呟くと花火は店内へと一直線に飛んでいく。
直後にズドンと大きな音を立てスーパーが大爆発を起こし、勇気は後ろへと吹き飛ばされる。
勇気が起こしたのは、粉塵爆発である。
漫画で読んだだけの知識だったが、上手くいったようだ。
しかし、予想外だったのはその威力である。そうぞの10倍は威力が強かった。
爆発と同時にスーパーの屋根が吹き飛び、オレンジの炎に包まれ、天を衝くようなキノコ雲が出来た。
更に、周りの建物も吹き飛ばし、地震にも似た地響きが鳴る。
音を聞きつけてか綾瀬がこちらに向かい走って駆けつける。
「一ノ瀬くん!今すごい音したけど何があったの!?」
かなり驚いた表情で顔を近づけてくる綾瀬に、
「いや〜、あのドラキュラを倒すためには、爆発くらいしなきゃなって思って爆破したんだけど、思ったより威力が強くてね」
と目を逸らしながら顔を隠すように応える。
「馬鹿じゃないの、なんでそんな危ないことするのよ!」
そう怒られてしまった。
「ごめん、てか俺も逃げろって言ってたよな。なんで逃げてないんだよ」
俺も少し反論した。
「一ノ瀬くんを追いて行けるわけないでしょ。こんな遠くまで飛ばされてて探すの大変だったんだから」
と、またしても怒られた。どうも俺は、綾瀬には頭が上がらないらしい。
だが綾瀬が無事だったのならそれでいい、今は心から思う。
今はこんな会話が出来るだけでもとても幸せに感じる。
このままこうしていたい、そう思う。だがここに留まるのはまずい。
またいつ、穴から悪魔のようなものが出てくるかわからない。
「綾瀬、ひとまずここを離れよう」
そう綾瀬に向かって言うが、綾瀬はこちらを見ていない。
その顔は、目を見開き口元を手で押さえ、その表情は怯えているようだった。
まさかと思い俺も彼女と同じ方向を見る。
「嘘だろ……」
思わずそう呟いてしまう。
燃え上がる炎の中に立ち上がろうとする影が映る。
グランザムはまだ死んでなどいなかった。
粉塵爆発については、ネットの情報を参考にしました。
僕自身化学は詳しくないので偉そうには言えないのですが。
実際に、実験中の事故で死亡した方もいらっしゃるとのことなので、
絶対に真似しないようお願いします。